- 掲載:2026年03月19日 更新:2026年03月19日
【対談】展示会と店舗の境界線が消える。次世代ポップアップストアが提示する「実験場」としての空間デザイン VMD専門家 大髙啓二、インテリアデザイナー 折原美紀、展示会デザイナー 竹村尚久
モデレーター:建材ナビ/株式会社プログランス Media Planner/二級建築士 秋葉早紀
モデレーター:建材ナビ/株式会社プログランス Media Planner/二級建築士 秋葉早紀
異なる視点を持つ3者が、わずか3週間という異例のスピードで作り上げた巨大ブースの裏側、そして彼らが描く「次世代のポップアップストア」の姿について、建材ナビの秋葉が深く切り込みます。
大髙啓二、折原美紀、竹村尚久と、モデレーター 建材ナビの秋葉
Guest
VMD専門家/空間デザイナー
大髙 啓二 | Ohtaka Keiji
1968年山梨県生まれ。VMDのパイオニアとして、売場づくりコンサル・空間ディスプレイ・空間デザイン・プロジェクションマッピングなど、幅広くデザインとディレクションを手掛け、 JAPAN SHOPや中国 海外など数々の特別講師を勤める。VMD事業+五感に訴える 光・音・香・動をデザインする五感クリエイターとして、お客様がたくさん集まる場所にふさわしい、楽しさや、感動、そして共感と「心価値空間づくり」をプロデュースし活躍。
フォーハーツ株式会社
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-13-20
第七宮廷マンション 801
03-6804-2710
異業種の三者が結集した理由。展示会ノウハウとポップアップの親和性
竹村氏作成の西展示棟アトリウム「NEXT POP-UP STORE DESIGN & CAFE LOUNGE」のイメージ図
―まず、まず竹村さんに伺いたいのですが、今回の「NEXTポップアップストア」において、この三者が結集した経緯やエピソードを教えていただけますか。
竹村
もともと私は、長年この「JAPAN SHOP」に関わっているのですが、同時に展示会を通じてモノづくりの企業さんとやり取りをすることが非常に多いんです。 その中で、ショップバイヤーさんなどから「実店舗を構えるのではなく、ポップアップとして出店できる場所を探している」というメーカーさんの声を頻繁に耳にするようになりました。
竹村 尚久氏
私自身、以前から「展示会のノウハウは、実はポップアップに非常に近い」と感じていたんです。 それを比較し、皆で考える場所を作りたいと思ったのがきっかけです。
私一人で進めるよりも多角的な視点が必要だと考え、まずVMDの専門家であり、公私ともに仲良くさせていただいている大髙さんにお声がけしました。 そしてインテリアデザイナーの第一人者であり、JCD(日本商環境デザイン協会)の副理事も務められている折原さんにも加わっていただきました。
今回はあえて異なる業種の三者を集めたかった。 違う視点から同じものを見ることで、ビジネス上の面白い発見や発想が生まれるだろうと考えたからです。
2週間前まで「白紙」だった?驚きのスピード感と巨大ブースの全貌
開催の2週間前。折原氏オフィスでの打ち合わせ
―実際にこのメンバーが集まり、ブースが出来上がってみていかがでしょうか。3週間前にお声がけされたという驚きのお話もありますが。
折原
そうですね、実際にはかなりの「無茶振り」でした(笑)。 私は普段、商業設計やホテルのデザインを主軸にしており、こうした展示会とは少し距離のある場所にいた人間なのですが、竹村さんに「何かやってみようよ」と言われたので、まずは必死に乗っかってみようと思いました。
竹村さん、きっかけをいただきありがとうございます。
大髙
私は逆にご縁を感じています。 竹村さんが手がける「JAPAN SHOP」のブースはいつも人が溢れているので、「誰がどういうロジックで作っているのか」と以前から気になっていたんです。 実際にお話ししてみると、竹村さんの考え方は、私が小売店舗で大切にしている「集客」や「滞在時間」といった概念に非常に近く、強く共感して接点ができました。
