2024年の新設住宅着工戸数が減少。減少の要因と今後の見通し
最近よく値上げや物価高の話題を見聞きするかと思います。実際に、生活の中で物価上昇を感じているという方も少なくないでしょう。業種の中には売り上げが減ったものも多く、衣服・身近な日用品を取り扱う小売業、新車や一部の家電製品も販売台数が減少しています。そして建設業も例外ではなく、新設住宅の着工戸数は近年減少傾向にあります。この記事では新設住宅着工戸数が減少している背景や今後の見通しについて解説します。
1.2024年の新設住宅着工戸数の動向
国土交通省が公表した「建築着工統計調査報告」によると、2024(令和6)年の新設住宅着工戸数は792,098戸で前年より3.4%減となっています。新設住宅着工戸数が80万戸を下回るのは、2009(平成21)年以来15年ぶりのことです。
利用別の分類を見ても、持ち家、貸家、分譲住宅(マンション・一戸建住宅)のすべてで減少しており、中でも分譲集宅(一戸建住宅)は前年に比べ11.7%減とマイナスの度合いが大きくなっています。地域別では、中部圏の分譲住宅(マンション)で17.6%、近畿圏の貸家で4.2%前年より増加しています。しかし、全体的には減少傾向を示しており、こちらでも分譲集宅(一戸建住宅)の落ち込みは顕著に現れています。
2.減少の要因とは
新設住宅着工戸数が前年を下回ったのは2年連続です。考えられる主な要因として、次のようなことが挙げられます。
建築材料の高騰
先述のように、ここ数年は物価上昇の波が次々と押し寄せています。2021(令和3)年から問題となっている木材価格の高騰、いわゆる「ウッドショック」はご存知の方も多いのではないでしょうか。木材需要の増加、世界情勢の変化、原油の高騰、円安の影響など複数の要因に起因し、木材をはじめとする建築資材の価格が上昇しています。
建築コストが高くなれば、必然的に住宅の販売価格も上がってしまうため、新設住宅の購入を躊躇う方も少なくないでしょう。この販売価格の上昇は、新設住宅の着工戸数が減っている理由の一つと考えられます。
人口の減少と世帯構成の変化
新設住宅着工戸数減少の根本的な要因として考えられるのは、日本の人口が減少しているという点です。日本の総人口は2008(平成20)年をピークに年々減っており、20年前と比べると約400万人も少なくなっています。しかしながら、総人口が減っている一方で世帯数は増えていて、直近10年を見ても大きな変動はありません。それは世帯の構成が変化しているためだと考えられます。以前は「夫婦+子」からなる世帯が多かったのですが、現在は「単独世帯」が全体の約35%を占め、「夫婦+子世帯」よりも多くなっています。
その背景には高齢化、未婚率の増加、出生率の低下などが関係していると思われます。新設住宅の主な購買層は子育て世帯なので、「夫婦+子世帯」が減っていることは、着工戸数の減少に大きく影響していることでしょう。
人手不足
建設業界は、慢性的な人手不足の状態に陥っています。国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」の調査によると、建設業の賃金は全産業の平均賃金を下回っていることが分かります。にもかかわらず、労働時間は全産業の中でも長い部類で、働き方改革によって改善が図られていますが、未だ高水準となっています。もちろん、労働環境の改善に取り組んでいる企業はたくさんあります。しかし、建設業全体を見ると、他の産業より賃金が低く労働時間が⾧いという実情は否めません。そのため、担い手の確保が難しく、建設業界の大きな課題として考えられています。
また、建設業就業者の高齢化が進んでいることも、人手不足を助長していると思われます。住宅を建てたいと思う人がいても、実際に建てる人がいなければ住宅は建ちません。新設住宅着工戸数が減っている背景には、このような建設業界が抱える問題も関係していると考えられます。
住宅に対する意識・ニーズの変化
次に挙げられる要因は、住宅に対する意識の変化です。厚生労働省が調査を行った「持家世帯比率の推移」によると、持家世帯比率は60歳以上ではほとんど変わりがありません。しかし、50代以下、特に若い世代を中心に数年前から持家世帯比率が減少しています。
理由としてさまざまなことが考えられますが、収入が安定しないことや物価高による生活費の増加など、経済的な不安を抱えている方も少なくありません。また、ライフスタイルの変化に伴い、柔軟に対応できる賃貸住宅を望む傾向が広がっていることも理由の一つでしょう。賃貸住宅なら年齢や家族構成、仕事や学校など、その時期に合った場所で適した住宅を選ぶことができます。実際、建築着工統計調査報告を見ると、2024(令和6)年の新設住宅着工戸数の中で持家の前年比は2.8%減、貸家は0.5%減となっています。2023(令和5)は持家の前年比11.4%減に対し貸家は0.3%減で、持家に比べ貸家の減少幅が小さいことが分かります。住宅を持つことにこだわらない、賃貸志向の方が増えている表れかもしれません。
リフォーム・リノベーション人気の高まり
近年古民家や町屋が注目を集め、中古マンションのリノベーション物件が人気となっています。さまざまなことが多様化している中で、リノベーションは自由度が高く、新築よりも比較的低価格でできる点が多くの方に受け入れられているのでしょう。国や各自治体が行っている空き家対策、補助金などの支援策も追い風となり、リフォーム・リノベーション市場は着実に数字を伸ばしています。その結果、新設住宅着工戸数が減少している可能性が考えられます。
2025年以降はどうなる?
2024年の新設住宅着工戸数が減少した要因について考えてきましたが、やはり気になるのは今後の動向ですよね。新設住宅着工戸数は減少しているものの、前年よりも減少幅が小さいことから、今後は少しずつ回復していくのではないかという見方が強まっています。
木材などの建築資材の供給不足は多少の改善が見られるものの、世界情勢の変化によってはまた不安定になり得ます。原油の高騰や円安の状態はまだ続くと思われ、輸入している建築資材は高価格が続く可能性があります。また、建設業界の人手不足を解消するため、労働環境の改善が見込まれます。それにより、賃金の引上げや労働時間の適正化が進められ、人件費の上昇も予想されます。今後も住宅価格の上昇は否定できず、新設住宅着工戸数に影響を与える可能性があるでしょう。
まとめ
新設住宅着工戸数はさまざまな要因によって減少しています。すべての要因がすぐに解消されることは難しく、かなりの時間を要するでしょう。
そのため、住宅の価格は今後も上昇する可能性があり、住宅ローンの金利が変動することも予想されます。住宅の新設を検討している場合、良いタイミングを見極めることはかなり難しいですが、こまめに情報収集を行い、建築会社などの専門家に相談すると良いでしょう。
建築・インテリア系の専門学校卒業後、工務店にて建築業務に携わる。
福祉住環境コーディネーター2級。
二児の母。

