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  • 掲載:2026年03月09日 更新:2026年03月13日

ランドスケープアーキテクトが説く 愛される風景のつくりかた
有限会社オンサイト計画設計事務所 代表取締役/パートナー 鈴木裕治

鈴木裕治氏
「建築は敷地に一からつくりあげるものですが、ランドスケープは木を植えたり、一手間加えるだけでその場所が一変するくらい、広く深い可能性が潜んでいる」そう語るのは、オンサイト計画設計事務所を率いるランドスケープアーキテクトの鈴木氏。
星野リゾート「星のや」シリーズをはじめ、数々の象徴的なプロジェクトを手掛けてきた鈴木氏は、どのようにして土地の記憶を読み解き、人々の心地よい「居場所」を創出してきたのでしょう。ランドスケープデザインで体現する都市と自然の在り方、そして人と空間の幸福な関係性を築くためのヒントなどを伺いました。

Guest

鈴木 裕治 | Suzuki Yuuji

1968年鎌倉生まれ横浜育ち。1991年関東学院大学工学部第一部建築学科環境デザインクラス修了同大学関和明研究室研究生、ササキエンバイロメントデザインオフィスを経て1998年有限会社オンサイト計画設計事務所を共同設立。現在代表取締役パートナー。登録ランドスケープアーキテク(RLA00260)、一級建築士、一級造園施工管理技士、自然再生士。千葉大学・東京都立大学・東京電機大学非常勤講師。

有限会社オンサイト計画設計事務所
東京都港区芝3丁目24番1号
駿河ビル5F
03-5444-3166

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原点はプログラミング。「人が好き」で選んだランドスケープへの道

鈴木裕治

―最初に、鈴木さんがこの道を志したきっかけについてお伺いしたいのですが。

鈴木  私は小さい頃から電子工作やコンピューターが好きでした。皆が外でワイワイ騒いでいる中で、私は中学生ぐらいから、すでにプログラミングができるスキルがあり、将来はプログラマーの道に進むのだろうと思っていました。
ただ、大学に行く時に「何か違うな」という気がして。その原因は、私が「人好き」だったからです。人が好きなのに家に籠もって黙々と仕事をすることがしっくりこない。あとは「このままだと友達や彼女ができないのではないか」という危機感もありました(笑)。

その後、大学進学のタイミングに建築学科で環境デザインを学ぶことになったのですが、環境デザインクラスは建築以外にも、プロダクトから都市計画まで人にまつわるデザインを広く学ぶクラスでした。その中に「ランドスケープ」という分野があり、学んでみたらすごく面白かった。建築は一からつくりあげるものですが、ランドスケープは木を植えたり、一手間加えるだけでその場が一変するくらい、広く深い可能性が潜んでいることに気づきました。今後はランドスケープが世の中の希望を見出すきっかけになるのではないかと興味が湧き、専攻することにしました。


建築家や行政との折衝と調整、そして合意形成へ

鈴木裕治氏

―ランドスケープデザインの業務で、特にご苦労されたプロジェクトや、印象に残っているエピソードなどをお聞かせください。

鈴木  そうですね。これはデザインそのものというより、ランドスケープデザインを実現するために、まだ社会が成熟していない中でどうかたちを実現していくかという点ですごく高い壁を感じました。デザインは好き放題絵が描けるのですが、それを形にするのは難しい。
特に難しかったのは、2000年代初期に私がランドスケープ主任技術者として関わった「東雲(しののめ) キャナルコート」というプロジェクトでした。工場の跡地をUR(当時は公団)が再開発する案件で、伊東豊雄さん、隈研吾さん、山本理顕さんをはじめ、名だたる建築家が6組ほど呼ばれていました。ランドスケープからは建物を建てるための骨格や、各街区のデザインをしなければならず、建築家の先生方も我々の意見に耳を傾けてはくれますが、意見がぶつかり合うので、その調整や合意形成が楽しくもありましたが、苦労しました。

さらに大変で不毛と感じたのは公団側との折衝です。これだけ大きな街区だと建築、外構さらには設計、施工で担当者がすべて縦割りになり、本来まとめるべき彼らの代わりに設計側がその橋渡しをしてまとめないといけない。やりたいことを提案しても「今までの手続きから外れるからできません」と言われる。そこで「できないことをやるためにはどうすればいいんですか?」と必死に戦いました。
全体の竣工まで10年くらいかかったのですが、途中、本当に病みそうになって暴露本を書こうかと思ったくらいです(笑)。でも結果として、住んでいる人にとっては素晴らしい場所ができ、自分の心も収まりました。社会でランドスケープを実現するハードルの高さを経験した事例です。

その後、汐留の日本テレビや大阪ABC 放送のある「ほたるまち」など、複数の地権者がいる再開発のプロジェクトで「一体に見えるランドスケープデザインを提案してほしい」と依頼されることがありました。地権者の調整役になるわけですが、意外とそれが楽しいのです。そっぽを向いている地権者に向けて具体的な絵を見せると、デザインを通じて「これを実現したいから一緒にやりましょう」という空気感が生まれてくる。デザインを通じて人の気持ちややりたいことが動いていくことに感動し、勉強になりました。


ランドスケープにおける「機能」と「無用の用」

星のや東京

―ランドスケープの最も重要な「機能」についてもお伺いできますか?

