- 掲載:2026年04月03日 更新:2026年04月03日
【対談】展示会デザインの視点が拓く、ポップアップストアの新たな可能性 ——「売る場」から「体験と関係性の場」へ SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役 展示会デザイナー/プロデューサー 竹村尚久
モデレーター:建材ナビ/株式会社プログランス AI/Web戦略ディレクター藤原康成
モデレーター:建材ナビ/株式会社プログランス AI/Web戦略ディレクター藤原康成
今回は、数多くの展示会ブースを手掛けてきた展示会デザイナーの竹村氏をお招きし、展示会デザインのロジックをポップアップにどう応用し、読者の心に響く「仮設の場」を創り上げるのか。レイアウトの極意から、空間における「言葉」の扱い、価値を伝える陳列手法まで、これからの空間デザインのヒントをお伺いしました。
展示会デザイナー 竹村尚久氏と、モデレーター 建材ナビの藤原
リアル店舗の変容と、ポップアップストアが担う新たな役割
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、展示会デザインの視点から見た「ポップアップストアの在り方」について、どのようにお考えかお聞かせください。
竹村
今回は、展示会デザインの視点から「ポップアップストアはどうあるべきか、今後どうなっていくべきか」をざっくばらんにお話しできればと思います。
まず最初に、展示会とポップアップストアの「類似点」についてお話しします。
次に「集客手法」です。特にポップアップに関連しそうなポイントをいくつかピックアップしました。
その次に「言葉の扱い方」、そして最後に「商品としての考え方」についてお話します。
では早速、展示会とポップアップストアの「類似点」についてお話しします。
最近よく聞く「同質化」という言葉があります。皆さんも街を歩いていて感じると思いますが、どの商業施設に行っても同じような店ばかりで、「どこも知っている店だ」と新鮮味に欠ける部分があるのではないでしょうか。これを打破しなければならないと多くの方が考えています。
―確かに、どこに行っても同じような安心感がある一方で、新しさを感じにくい面もありますね。なぜ改善が難しいのでしょうか。
竹村
日本人的な感覚と言いますか、「無印良品があれば安心」といった、ブランディングや品揃えが信頼できる場所で買いたいという心理はあるでしょうね。変わり映えしてほしいと願いつつも、知っているお店があると安心してしまう。しかし、それは諸刃の剣です。どこも似たり寄ったりになると、ものづくりメーカーさんが商品を置く場所がなくなってしまうんです。だから今、多くのメーカーがポップアップストアの場所を探しています。
また「ショールーミング」の影響も大きいです。リアル店舗で品定めをして、購入はネットで「ポチる」という流れですね。
そうなると、リアル店舗の価値は販売の場から「体験の場」や「関係性を築く場」へと変化しています。それに伴いポップアップストアも増えており、館(商業施設)側も、新規性を持たせる役割をポップアップに期待しています。
展示会とポップアップストア、その驚くべき共通点
展示会とPOP-UPは「似ている」(竹村氏の資料より)
―ポップアップストアも、今や「一過性の出店」以上の意味を持ち始めているのですね。
竹村
そうです。最近は、実店舗を持たずに全国を回るキャラバンスタイルをとる作家さんも増えています。ブランド力がある場合は、「ここに行かなければ買えない」という希少性を生む戦略としても活用されています。
こうした「仮設的」な考え方は、今後ますます重要になります。ポップアップと展示会を比べてみると、非常に似ていることに気づきました。
展示会は開催期間が3日間程度と短く、わずかな時間で設営を完了させます。そして、バイヤーが商品を見極める場です。展示会は「売るため」ではなく、バイヤーに「選んでもらうため」の場であり、商品の良さが確実に伝わり、印象が130%増しに見えるような仕掛けが必要です。
ポップアップストアも「期間限定性」「新規性」「ブランド体験」「市場テスト」といった要素を持っており、展示会の考え方と非常に親和性が高い。この観点をぜひ知っていただきたいですね。
集客の5割を決める「レイアウト」と「心理動線」の設計
通路際に設置した展示台(竹村氏の資料より)
―具体的な手法について伺いたいのですが、ポップアップにも応用できる「展示会の集客手法」にはどのようなものがありますか?
