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  • 掲載:2026年03月11日 更新:2026年03月16日

【対談】「売り場を科学する」VMDディレクター大髙氏に訊く、短期間で共感を生む次世代ポップアップストア戦略
4hearts株式会社 代表取締役 VMD専門家/空間デザイナー 大髙啓二
モデレーター:建材ナビ/株式会社プログランス AI/Web戦略ディレクター藤原康成

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商業施設のテナント状況が変化する中、空き区画を活用した「ポップアップストア」の需要が高まっています。限られた期間と空間で、いかにしてブランドの魅力を伝え、顧客の心を動かすことができるのか。
今回は、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)のパイオニアとして国内外で数多くの空間デザインを手掛ける大髙氏をお招きし、「3ステップで伝わるポップアップストア戦略」をテーマにお話を伺いました。人間の心理や行動特性に基づいた「売り場を科学する」ロジックは、建築家やデザイナーの皆様にとっても、空間づくりの新たなヒントとなるはずです。

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VMD専門家 大髙啓二氏と、モデレーター 建材ナビの藤原


居抜き・仮設空間に求められる次世代のVMD戦略

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―大髙さんはVMDのパイオニアとして、売場づくりのコンサルティングや空間ディスプレイなどを、国内だけでなく海外でも数多く手がけられています。本日は市場におけるVMDの戦略についてお話を伺います。よろしくお願いいたします。

大髙  よろしくお願いいたします。今回の「ジャパンショップ」の新しい企画「NEXTポップアップストアのデザイン」に関連してお話しさせていただきます。
最近は商業施設もテナントさんが厳しい状況が続く中で、居抜きになったり仮設でポップアップストアを出店するケースが非常に増えてきています。そこの売り場において、短期間でいかに成果を出すか。私は普段、小売のロフトさんや3COINS(スリーコインズ)さんなど、様々な店舗の売り方の基準づくりを行っています。

今回は、展示会に出展される方やメーカーさん、そしてクライアント様がご自身でポップアップを出す際のロジックや考え方として、少し学びの提供ができればと思っています。


リアルならではの価値を伝える「3ステップ」

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―本日のテーマにある「3ステップ」とは、どのようなものなのでしょうか。

大髙  展示会もポップアップも同じですが、短時間でお客様に気づいていただくことが目的です。

1つ目は、遠距離から集客を図る。
2つ目は、中に入っていただき、中距離で自分たちのブランドをどう理解させるかを伝える。
3つ目は、近距離で商品を手に取る体験をしていただく。

オンラインではなく、リアルならではの価値として体験していただき、そこから興味を持ってもらう、ファンにつなげる。そのステップが導線計画としてどう設定されているかということが、とても重要だと思っております。
リアルの小売では、必ずお客様のミッションとしてデザインをしたり、売り方をデザインしたりする形をとります。そのため、必ずしも視覚的なデザインだけではなく、本来の目的である集客など、会場を含めた全体的なロジックを考える必要があります。

私はクリスマスの空間デザインなどを得意として毎年来ていただいているのですが、期間限定でいかに短時間でお客様にその価値や気持ちを伝えるかという部分では、ポップアップに通じるものがあると思っています。お客様の「気持ちを作る」ということですね。

海外での仕事も多く、シンガポールのアパレルブランドのショップ設計なども行いました。今、アパレルの小売りが厳しい中での挑戦として、今までのように物だけを販売するのでは厳しくなってきています。そこで、星空を観ながらエンタメの要素を入れて集客を図り、お買い物をしていただく仕組みを作りました。
物を売ることに快感やエンタメ要素を掛け合わせることで、ブランディングや体験価値が高まります。このブランドを直感的に短時間で理解していただくために、日本の場合は最初に「答え」を提示し、そこから「なぜならば」と理由を探してもらう順番が大事だと意識しています。