鈴木  「居場所」という話をしましたが、居場所は心地よくないと人が居つきません。その心地よさを作る機能は何かと考えると、プロダクトレベルまで落ちてきます。 例えば、座り心地がいい家具。外のベンチは座りやすい高さにただ平らな面があるだけだったりしますが、ラグジュアリーな家具のような座り心地を考慮したデザインが施されていると、心が惹きつけられます。それが機能としての心地よさに繋がります。

建築は「何平米の部屋」「何の機能」というプログラムを解く設計ですが、ランドスケープは具体的な機能を与えられないことが多い。「何かデザインしてください」とだけ言われる。そこで、場所の歴史や使われ方を踏まえて、「この場所にはこういう機能があったほうがいい」と我々が探し出すのです。
建築には「用」がありますが、ランドスケープには「無用の用」があると言っています。一見無駄に見えるものが、実は機能としてデザインされなければならない。その「無用の用」とは何かをいつも考えています。


星のや東京
周りの巨大な再開発やビル群に対して、ヒューマンスケールのエントランスを設えることで、塀などを設けずとも旅館前庭としての特別な領域感を醸成し、都市とつながる広場のような場を実現。


「星のや東京」が目指した都市の広場とは

星のや東京

―都市の広場としての「星のや東京」については、どのようなことを意識してデザインされたのでしょうか。

鈴木  「星のや東京」は、東京の大手町というオフィスビルのど真ん中に温泉旅館を建てるというプロジェクトでパートナーの長谷川と共にデザインに関わりました。本来、温泉旅館は自然の中にあり、塀に囲まれて庭を通って玄関に着くものですが、ここは周りがビルと地続きです。
東京という場所柄、インバウンドの方も多い。そこで、日本の文化を第一に感じてもらいたいと考えました。パートナーの長谷川とも議論し、着物の帯や江戸小紋のような繊細なパターンを古来からある造園技法で表現することにしました。 着物の帯が地面に敷かれているようなイメージで、自然素材や職人技を感じさせるテクスチャーを用いれば、オフィス街の巨大なスケールの中に手作り感のある「別の場所」としての感覚を作れるのではないかと。

丸の内仲通りから連続しつつも、エリアに入ったら「温泉旅館に来た」という到着感を感じてもらえるように、地面に「帯」のようなデザインを敷き詰め、その上にお盆(ビル)を乗せるような構成にしました。閉ざすのではなく、イベントなどとも連携して人が座れるようにしつつ、ひっそりとした雰囲気も感じられる場所を目指しました。


土地の文化を継承する、星野リゾートの哲学

星のや軽井沢

星のや軽井沢
浅間山麓の地形と清流を生かし、森と水の循環を尊重して計画されたリゾート。歩くたびに光や風景が移ろい、自然と共生するランドスケープが滞在体験を形づくる。

―星野リゾートのブランドの強みについてはどうお考えですか?

鈴木  私は「星のや軽井沢」が最初に関わった案件で、星野代表と10年、15年と議論を重ねてきました。星野さんのリゾート作りは、他のブランドのようにどこでも同じものを作るのではなく、その土地の歴史や文化を徹底的に掘り起こし、その場にあったものを一からデザインします。
一度作ったらスクラップ・アンド・ビルドではなく、そこで文化が生まれ歴史が育まれる場所として非日常空間として長く続くものを作ろうとしている。それがブランドの価値に繋がっていると思います。 また、星野さんはこちらの考えをスムーズに実現させてくれるクライアントです。しかしながらプレゼンで代表が違和感を感じたところから議論が発展し、「もっとこう変えたほうがいい」といったディスカッションが建築家も含めて行われ、質が向上します。そこがすごいところだと思います。

―星野リゾートのプロジェクトで、特に思い出に残っている場所はありますか?

鈴木  一番好きなのはと聞かれたら、やはり「星のや軽井沢」ですね。構想から竣工まで10年以上かかり、さらに開業から20年経ってリニューアルもしながら歴史を積み重ねています。
次に「星のや京都」。ここは役所の手続きだけで2〜3年かかりましたが、小川治兵衛という庭園作家が作った庭を、加藤造園さんと議論しながら新しい手法で蘇らせることができました。
もう一つは「星のや竹富島」です。竹富島には伝統的建造物群保存地区の竹富島憲章がありますが、それに完全に従って一から集落を作った唯一無二のリゾートです。当初は島民の反対もありましたが、星野さんが合意形成を重ね、結果として島の文化や生活を体験できる素晴らしい場所になりました。竹富島に泊まるなら連泊をおすすめします。1泊じゃもったいないです(笑)。

―インスピレーションを受ける瞬間とはどのような時ですか?

