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コラム
2025年建築基準法改正の6つの要点|4号特例や省エネ義務の変更
2025年、建築実務に大きな影響を与える「建築基準法」の改正が施行されました。
建築基準法は、安全性・衛生・環境に配慮し、建築物の構造・設備・敷地などに一定の基準を設ける法律であり、設計・確認・施工のすべてに関わる基本的なルールです。
今回の改正では、長年議論されてきた今回の改正では、長年議論されてきた「4号特例」の見直し、省エネ基準の義務化、構造計算の拡大などが実現され、設計や申請の流れそのものに影響を及ぼしています。
本記事では、すでに施行されたこの改正の6つの要点を中心に、実務に必要な視点からわかりやすく解説していきます。
建築基準法は、安全性・衛生・環境に配慮し、建築物の構造・設備・敷地などに一定の基準を設ける法律であり、設計・確認・施工のすべてに関わる基本的なルールです。
今回の改正では、長年議論されてきた今回の改正では、長年議論されてきた「4号特例」の見直し、省エネ基準の義務化、構造計算の拡大などが実現され、設計や申請の流れそのものに影響を及ぼしています。
本記事では、すでに施行されたこの改正の6つの要点を中心に、実務に必要な視点からわかりやすく解説していきます。
1.2025年に改正された建築基準法|6つの要点
2025年4月、建築基準法の改正が施行されました。
今回の改正は、建築物の安全性や省エネルギー性能の向上、持続可能な社会への転換を目的としたもので、設計・確認・施工といった各実務のフローに大きな影響を及ぼす内容となっています。
特に注目されているのが、これまで小規模な木造住宅を対象に構造計算などを免除していた「4号特例」の見直しです。加えて、省エネ基準の適合が義務化されるなど、戸建住宅やリフォームといった領域でも新たな対応が求められています。
今回の改正は、建築物の安全性や省エネルギー性能の向上、持続可能な社会への転換を目的としたもので、設計・確認・施工といった各実務のフローに大きな影響を及ぼす内容となっています。
特に注目されているのが、これまで小規模な木造住宅を対象に構造計算などを免除していた「4号特例」の見直しです。加えて、省エネ基準の適合が義務化されるなど、戸建住宅やリフォームといった領域でも新たな対応が求められています。
改正1|4号特例の縮小とその影響
これまで、一定規模以下の木造住宅には「4号特例」が適用され、構造計算などを省略できる簡易な手続きが認められていました。
しかし、この改正により、この特例の対象範囲が大幅に縮小され、より厳格な審査体制へと移行しています。以下は、今回の改正によって何がどのように変わったのかを比較した表です。
しかし、この改正により、この特例の対象範囲が大幅に縮小され、より厳格な審査体制へと移行しています。以下は、今回の改正によって何がどのように変わったのかを比較した表です。
| 項目 | 改正前(〜2025年3月) | 改正後(2025年4月〜) |
| 対象建築物 | 木造2階建て以下、延床面積500㎡以下 | 木造でも一定規模以上は特例対象外に |
| 必要な書類 | 確認申請のみでOK(構造計算不要) | 構造計算書の提出が必要になるケースあり |
構造安全性の証明が求められるようになったことで、設計実務の負担は増加し、特に地域密着型の工務店や中小規模の設計事務所では、業務フローの見直しや外注体制の検討が必要となるケースも出てくるでしょう。
改正2|木造建築物の構造基準の見直し
今回の改正では、中層木造建築物に対して、これまで明確でなかった構造基準が正式に明文化されました。
これは都市部で増加傾向にある3階建て以上の木造住宅や商業施設などを念頭に置いたもので、設計段階からの安全性確保がより厳格に求められるようになりました。
これは都市部で増加傾向にある3階建て以上の木造住宅や商業施設などを念頭に置いたもので、設計段階からの安全性確保がより厳格に求められるようになりました。