「売り場を科学する」視覚効果と情報整理

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大髙氏が手掛けたクリスマス空間デザイン「2022/KITTE Marunouchi "WHITE KITTE"」
日本の自然の大切さを後世に繋げる「KITTEの森~自然からの贈り物」をテーマにし、終了後はツリーをベンチとして再利用されている。(フォーハーツ株式会社)


―VMDというと、どうしてもビジュアルのインパクトというところが出てくるのかなと思うのですが、やはり最初の第一印象が重要なのでしょうか。

大髙  ビジュアルマーチャンダイジングとして視覚を優先しているのですが、人間は五感の中で87%は視覚から情報を得ていると言われているため、まずは視覚的なものが第一印象として非常に重要になります 。ただ、今はオンラインなど他の媒体もあるので、視覚的な要素に加え、入った後に他の五感の要素も含めて記憶に残していただくことが必要です。

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私は「売り場を科学する」とよく言っているのですが、視覚的効果を活用することで心の動きが連動します。遠距離から何を伝えるかと考えた時、最初の視覚的効果は「色」「大きさ」「形」、そしてビジュアルや文字です。特に日本やアジアは「色」の効果が強く、色一つ間違えるだけで影響が出ます。

また、「情報の整理」も重要です。伝えたいことが多すぎて、結局伝わっていないということが非常に多いのです。広告やチラシでも、伝えたい情報が多すぎると、ノイズになってしまい何も伝わりません。情報を伝える時には、文字数や余白の使い方がとても重要になってきます。


―そこは余計なものを省いて、絞り込むということですね。

大髙  おっしゃる通りです。情報を絞り込むことで、より伝わりやすくなります。しっかりとPOP計画や情報の計画を立てることで、本当に伝えたいことが伝わるようになります。

さらに、空間の中には「マグネットポイント」というものが必要です。入り口のきっかけを作り、そのあとの滞在時間を長くするポイントのことです 。空間の中にコーディネートのポイントを作り、連続して点を配置することでストック効果が生まれます。
私はロフトさんのレイアウトやゾーニングをお手伝いする時、黄色い什器をマグネットとして置いています 。入り口でご提案する場所を、360度触れる客だまりにして、回遊性を高める設計です。マグネットポイントを新しく設計することで、お客様の手が止まり、売場の滞留時間と回遊性が上がるのです。

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―マグネットポイントがあるのとないのでは、滞在時間は結構変わってくるのでしょうか。

大髙  結構変わります。例えば縦長の売場で奥まで人が来ないとか、根拠のないレイアウトになっているパターンがあったりします。
入り口が狭いと、人は3秒から5秒で店の前を通り過ぎてしまいます。その時に気づいてもらうためのきっかけとなるポイントが必要なのです。
商品であったりスペースであったりしますが、必ずそのポイントが必要です。


顧客心理を捉える「距離・高さ・時間」の空間設計

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―お客様が入りやすかったり、商品を見やすくするための工夫について教えてください。

大髙  次に重要なのが、お客様の「顧客視点の心理行動」です。入り口から歩いてきて、空間やデザインで目を留めるアテンション(注意)から入り、インタレスト(興味関心)で「中に入ってみようかな」というきっかけを作ります。中に入った時の体験や、商品を触って比較検討し、記憶に残ってシェアするという行動心理のステップです。入り口から体験に至るまでの顧客心理を知ることが重要です。

お客様にとって「気づきやすい」「探しやすい」「選びやすい」という要素が物販には必要です。気づきやすければ見込客の集客が増え、探しやすければ滞在時間が長くなり、体験して選びやすければ購入率や売上につながります。
逆に、入りづらい、探しづらい、選びづらいお店は、モールの中でも全然人が入っていません。人が集まっているということが重要なのです。

売場の中でストーリーを描く力も大切です。大きいマグネットやサイネージで引っ張って、最後は商品を買っていただくストーリーを設計する。この場所の役割が明確でないと、人が滞留せず、結果的に厳しいお店になってしまいます。

