サーキュラーデザインとは?建築で活用できるリサイクル建材6選と導入メリットを解説
近年、建設業界では「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行が急務とされています。建築資材の大量消費・大量廃棄を前提とした従来のモデルから脱却し、資源を再利用・再生しながら建築を継続する「循環型社会」の構築が求められています。
本記事では、循環型社会の実現に向けて欠かせない「サーキュラーデザイン」と、それを支える「リサイクル建材」に注目し、建築現場で活用が進む具体的製品や導入のポイントを紹介します。
1.サーキュラーデザインとは?建築におけるリサイクル建材の役割
持続可能な建築を目指すうえで、避けて通れないのが「サーキュラーエコノミー」という考え方です。本章では、循環型社会の全体像と、建築業界での導入の背景、さらには現場での課題について整理していきます。
サーキュラーエコノミーと循環型社会の考え方
サーキュラーエコノミーとは、資源を「採取→製造→使用→廃棄」と一方通行で消費するのではなく、廃棄物を極力発生させず、再利用・再生することによって経済活動を持続可能にする考え方です。 建設業界では、建築物の解体時に発生する産業廃棄物や、製造過程での資材ロスが長年の課題となっており、サーキュラーエコノミーの概念導入が注目されています。
建築・建設分野における適用の意義
建設業界は、国内全体のCO2排出量の約3割を占めるとされ、資源使用量・廃棄物排出量も膨大です。その中で、解体材のリユースやリサイクル素材の活用は、環境負荷の低減だけでなく、原材料費の削減や資源枯渇リスクの回避にもつながります。 また、サステナビリティを意識した都市開発やゼロカーボンビルディング設計にも不可欠な要素として、循環型建築が世界的に加速しています。
廃棄物と解体材の現状・課題
現在の建設現場では、分別や回収体制が整っていないことから、再利用可能な資材であってもその多くが廃棄されています。中でも木材や陶器、ガラスといった元は資源性の高い材が埋立や焼却処分されるケースも多く、これをいかに「新たな建材」として再生させるかが、今後の重要課題となっています。
2.リサイクル建材の役割とそのメリット|循環型建築を実現する方法とは
解体された建築物や端材、廃棄ガラスなど、これまで廃棄されていた「資源」を活用するのがリサイクル建材です。この章では、建材としての機能と環境面での利点、さらに導入のポイントについて解説します。
リサイクル建材が建築にもたらす効果
リサイクル建材は、使用済み資材や製造時の端材などを再加工し、新たな建材として活用することで、建築物の環境負荷を抑えることができます。たとえば100%リサイクル素材の床材を使用すると、一次資源の使用をゼロにしながらも高品質な建物を構築できます。
CO2排出削減や資源保全の効果
資源の再利用は、製造時のエネルギー使用量やCO2排出量を抑えることにも直結します。再生ガラスや再圧縮木材などは、従来製品に比べて製造時の環境負荷が大幅に少なく、環境省の定める「建材のグリーン購入ガイドライン」にも準拠しています。
また、地場資源を活用した建材は、地域経済や産業への貢献にもつながり、サステナブルな社会構築に不可欠です。
参考:Japan Pavilion(2025年大阪・関西万博 日本館事務局)
導入する際のポイントと注意点
リサイクル建材を導入する際は、以下の点に留意する必要があります。
・材料の物性や安全基準(強度・防火・断熱など)の確認
・製品ごとの対応可能部位(内装・外構・構造)を把握すること
サーキュラーデザインの建築事例に学ぶ|リサイクル建材の実践と導入の工夫
サーキュラーデザインはすでに多くの国や企業で導入が進められており成功事例も増えています。 この章では、ヨーロッパと日本それぞれの事例を取り上げ、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みと成果を紹介します。
ヨーロッパにおけるサーキュラーデザイン事例
ヨーロッパではオランダをはじめ、イギリスやドイツなどが先進的な取り組みを行っています。特にオランダ・アムステルダム市は「100%サーキュラーな都市を目指す」と公言し、再利用可能な建材だけで構成された建築「Circl(サークル)」を建設しました。