| 項目 | 改正前(〜2025年3月) | 改正後(2025年4月〜) |
| 高さの扱い | 明文化されていなかった | 13m超・軒高9m超は中層木造として別基準に分類 |
| 適用基準 | 一般的な木造構造基準で対応 | 中層木造専用の耐震・耐火基準が追加 |
これにより、たとえば木造3階建て集合住宅やCLTを使用した中規模施設などでは、従来以上に構造安全性を証明する設計と検証が必要になります。
特に設計上の留意点として、以下のような影響が考えられます。
特に設計上の留意点として、以下のような影響が考えられます。
・ 耐火性能を満たすための構造部材の選定(例:準耐火構造の採用)
・ 接合部や壁配置の構造解析の必要性
・ 階高制限や法規制とのバランス調整(中層であるがゆえに審査が厳格化)
・ 接合部や壁配置の構造解析の必要性
・ 階高制限や法規制とのバランス調整(中層であるがゆえに審査が厳格化)
中層木造は、都市部の敷地活用や木材利用促進の観点から注目されており、設計自由度の広がりとともに、設計者の責任も一層重くなっているといえるでしょう。
改正3|省エネ基準適合の義務化
これまで、戸建住宅などの小規模建築物では、省エネ性能に関して「説明義務」にとどまっており、基準への適合は努力義務とされていました。
しかし、今回の改正により、一定規模の住宅については省エネ基準への適合が義務化され、設計・確認の段階から具体的な対応が求められるようになり、以下に変更内容をまとめました。
しかし、今回の改正により、一定規模の住宅については省エネ基準への適合が義務化され、設計・確認の段階から具体的な対応が求められるようになり、以下に変更内容をまとめました。
| 項目 | 改正前(〜2025年3月) | 改正後(2025年4月〜) |
| 義務の内容 | 省エネ性能の説明義務(対象:住宅) | 300㎡以下でも適合義務の対象となるケースあり |
| 対象建築物 | 原則として300㎡以下の住宅は努力義務 | 中層木造専用の耐震・耐火基準が追加 |
| 審査内容 | 省エネ基準のチェックは任意 | 設計段階でのエネルギー計算が必要に |
今回の変更により、設計者は建築物の断熱性能・設備効率などについて、一次エネルギー消費量の計算や仕様書の提出が求められるようになります。
特に中小規模の工務店や設計事務所にとっては、エネルギー計算ソフトの導入、外部専門家との連携、図面・仕様書の書式整備などが必要になる可能性があります。
また、リフォーム工事においても、大規模改修や用途変更を伴うケースでは省エネ基準の適合が求められることも押さえておくべきポイントです。
特に中小規模の工務店や設計事務所にとっては、エネルギー計算ソフトの導入、外部専門家との連携、図面・仕様書の書式整備などが必要になる可能性があります。
また、リフォーム工事においても、大規模改修や用途変更を伴うケースでは省エネ基準の適合が求められることも押さえておくべきポイントです。
改正4|建築確認の厳格化
建築物を新築・増築する際に必要な「建築確認申請」についても、2025年の改正で審査内容や書類の取り扱いが厳格化されました。
これまでは、規模や構造によって確認審査が簡略化されるケースもありましたが、今後は提出書類の精度や記載内容の整合性がチェックされるようになります。
これまでは、規模や構造によって確認審査が簡略化されるケースもありましたが、今後は提出書類の精度や記載内容の整合性がチェックされるようになります。
| 項目 | 改正前(〜2025年3月) | 改正後(2025年4月〜) |
| 書類の扱い | 記載内容の曖昧さが許容される場面もあり | 設計内容の整合性・明確性が厳密に審査対象に |
| 審査の重点 | 主に面積・高さなどの形式要件 | 省エネ性能・構造安全性など性能要件の確認が強化 |
この改正により、設計者や申請担当者には、初回申請時点での完成度の高さが求められます。