竹村
特に重要な4つのキーワードがあります。1つ目は「レイアウト」です。私たちはブースをデザインする際、1コマのサイズだけで考えるのではなく、ホール全体の人の流れを見ます。お客さんがどちらから来場し、どこから見えるかを計算して、キャッチコピーの位置や展示台のレイアウトを決めます。これだけで集客の5割は決まると言っても過言ではありません。
2つ目は「通路の利用」です。日本のお客さんはシャイなので、自らブースの奥まで入ってくることは稀です。ですから、展示台は必ず「通路際」に置くべきです。手に取りやすく、食いつきやすい場所を通路側に作ると、そこに人だかりができ、さらに人が寄ってくるという好循環が生まれます。
―通路際が「顔」になるわけですね。スタッフの動きなども関係してくるのでしょうか。
竹村
それが3つ目の「接客動線」です。デザインを格好や形から入るのではなく、「来場者の心理」から考えます。どこで引き寄せ、どこで最初の説明をし、次にどこで詳細を説明するか。出展者の表情や性格まで想像しながら、スタッフの待機場所を含めたレイアウトを構成します。
そして4つ目が「壁面グラフィック」です。日本のブースは情報を詰め込みすぎる傾向にありますが、実際にはほとんど読まれていません。「読ませる場所」にはスタッフを立たせず、あえて無人の場所を作る。逆にスタッフがいる場所では、スタッフが指し示しながら説明できるようなビジュアルにする、といった工夫が必要です。
空間における「言葉」は、文章ではなく「記号」である
展示会ブースにおける「言葉」(竹村氏の資料より)
―空間における「言葉」の扱いについても、竹村さんは独自の視点をお持ちですよね。
竹村
日本の空間デザインでは「言葉」が弱いと感じています。確実にお客さんを集めるには、適切な言葉の選択が不可欠です。ブースの前を通り過ぎる一瞬で興味を持ってもらう必要があります。
私はいつも、ブースには「メインコピー(キャッチコピー)」が必要だと言っています。何を扱っているかを一言で規定すること。よくある「世界に羽ばたく」といった抽象的な理念だけでは、人は寄ってきません。「あなたは何屋さんですか?」という基本を明確に示すことです。
―その「言葉」を、空間の中でどう配置していくのが効果的なのでしょうか。
竹村
言葉は「高さ」と「距離」に応じて使い分けます。10数メートル離れた場所からはブースの上部しか見えません。ですから上部にはメインコピーなど遠くからでも認識すべき情報を配置し、近づくにつれて解像度を段階的に上げていくのが基本です。
また、キャッチコピーは「文章」と考えてはいけません。これは「絵」であり「記号」です。図形やデザインとして考えると、非常に機能的になります。例えば、白黒反転させて目立たせたり、はてなマーク(?)を使って問いかけたり。ルールなんてありませんから、網羅的に配置すべきです。
詳細な説明はパネルにびっしり書くのではなく、営業資料を入れた「バインダー」を手元に用意しておき、説明が必要な時だけ広げる。この「段階を踏む」形が、最近は一番効率的だと感じています。
商品価値を130%に引き上げる「陳列」の5つのポイント
展示会での陳列例(竹村氏の資料より)
―商品そのものを見せる「陳列」のコツについて教えてください。
竹村
「見てすぐに価値が分かるものか、そうでないか」をまず考えてください。高価な商品ほど、なぜその値段なのかという説明が必要です。今の時代、たくさん置けば売れるというわけではありません。一つ一つ丁寧に展示して、見極めてもらうことが重要です。
難しいことは抜きにして、以下の5つのポイントを意識するだけでも劇的に良くなります。
―「見せ方」次第で、受け手が感じる付加価値は大きく変わるのですね。
竹村 その通りです。今後は小売りに限定せず、オフィスのショールームなどにもこの概念を広げていきたいと考えています。
「ビジネス空間デザイン」という視点を持つことが一番のキーです。これが浸透すれば、ポップアップも店舗も大きく変わるでしょう。
―貴重なお話をありがとうございました。展示会デザインのロジックが、これからの商空間をより豊かにしていく可能性を感じました。
モデレーターコメント
「モノを売る」から「体験し、関係を築く」場所へ。竹村さんのお話を伺い、ポップアップストアに求められる空間デザインの緻密さに改めて気づかされました。
商業施設の「同質化」を打破する鍵は、短い会期で確実に人の心を動かす「展示会デザインのロジック」にあります。来場者心理を計算したレイアウトや価値を引き上げる陳列の作法は、オフィスなどあらゆる「人が集う場」に応用できる普遍的な知見です。
この「仮設のロジック」が、これからの商空間づくりの可能性を大きく広げてくれると感じる、刺激的な時間でした。

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