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掲載:2025年06月05日更新:2025年06月05日

2025年開催|大阪・関西万博の会期後のパビリオンは?CLTパネルを含む建材の再利用の仕組みを解説

万博の「パビリオン」とは、各国や企業、自治体が出展する展示施設のことで、最新の技術や文化、理念を伝えるための空間です。2025年の大阪・関西万博では、こうしたパビリオンに環境負荷の少ない素材を採用する動きが広がっており、解体後の再利用まで見据えた設計が注目されています。

なかでも、木造で再利用がしやすいCLTパネル(直交集成板)を使った日本館は、その象徴的な存在です。パビリオンが、次の社会に資源としてつながる建築のあり方が、万博をきっかけに広がろうとしています。

1.大阪・関西万博のパビリオンとは?その特徴と狙い

万博における「パビリオン」とは、参加国や企業、自治体などが設計・建設し、それぞれの文化や技術、社会的ビジョンを表現するための展示施設です。2025年に開催される大阪・関西万博でも、世界各国が独自のテーマを掲げ、個性豊かなパビリオンが次々と建設されています。

なかでも注目されているのが、環境に配慮した木造パビリオンや、会期後の再利用を前提とした設計です。本章では、パビリオンの役割と歴史的背景、大阪・関西万博ならではの特徴や狙いを見ていきます。

パビリオンとは何か?万博建築の役割と歴史

「パビリオン(pavilion)」は、本来「仮設の建物」や「展示館」を意味する言葉です。万博では、各国が自国の文化、先端技術、社会ビジョンを世界に発信するための拠点として設けられ、建築そのものが国の名刺とも言える役割を果たしてきました。

特に1970年の大阪万博では、太陽の塔やソ連館、アメリカ館など、印象的なパビリオンが数多く建てられ、それぞれが時代の象徴となりました。2005年の愛・地球博や2010年の上海万博においても、持続可能性や地域性を重視した設計が見られ、会期後の再利用が検討される流れが少しずつ生まれてきています。

パビリオンは、万博そのもののテーマや時代の価値観を体現する建築的メッセージなのです。

大阪・関西万博のパビリオンが持つサステナブルな狙い

2025年の大阪・関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマで、パビリオンの設計にも環境配慮と持続可能性が強く求められています。特に注目されているのが、建築資材の再利用や、解体後に別の建築物へ転用できる構造設計といった取り組みです。

中でも象徴的な存在が日本館です。木材を用いた軽やかな外観の背後には、CLTパネルという再利用可能な木質素材が活用されています。このパネルは分解しやすく、会期終了後には全国の自治体や企業などに移設・再使用される計画が進行中です。

従来の万博建築はイベント終了後に解体される消耗品として扱われがちでしたが、大阪・関西万博では「未来につなぐ建築」としての位置づけが明確です。パビリオンが一時的な建築にとどまらず、資源として循環していくことが、今回の最大の特徴と言えるでしょう。

2.CLTパネルとは?大阪・関西万博でも注目される建材

パビリオンの再利用を支える素材として、2025年の大阪・関西万博で注目を集めているのが「CLTパネル」です。木材を重ね合わせて接着した厚みのあるパネルで、強度・断熱性・加工性に優れ、現代の木造建築を支える柱の一つとなりつつあります。

この章では、CLTパネルの基本的な特徴と建材としての魅力、大阪・関西万博での活用事例や再利用の展望を紹介します。

CLTパネルの基本と建材としての強み

CLTパネル(Cross Laminated Timber)とは、木の板材を繊維方向が直交するように積層し、接着してつくられた厚型パネルです。構造用合板と似ていますが、厚みと剛性が大きく、建築用の「壁」や「床」としても使用できる点が特長です。

最大の利点は、その強度と軽量性のバランスにあります。鉄骨やコンクリートと比べて軽く、それでいて耐震性が高く、加工もしやすいため、施工のスピードアップにも貢献します。また、木材であるがゆえに断熱性や調湿性も高く、室内環境を快適に保ちやすいという利点もあります。

さらに近年では、森林資源の循環利用という観点からも注目が集まっており、CLTパネルの活用は脱炭素社会の実現に向けたキーマテリアルとして位置づけられています。こうした背景から、公共施設や集合住宅への導入が進む中、大阪・関西万博という国際的な舞台でも採用が進められているのです。