省エネや構造関連の書類も含めて、すべての図面や記載内容に整合性があるかどうか、事前に複数人でのチェック体制を整えることが重要です。
特に注意したいのが「記載漏れや数値ミス」への対応です。
これまでは訂正や補足で済んでいたケースもありましたが、今後は差し戻し・再提出が原則となり、確認済証の取得までのスケジュールに大きな影響を及ぼすリスクがあります。
省エネや構造関連の書類も含めて、すべての図面や記載内容に整合性があるかどうか、事前に複数人でのチェック体制を整えることが重要です。
特に注意したいのが「記載漏れや数値ミス」への対応です。
これまでは訂正や補足で済んでいたケースもありましたが、今後は差し戻し・再提出が原則となり、確認済証の取得までのスケジュールに大きな影響を及ぼすリスクがあります。
改正5|設計図書の明確化と保存義務
今回の改正では、建築物の設計図書に関する記載内容の明確化と保存義務の強化が盛り込まれました。
これまで、建築士法などにより一定の保存義務は課されていましたが、実際には図面の詳細や記載レベルにばらつきがあり、申請時やトラブル対応時に十分な情報が残っていないケースも多く見られました。
今回の改正により、建築確認申請時に提出する図書には、構造・設備・材料などの仕様について、誰が見ても判断できるレベルの記載が求められるようになっています。
特に、次のような項目の明示が基本となります。
これまで、建築士法などにより一定の保存義務は課されていましたが、実際には図面の詳細や記載レベルにばらつきがあり、申請時やトラブル対応時に十分な情報が残っていないケースも多く見られました。
今回の改正により、建築確認申請時に提出する図書には、構造・設備・材料などの仕様について、誰が見ても判断できるレベルの記載が求められるようになっています。
特に、次のような項目の明示が基本となります。
・ 耐力壁や柱の配置、断面寸法
・ 使用する材料の種類・仕様
・ 設備の配管・配線計画とその根拠(仕様書との整合)
・ 使用する材料の種類・仕様
・ 設備の配管・配線計画とその根拠(仕様書との整合)
こうした図書内容の明確化は、設計者だけでなく、確認検査機関・施工者・建築主との情報共有にも役立ち、設計意図の誤読や施工ミスの防止につながるものです。
さらに、図書の保存義務についても、法的根拠を明確化し、電子保存やクラウド管理の導入が進むことで、業務の透明性とトレーサビリティが向上することが期待されています。
さらに、図書の保存義務についても、法的根拠を明確化し、電子保存やクラウド管理の導入が進むことで、業務の透明性とトレーサビリティが向上することが期待されています。
改正6|確認検査機関の権限と運用体制の変更
2025年の改正建築基準法では、確認検査機関の審査体制とその権限の明確化・強化も大きなポイントとなっています。
これまで、確認検査機関の役割は「申請図書の内容確認」にとどまっており、指導や是正措置に関しては曖昧な運用に依存していました。
改正後は、確認検査機関が提出書類や建築行為に対して、制度的に是正指導や追加資料の要求がしやすくなっており、曖昧な設計や計算書に対しては明確な根拠の提示や計画の再考を求められるケースも増えています。
これに伴い、確認検査機関内でも、専門人材の増員や審査フローの見直し、審査内容の標準化が進められつつあります。
一方で、設計者にとっては、「誰が見ても理解できる設計・説明資料の提出」が重要になり、説明責任の重みが増すといえるでしょう。
出典:
令和4年改正 建築基準法について(国土交通省)
これまで、確認検査機関の役割は「申請図書の内容確認」にとどまっており、指導や是正措置に関しては曖昧な運用に依存していました。
改正後は、確認検査機関が提出書類や建築行為に対して、制度的に是正指導や追加資料の要求がしやすくなっており、曖昧な設計や計算書に対しては明確な根拠の提示や計画の再考を求められるケースも増えています。