建築に使用された部材はすべてリユース・リサイクルが可能なもので構成されており、建物そのものが資材バンクの役割を果たす設計となっています。設計段階から資源循環を前提にした開発が進められている点が特徴です。
また、EU全体で「建設・解体廃棄物の70%以上を再利用または再資源化する」という目標が掲げられ、企業と行政が連携してリサイクル建材の活用が進んでいます。
参考:Circlの誕生(ABN AMRO)
日本国内での先進的な取り組み
日本では、竹中工務店や大和ハウス工業といった大手ゼネコンを中心に、リサイクル材の建築活用や建材のトレーサビリティ確保といった取り組みが広がっています。特に竹中工務店では、建築時だけでなく解体後の資材再利用まで見越した「マテリアル・パスポート」導入を進めています。
さらに、地域単位でも先進的な実践例が見られます。例えば愛知県では、産業廃棄物としての陶器類を再加工し、公共施設や公園舗装材に再利用するプロジェクトが行政と民間で共同推進されています。
日本においては、海外と比べ制度面の遅れや技術認知の格差が課題ですが、「地域資源の活用」「企業による製品開発」「行政による制度整備」という三位一体の取り組みが各地で展開され始めています。
参考:資源循環(竹中工務店)SUSTAINABLE JOURNEY(大和ハウス工業株式会社)
建築で使えるリサイクル建材6選|サーキュラーデザインに役立つ製品を紹介
循環型社会の実現には、実際に使用可能な製品の存在が欠かせません。 ここでは、日本国内で流通している、特に注目度の高いリサイクル建材を6つ紹介します。いずれも信頼あるメーカーが開発・製造しており、建築現場への導入が進んでいます。
ecoRevo®「陶冶」|陶器100%のリサイクルタイル
株式会社エクシィズが展開するecoRevo®シリーズです。
「陶冶」は、通常リサイクル率20〜40%程度が限界とされる廃陶器を、100%再利用して成形した希少なリサイクルタイルです。
焼成品ならではの風合いを活かしつつ、素材選別や加工精度の工夫により高強度と安定した意匠性を実現しています。
テクモク|木材端材を活用した高密度リサイクル材
文化シヤッター株式会社が提供する「テクモク」は、建設現場や家具工場などから出る木材端材を再圧縮して製造された高密度な木質系建材です。腐食や変形にも強く、屋外施設やベンチ、デッキ材として幅広く利用されています。
瓦ブロック|役目を終えた瓦の再利用プロダクト
太平洋プレコン工業株式会社による再生建材で、廃瓦を細かく砕き成形したブロック材です。歩道、外構、庭園などの舗装材として使われており、地域の風景との調和にも貢献しています。
リアライト|再生ガラスを用いた高意匠パネル
緑川化成工業株式会社の「リアライト」は、再生ガラスを活用した内装向け装飾パネルです。光の透過性を活かしたデザインが特徴で、ホテルや商業施設など高級空間の演出に用いられています。
ecoRevo®「暁」|赤みのある陶片を活かした床材
株式会社エクシィズによるリサイクルタイル「暁」は、より温かみのある色調を特徴としています。廃陶器を100%使用しながらも、空間に落ち着きと和の雰囲気をもたらすデザイン性が評価されています。
稚内珪藻頁岩パネル「圭-KEI-」|調湿性・脱臭性を備えた自然系建材
都築産業株式会社による壁面仕上げ材で、稚内の珪藻頁岩(けいそうけつがん)を原料とするリサイクル素材です。高い調湿性能と消臭効果を持ち、住宅や店舗の内装に適しています。
まとめ|リサイクル建材を活用してサーキュラーデザインを実現しよう
サーキュラーエコノミーの概念は、建設業界において単なる環境配慮ではなく、資源管理と建材開発のあり方そのものを再定義するものです。解体や廃棄の先にある「再利用の設計思想」が問われる時代において、リサイクル建材の果たす役割はますます大きくなっています。 今回紹介した6つの建材は、すでに市場で流通し、品質・意匠性ともに十分な水準に達しています。再生素材の使用は今後、選ばれる価値へと変わりつつあります。 循環型社会の実現に向けて、建材の選定から設計、施工までを一貫して見直すことが、サステナブル建築の第一歩となるでしょう。
建築・インテリアの専門学校卒業後、設計事務所や住宅メーカーに勤務。
現在は建築関連のライターとして活動中。
常に変化する建築業界の話題を丁寧にお届けします。
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