今回の「NEXTポップアップストア」で展示会と店舗を関連させることは、新しい未来の形になるのではないかと感じています。 ディスプレイという分野にとらわれず、空間全体を設計する視点を学びたいという思いがあったので、今回のご一緒は必然だったように思います。
ただ、本当にスケジュールはタイトでした(笑)。 3週間前にFacebookでメッセージが届き、折原さんの事務所に集合したのは開催の2週間前でしたよね。
大髙 啓二氏(左)と折原 美紀氏(右)
折原 そうそう、朝の8時半に集合したとき、僕と大髙さんはまだ詳細を何も聞いていなかった。 「何か面白いことをやるらしい」という、半分くらいの情報量で二人で待っていました(笑)。
竹村 その節は電車が止まって遅れてしまい、すみませんでした(笑)。
折原 お酒を飲みながらぼんやり待っていたら、実は「横幅30メートル、奥行き3メートル」もある巨大なブースだということを2週間前に知らされて、ちょっとびっくりしましたね。
「集客・理解・体験」をデザイン。VMDから「バリュー・メディア・マーケティング」へ
「NEXT POP-UP STORE DESIGN & CAFE LOUNGE」エリア内の大髙氏ブース
―大髙さんにお伺いしたいのですが、期間限定のポップアップにおいて、消費者にアプローチするための重要な「仕掛け」をどうお考えですか?
大髙
現在のリアルの小売現場ではテナントの入れ替わりが激しく、短期間でブランドの魅力を伝えなければならないポップアップは、まさに展示会と酷似しています。 「集客」「理解」「体験」を経てファンになってもらうプロセス、つまりストーリーが重要です。 目的来店のお客様だけでなく、たまたまその場に居合わせた方をいかにファン層として取り込むかが鍵になります。
今はスマホで情報を得るスピードが非常に早いため、コロナ前よりも「直感的な共感」が求められます。 設計のインパクトや、人が回遊する仕掛けを通じて、どれだけ質の高い体験を提供できるか。 今回のテーマでも「距離設計」や「情報設計」を意識しています。
ポップアップは予算の関係で内装が簡素になりがちですが、だからこそ商品に一番近い什器やツール、入り口からの時間設計、情報の伝え方が大切です。 ここを疎かにするとブランド価値は伝わりません。 期間限定だからこそ、細部まで含めた設計をすることがポップアップの真髄だと思っています。
大髙 啓二氏の資料より
SNS時代において、お客様自身が広告塔となり拡散してくれます。 そこにサイエンス(データ活用)を組み合わせ、どのような属性の人がどう体験したかというデータを取る。 こうしたパブリシティを含めて総合的にデザインすることが、次のステージでは不可欠です。
「ドラッグ」できる空間。インテリアデザインがもたらす自由と遊び
「NEXT POP-UP STORE DESIGN & CAFE LOUNGE」エリア内の折原氏の作品
―インテリアデザインの観点から、折原さんが今回の「伝え方」で重要視されたことは何でしょうか。
折原
ポップアップについて改めて深く考えたときに辿り着いたのは、「期間限定ならではのポイント」です。 今回のブースは「壊せるもの」で構成されていますが、同時に外してパッキングすればどこへでも運べるようになっています。
これを私は「ドラッグ」と呼んでいます。 マウスをドラッグするように、どんどん場所を変えて展開できる機動力です。 素材としてアクリルなどを使ってインテリア性を持たせたり、光の当て方を工夫したり。
また、薄い板を浮遊させて情報を見せるなど、常設の店舗では難しいような「遊び」や「自由さ」を取り入れています。 空調の風で揺れるような仕掛けなど、人が思わず目を止めてしまうアナログな自由さが面白いと思うんです。
折原 美紀氏の作品の取付の様子
「言葉」が足りない。展示会プロデューサーが説く、一瞬で心を掴むキャッチコピー術
「NEXT POP-UP STORE DESIGN & CAFE LOUNGE」エリア内の竹村氏ブース
―竹村さんは、3日間という極めて短いスパンで結果を求められる展示会の視点から、ポップアップをどう捉えていますか?