空間設計においては、「距離」「高さ」「時間・情報」という3つの要素の考え方がとても重要だと考えています。

要素1:距離
入るきっかけの「遠距離」では色認識などの効果測定が重要です。
そして「中距離」は形状などの訴求、「近距離」はしっかりと理解させるために読ませる情報設計の質が問われます。

要素2:高さ
遠距離からは上の効果、中距離は自分の目の高さの効果、近距離は膝下などの高さの活用です。見る順番によって、売りたい商品や定番商品の売上が大きく変わってきます。

要素3:時間・情報
お客様の認知スピードに合わせた設計です。遠くから入るきっかけはスピードが速いので少ない情報量でキャッチを作り、中距離ではミドルスピードになり、近距離で止まると認識時間が長くなるのでしっかり読ませる。歩くスピードや認知時間に合わせたコピーや情報の設計が必要です。

これらは設計段階からしっかりと組み込んでおくことがとても重要です。最初からこの考え方があって設計することで、より自分たちの伝えたいことが伝わるようになります。


ツール(POP)がブランド価値を決める

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大髙  今回のポップアップストアのテーマとして「ツールで勝手に伝わってくる」、そして「POPがブランド価値を決める」ということをお伝えしたいです。POPは、入り口のキャッチや集客のきっかけとして役割分担が変わってきます。

今は人件費を抑えて少人数で店舗を運営する場合も多いので、POP自体の計画をしっかりと立てて、セルフ販売ができるようにすることが大切です。POPのフォーマットを決めて、1個の伝わるタイトルとサブコピーで、なぜその商品が必要なのかを説明します。

ただ商品名とスペックを書くだけではなく、その商品の先の楽しみ方や使い方、どんなメリットがあるかを入れた「ことPOP」が重要です。この「ことPOP」があることで、「買ったらこんな素晴らしいことになっちゃう」という発見があり、お客様が関心を持ってくれて、ブランドの価値が伝わります。例えばメガネでも、素材や色の使い方といったツールの細かいこだわりが、そのブランドがラグジュアリーなのか伝統的なのかを左右します。細かいところまで気をつけないと、ブランド価値は伝わりません。

―店舗を作る時に、周りの環境や競合を意識することはあるのでしょうか。

大髙  非常に重要です。例えば「白い恋人」のブースを作った時、周囲に多くの競合がいました。周囲の店舗が黄色や茶色系、木目調だったため、横並びになった時の認識を高めるために、あえてブルーを使って色認識させる設定をしました。他を見てどうアウトプットするか、競合の情報を把握してどう伝えるかを変えていくことが勝つためには必要です。

これからのポップアップストアは、単なる販売の場所から、ブランドを体験し「記憶に残る場所」へと変わっていきます。スマートな購入だけでなく、情緒的な価値や共感をどう生み出すかが問われています。

―ありがとうございます 。皆様にも大変参考にしていただけるお話だったと思います 。本日は貴重なお話をありがとうございました 。

大髙  ありがとうございました 。


モデレーターコメント

建材ナビ / 株式会社プログランス AI・Web戦略ディレクター 藤原康成
今回の対談を通して改めて感じたのは、「売り場は感覚ではなく設計できる」ということでした。建築や空間デザインの世界では、意匠やコンセプトに目が向きがちですが、大髙さんのお話は、人の心理や行動特性を前提に「どうすれば気づき、興味を持ち、体験し、記憶に残るのか」を論理的に整理したものでした。まさに“売り場を科学する”という言葉が非常に印象的でした。
本記事が、建築家やデザイナー、建材メーカーの皆様にとって、空間づくりや情報設計を考える新たな視点となれば幸いです。
改めて、大髙さんには貴重なお話をいただき、心より感謝申し上げます。



大髙啓二氏の過去のインタビューはこちらでご覧いただけます。



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