これに伴い、確認検査機関内でも、専門人材の増員や審査フローの見直し、審査内容の標準化が進められつつあります。
一方で、設計者にとっては、「誰が見ても理解できる設計・説明資料の提出」が重要になり、説明責任の重みが増すといえるでしょう。
2.実務に活かす視点を探るために|実務者が感じるメリットとデメリット
2025年に改正された建築基準法は、建築物の安全性・省エネルギー性能の向上、情報の透明性を目的としたものであり、多くの点で建築実務を見直す契機となっています。
ここでは、実務者の目線から改正のメリットとデメリットを整理しながら、この変化をどう活かすかを考える視点を探っていきます。
ここでは、実務者の目線から改正のメリットとデメリットを整理しながら、この変化をどう活かすかを考える視点を探っていきます。
メリット|基準の明確化と品質の底上げ
改正により、建築基準や設計・確認のルールが整理されたことで、実務における判断のしやすさや業務品質の向上が期待されます。
以下は、主に実務者が感じるプラスの側面です。
以下は、主に実務者が感じるプラスの側面です。
・ 耐震・省エネ・防火などの性能基準が明文化され、設計の迷いが減る
・ 設計図書の整備が義務化され、トラブル時の説明責任が果たしやすくなる
・ 曖昧だった中層木造や省エネ対応の基準が整理され、設計の品質が平準化
・ 結果的に建築物全体の信頼性向上が期待できる
・ 設計図書の整備が義務化され、トラブル時の説明責任が果たしやすくなる
・ 曖昧だった中層木造や省エネ対応の基準が整理され、設計の品質が平準化
・ 結果的に建築物全体の信頼性向上が期待できる
デメリット|設計・申請への負担増と対応の複雑化
一方で、制度の厳格化により、実務者にとっての負担が増した側面も否めません。
現場レベルでは、以下のような課題が懸念されています。
現場レベルでは、以下のような課題が懸念されています。
・ 構造計算、省エネ計算の義務化により、設計業務の工数が増加
・ 小規模事務所では、外注対応・人的リソースの確保が課題
・ 記載不備や整合性不足による確認申請の差し戻しリスクが上昇
・ 高度な法解釈や制度対応力が求められ、経験差による格差が顕在化
・ 小規模事務所では、外注対応・人的リソースの確保が課題
・ 記載不備や整合性不足による確認申請の差し戻しリスクが上昇
・ 高度な法解釈や制度対応力が求められ、経験差による格差が顕在化
まとめと今後の指針 | 制度改正を成長のチャンスに
2025年の建築基準法改正は、安全性や省エネ性能の向上に加え、設計・申請における実務のあり方そのものに変化をもたらしました。
設計者や工務店にとっては、業務負担が増える側面もありますが、それは同時に、設計品質の標準化や情報共有の精度向上につながる一歩でもあります。
今後は、法改正の背景を理解するだけでなく、電子申請やBIMといったデジタル技術の導入、外部との連携、国際基準への理解といった広い視点も求められるようになります。
制度改正を「制限」ではなく「成長のきっかけ」として捉え、自社の実務改善や提案力の強化につなげていく姿勢が、これからの建築業界において重要な指針となるでしょう。
設計者や工務店にとっては、業務負担が増える側面もありますが、それは同時に、設計品質の標準化や情報共有の精度向上につながる一歩でもあります。
今後は、法改正の背景を理解するだけでなく、電子申請やBIMといったデジタル技術の導入、外部との連携、国際基準への理解といった広い視点も求められるようになります。
制度改正を「制限」ではなく「成長のきっかけ」として捉え、自社の実務改善や提案力の強化につなげていく姿勢が、これからの建築業界において重要な指針となるでしょう。
著者(長谷川裕美)プロフィール
建築・インテリアの専門学校卒業後、設計事務所や住宅メーカーに勤務。
現在は建築関連のライターとして活動中。
常に変化する建築業界の話題を丁寧にお届けします。
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