建築費が高騰する理由と、建設業界への影響・今後の動向
物価の上昇が続く中、建設業界では建築費の高騰が問題視され、市場に大きな影響を与えています。国土交通省が発表した2024(令和6)年の「建築着工統計調査報告」によると、非居住用建築物の着工床面積は39,200千㎡で前年より10%近く減少しています。
しかし、工事費予定額は前年より4.3%ほど増えており、このことからも建築費が上昇していることが分かります。この記事では、建築費が上昇している要因と今後の見通しについて解説します。
1.建築着工における動向
2024(令和6)年の非居住用建築物の着工床面積が減っている現状は先述の通りですが、国土交通省の「建築着工統計調査報告」を基に具体的に見ていきましょう。建築主別では、国や都道府県といった公共では1.1%増えていますが、民間では8%ほど減少しています。
構造別で見ると、着工床面積が最も減少したのは鉄骨鉄筋コンクリート造で26.8%減、次いでコンクリートブロック造が21.8%減、鉄筋コンクリート造は19.4%減となっています。20%を超える減少幅は、やはり建築費の高騰が大きく影響していると考えられます。建築費は「労務コスト」と「資材コスト」によって成り立ち、それぞれがいくつかの要因によって高騰していると思われます。
2.労務コスト上昇の主な要因
労務とは雇用や給与をはじめとする労働環境に関わる業務で、労務コストとは製品・サービスを生産・製造するための労働力に対してかかるコストをいいます。労務コストが上昇している主な要因は、次のようなことが考えられます。
人材不足
建設業界は長年「人手不足」の状態にあります。国土交通省による「建設労働需給調査」の結果を見ると、変動はあるものの2012(平成24)年からずっと労働者数は「不足」となっています。2025(令和7)年3月時点での労働者不足率は回復傾向にありますが、労働者の確保に関する今後の見通しについては「困難」や「やや困難」とする回答が未だ多いようです。
また、同省の資料によれば、建設技能者のうち29歳以下は全体の約1割程度なのに対し、60歳以上の割合は全体の約4分の1を占めています。つまり、建設業は全産業の中でも特に高齢化が進んでいる業種といえるのです。このような背景から、工期の長期化や建設技術者の需要増加が発生、人件費が上昇し労務コストの高騰につながっていると思われます。
働き方改革の推進
労働者不足の解消、生産性の向上、多様な働き方への対応といったことを目的として、近年「働き方改革」を推進する動きが強まっています。2019(平成31)年4月に働き方改革に関連する法律案が施行されたのですが、建設業では「時間外労働の上限規制」の適用に猶予が設けられていました。
猶予が設けられた理由は、長時間労働の常態化と深刻な人材不足の問題が根深く、短期間での解消は難しいとの判断があったからです。その猶予期間が2024(令和6)年4月に期限を迎え、いわゆる建設業の「2024年問題」が労務コストの上昇にさまざまな影響を与えています。一つは時間外労働の時間が制限されることで工期が延び、その分いろいろな費用が増加しているとみられます。さらに月60時間を超える時間外労働に対しては、割増賃金率が通常の25%から50%以上に上がるため、人件費が上昇していると考えられます。
3.資材コスト上昇の主な要因
建築費を構成するもう一つが「資材コスト」です。こちらも労務コスト同様にさまざまな要因により上昇しており、建築費の高騰に拍車をかけていると考えられます。
建設需要の増加
2021(令和3)年頃より新型コロナウイルスの蔓延などの影響で世界的に建設需要が高まり、「ウッドショック」や「アイアンショック」などといわれるような、供給不足による資材価格の高騰を引き起こしました。国土交通省発表の「主要建設資材の価格推移」を見ると、資材によって増減幅は異なるものの高止まりが続いている状況で、2021(令和3)年以前の水準には戻っていません。建築物をつくるうえで必要不可欠な建設資材の価格上昇は、建築費の高騰に大きな影響を与えています。
エネルギー価格の高騰
世界情勢の変動や需要の増加など複合的な要因が影響し、原油価格の上昇が続いています。ガソリン価格や電気代の値上がりは、日常生活の身近な問題として捉えている方も多いでのではないでしょうか。建設業界も例外ではありません。
建設資材の製造に使用する機器、輸送するためのトラック、現場で使用する機械と、エネルギー価格が上昇することでコストの増加が予想されるものは多岐にわたります。こうしたことが資材価格にも影響し、資材コストの高騰につながっています。
輸送コストの上昇
建設業では資材を運ぶために船やトラックといった輸送手段を用いることが多く、原油価格の高騰は輸送コストの上昇とも深く結びついています。また、先述の「時間外労働の上限規制」では自動車運転業務(ドライバー)の方々にも猶予が設けられていました。
しかし建設業と同じく2024(令和6)年4月に期限を迎えたため人件費が増加し、人材不足も問題となっています。さらに、国土交通省がトラックの標準的運賃を引き上げたこともあり、輸送コスト上昇の一因になったと思われます。
円安
日本は、多くの建築資材を海外から輸入しています。国内には森林が広がっているイメージもあるかと思いますが、建築用材等の自給率は半数ほどしかありません。そのため円安は、資材コストの高騰に直結した問題であり、近年はその影響が顕著に現れています。
4.今後の動向
結論からいえば、建築費の高騰は今後も続くとみられています。それは、これまでに述べた要因が複合的な問題として存在し、すぐに解決できないと思われるからです。2024年問題への対応にはまだ課題も多く、企業によるデジタル化なども進められていますが、慢性的な人材不足を解消するにはまだ時間がかかると予想されます。
資材によっては価格が落ち着いたものもありますが、世界情勢や円安といった予想が難しい要因もあり、不安定な状態はもう少し続くと考えられます。
まとめ
建築費の高騰する要因は、人材不足や働き方改革の推進など「労務コスト」の上昇、建築資材やエネルギーなどの価格上昇に伴う「資材コスト」の上昇が考えられます。そして、これらのことが非居住用建築物の着工床面積の減少につながっていると思われます。しかし、国産資材の供給拡大や代替材料の開発、輸送方法の見直しやデジタル化など企業の努力によって、減少幅が小さくなっていることも事実でしょう。
働き方改革によって労働環境が整えられることは、建設業界の諸問題を解決するためには大切な要素であり、国もさまざまな方針を発表しています。需要と供給を上手に調整しながら、バランスを取っていくことが最善なのかもしれません。
建築・インテリア系の専門学校卒業後、工務店にて建築業務に携わる。
福祉住環境コーディネーター2級。
二児の母。