鈴木  意外とシンプルで、自然現象に感動した時ですね。アメリカのセドナやモニュメントバレーのような荒野で、太陽の動きや地平線を肌で感じた時などです。
地球の中のちっぽけな自分を感じた時の感動を、デザインに活かしています。パートナーの三谷とデザインした、YKKのビル(YKK80 ビル)では、「風見魚」というオブジェを並べて、ビルの谷間の複雑な風の動きを可視化したり、水盤(ミラー)を使って普段見ない雲の動きを映し込んだりしました。
日本庭園も「ここから見るとこういう世界観がある」という実験場のようなものです。そういった自然の動きへの気づきを植物と共に仕掛けて、地球の上で生きていると言う世界観を感じさせることも、常に意識しています。


「来た時よりも美しく」。次世代へ繋ぐバトン

星のや京都

星のや京都

―ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU) での活動についてもお伺いできますか。

鈴木  JLAU の副会長の一人として「ローカルネットワーク」を担当しています。日本においてローカル、つまり地方は多様性の宝庫です。それぞれの土地で庭園や観光などに携わっている人たちがバラバラに活動しているのを、プラットフォームを作って繋げています。 会員がやりたい部会をそれぞれ立ち上げてもらい、セミナーやフィールドワークを展開することで、ランドスケープの社会的認知度を高めていきたいと考えています。

―現代におけるランドスケープデザインの役割や課題、今後挑戦したいテーマについて教えてください。

鈴木  「来た時よりも美しく」という言葉を大切にしています。人が入ることで自然が汚れるのではなく、デザインされた風景があることで、人がそこを愛し、管理し、きれいに保たれる。そういう「愛される風景」を作ることが役割であり課題だと思っています。
今は社会的に、グリーンインフラやSDGs といった言葉が叫ばれていますが、これはもともと我々は昔からやっていたことです。それをさらに高みに上げていきたい。 「地球に優しい」という言葉はあまり好きじゃなくて、「人間に優しい」でいいじゃないかと(笑)。人間が使っていく以上、ウェルビーイングや人の幸せ、コミュニケーションが生まれ、場所も人も良くなっていく循環を作る。そんな環境を作っていきたいですね。

―最後に、注目の素材や製品などがあれば教えてください。

鈴木  素材で言えば、例えば木材をアセチル化して腐りにくくする技術など、既存の素材の弱点を克服したものが気になります。また、ランドスケープの分野では、デザイナーがいない場所でも使える「既製品のプロダクト」がもっと充実するといいなと思います。ちょっとしたシェルターやパーゴラ、テレワークができるカプセルなど、デザインされた良い製品があれば、役所の方などが公園に簡単に導入でき、空間の質が上がります。
建築的な視点を持ったランドスケーププロダクトには可能性があると感じています。

温暖化で日差しが強くなる中、フラクタル日除けのようなものや、人が包まれていると感じられる「巣」のような落ち着く空間。そういった屋根や覆いのある場所を作ることは、建築的な知識も必要ですが、ランドスケープとして売り出せばヒットするのではないかと思っています。


星のや軽井沢 水波の部屋_外観

星のや軽井沢 水波の部屋_外観

星のや軽井沢 水波の部屋_内観

星のや軽井沢 水波の部屋_内観

星のや竹富島 客室「キャンギ」_外観

星のや竹富島 客室「キャンギ」_外観

星のや竹富島 客室「キャンギ」_内観

星のや竹富島 客室「キャンギ」_内観

星のや京都 ライブラリーラウンジ

星のや京都 ライブラリーラウンジ

星のや京都 空中茶室

星のや京都 空中茶室

取材

KENZAI-NAVI Media Planner 秋葉 早紀(二級建築士)
「ランドスケープには無用の用がある」というお言葉に、居場所の考え方や、あえて「何も置かないこと」に価値を見出す「余白」にもランドスケープの奥深さがあるように感じ、デザインの本質を垣間見た気がしました。

鈴木裕治氏・建材ナビインタビュアー・ライター



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鈴木 裕治 | Suzuki Yuuji

1968年鎌倉生まれ横浜育ち。1991年関東学院大学工学部第一部建築学科環境デザインクラス修了同大学関和明研究室研究生、ササキエンバイロメントデザインオフィスを経て1998年有限会社オンサイト計画設計事務所を共同設立。現在代表取締役パートナー。登録ランドスケープアーキテク(RLA00260)、一級建築士、一級造園施工管理技士、自然再生士。千葉大学・東京都立大学・東京電機大学非常勤講師。

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