竹村
私たちは日頃から「3日間で結果を出す」というシビアな世界にいます。デザインが良いだけでは仕事になりません。 「結果を出すためのデザイン」を突き詰めると、やはりポップアップと共通点が多い。
ただ、今のポップアップを見ていて「もったいない」と感じるのは、圧倒的に「言葉」が足りないことです。 人を集めるにはコツがあり、特に重要なのが「言葉の選び方」です。 大髙さんも「高さと距離に応じて言葉を分ける」とおっしゃっていますが、今の店舗は説明が少なすぎます。
竹村 尚久氏の資料より
展示会でブースの前を通る時間は数秒です。 その一瞬で「何を実現している場所か」を伝えなければならない。 抽象的な理念や、「何を扱っているか」だけの表記では人は立ち止まりません。
10秒、あるいは5秒で読める仕組みにすること。 「他と何が違うのか」という言葉を選び、キャッチコピーを見せる。 それだけで選ばれる理由は劇的に変わります。 感覚に頼るのではなく、言葉を慎重に選ぶことが重要なのです。
次世代のスタンダード。ポップアップは「ビジネスの実験場」へ
用意したパレットベンチは満席で、ブースの周りには立ち見の人垣ができるほど大盛況でした。
―お話を聞いていると、ポップアップは単なる販売の場ではなく、より戦略的な場所へと進化しているようですね。
竹村
私はポップアップストアを「ビジネスの入り口」だと定義しています。 これまでは、店を作ってからどう売るかを考えていましたが、これからはポップアップで試して、そこでのデータや反応を見てから、本設の店を出すか、オンラインに注力するかを決める。
まさに「実験場」としての役割です。
大髙
まさにおっしゃる通りで、最近はD2Cブランドがリアルな場を求めてポップアップを出すケースが非常に多いです。 彼らの成功指標は売上だけではありません。 新規の顧客リストがどれだけ取れたか、SNSでどれだけUGC(ユーザー生成コンテンツ)が発生したかを重視しています。
私たちデザイナーやコンサルタントも、単に「綺麗な空間を作る」だけでなく、そうしたクライアントの「ビジネスゴール」に合わせた設計を提案しなければなりません。 今回のブースでも、そうした次世代の評価軸に耐えうる仕掛けを随所に散りばめています。
また、「省人化」と「パーソナライズ」もキーワードになります。 AIチャットボットやサイネージを活用しつつ、最後は人間が「おもてなし」をする。 そのハイブリッドな形を提案しています。
―最後に、空間デザインに携わる方や、これからポップアップに挑戦しようとしている企業の方へメッセージをお願いします。
大髙
ポップアップはブランドの「想い」を凝縮して伝える最高のステージです。 まずは小さくてもいいので一歩踏み出してみてください。 その際、今日お話ししたような「目的設計」を忘れずに取り組んでいただければ、必ず新しい発見があるはずです。
折原
デザインの力でモノの価値はもっと高められます。 「期間限定だから」と妥協するのではなく、期間限定だからこそできる「遊び」を一緒に楽しみましょう。
竹村
展示会もポップアップも、人と人が出会う場所であることに変わりはありません。 テクノロジーが進化しても、その本質を忘れずに、ワクワクする空間をこれからも作っていきたいと思います。
―皆様、本日はありがとうございました。
モデレーターコメント
モデレーターを務め、ポップアップが「単なる売り場」から「ビジネスの実験場」へと進化したことを痛感しました。大髙さんの「店舗のメディア化」、竹村さんの「刺さる言葉の設計」、折原さんの「アナログな体験価値」。異なる専門性が交差した瞬間、空間はブランドの想いを刻む最強の媒体へと変貌するのだと感じました。リアルの空間にはデジタルにはない無限の可能性があります。本記事が、皆様の新たな創造へのヒントになれば幸いです。
最後に、3週間という強行軍の中、共に「次世代」を形にし、刺激的な学びを届けてくださった大髙さん、竹村さん、折原さんに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。