大阪・関西万博パビリオンでの活用例と設計の工夫

大阪・関西万博のパビリオンで特に注目されるのが日本館の設計でのCLTパネルの活用です。建物全体が約280組・560枚のCLTパネルを連ねた構造で成り立っており、まるで巨大なドミノが並ぶような印象的な外観をつくり出しています。

この構成は、解体しやすく再利用しやすいというCLTの特性を最大限に活かしたものです。接合部や基礎部分にも分解可能な仕組みが導入されており、会期終了後には各パネルを部材単位で自治体や企業に提供できるよう整備されています。

また、CLTパネル自体の加工も最小限に抑えることで、再利用時の汎用性を高めている点も見逃せません。こうした設計の工夫は、木造建築における未来を見据えた取り組みとして、国内外の建築関係者から注目されています。

参考:Japan Pavilion(2025年大阪・関西万博 日本館事務局)

万博パビリオンの再利用はどう進む?CLTのその後に注目

CLTパネルをはじめとする万博パビリオンの建材は、会期後にどこへ行くのでしょうか。2025年大阪・関西万博では、実際に資材の活用を希望する自治体や団体とマッチングする仕組みがすでに立ち上がっています。

建材の再利用はどう進む?国のマッチング制度とその仕組み

大阪・関西万博では、CLTパネルなどの建材を会期終了後に再利用する前提で設計されたパビリオンが複数存在します。その動きを支えるのが、国土交通省・経済産業省が支援する「ミャク市!」です。

この仕組みは、万博の解体に伴って発生する資材を使いたいと考える自治体・法人・教育機関などが、事前に登録・申請し、建材の提供を受けられるようにするものです。資材の種類・数量・状態・提供時期などの詳細がWeb上で公開されており、利用者は目的に合った資材を選び、スムーズに活用につなげることができます。

とくに日本館で使用されたCLTパネルは、分解性に優れ、木造公共施設や福祉拠点、地域の交流施設などへ移設・転用される計画が進められています。これは資材の廃棄を減らしながら社会に価値を還元する新たな流通の形といえるでしょう。

参考:万博サーキュラーマーケット「ミャク市!」(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会)

再利用の活用先と社会的インパクトの広がり

万博パビリオンの建材再利用は、構造材にとどまりません。「ミャク市!」に掲載されている資材リストには、トイレユニットや洗面台、照明器具、建具などの設備機器も含まれており、これらも希望する自治体や団体に提供される仕組みとなっています。

例えば、ユニット型トイレは解体後すぐに再設置できるため、災害時の仮設施設や、地域のイベント会場、公園トイレなどへ転用しやすいのが特長です。こうした生活インフラに直結する資材が再利用されることで、資源の有効活用だけでなく、地域の課題解決にもつながります。

CLTパネルのような木造部材も、仮設校舎や図書館、集会施設として再構築されるケースが想定されており、再加工なしで転用できる利便性が評価されています。解体=廃棄ではなく、解体=次の使い道へという考え方が、循環型建築の新たなスタンダードとして定着しつつあるのです。

こうした取り組みが社会に広がることで、「建築資材のリユース」が一部の実験ではなく、全国的なムーブメントへと成長していく可能性があります。

まとめと今後の展望

2025年の大阪・関西万博では、各国や企業が建設するパビリオンが未来社会の縮図として注目を集める一方で、それらの建築が終わった後にどうなるかにも正面から向き合っています。再利用を前提とした素材や構法が採用され、実際に国が支援するマッチング制度を通じて、資材の再活用が始まっています。

このような再活用の仕組みは、サステナブル建築の試みではなく、「建てて終わりにしない」という新しい建築文化の始まりともいえるでしょう。

大阪・関西万博のパビリオンは、会期が終わっても形を変えながら社会の中で生き続け、その循環の発想こそが、これからの建築とまちづくりに求められる視点なのかもしれません。





著者(長谷川裕美)プロフィール

建築・インテリアの専門学校卒業後、設計事務所や住宅メーカーに勤務。
現在は建築関連のライターとして活動中。
常に変化する建築業界の話題を丁寧にお届けします。




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