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  • 掲載:2026年04月02日 更新:2026年04月02日

元金融マンの造園家が語る “リワイルディング”な空間づくり
en景観設計株式会社 代表取締役 中山大輔

中山大輔氏
建築における植栽の役割が、今、大きく変わろうとしている。かつては建物の「装飾」として扱われることが多かった緑だが、サステナビリティやウェルビーイングへの意識の高まりと共に、空間の質を決定づける本質的な要素としての価値が見直されているのだ。
今回お話を伺ったのは、園(EN)を主宰する造園家・中山氏。「昆虫博士」と呼ばれた幼少期、美大でのデザイン学習、そして金融業界での経験という異色の経歴を持つ彼は、生物学的な視点とビジネス感覚、そしてデザイン思考を融合させ、独自のランドスケープデザインを展開している。

Guest

en 景観設計株式会社 代表取締役

中山 大輔 | Nakayama Daisuke

グリーンデザイナー。1981年山口生まれ。武蔵野美術大学卒業後、金融業界に就職。その後、庭園デザイナーとして海外でも数多くの受賞歴を持つ石原和幸氏を師事。2014年en景観設計株式会社設立。現在、同社代表取締役。グリーンデザインやレンタル事業の他、エンドユーザーに向け「HITOHACHI」の店舗運営やEC事業を展開する。手掛けた主な仕事に「BONUS TRACK」(下北沢)、「メルキュール京都ステーション」(京都)ほか多数。

en 景観設計株式会社
東京都港区南青山2-7-1-102
03-5843-1828

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異色の経歴、金融を経て気づいた「生物×デザイン」の可能性

中山大輔氏

―早速ですが、グリーンデザインを始めたきっかけを教えてください。

中山  このグリーンのデザイン業界に入った直接的なきっかけは、前職で石原和幸さんというガーデンデザイナーの方の事務所で働いたことです。
僕は、小さい頃からグリーンというか、生き物が好きでした。小学生の頃は「昆虫博士」と言われるぐらい生き物が好きで、いつも外で遊んで虫を捕まえたりしていました(笑)。
そういった幼少期を過ごして、将来も生物学というか、何か生き物に関わることをやりたいなと漠然と思っていました。それから中学生、高校生ぐらいになって、ファッションやインテリアに興味を持ち始めました。その頃読んでいた雑誌がおしゃれで、「自分もこういう部屋を作りたい」と思い、デザインをやってみたいと思ったのがきっかけで美術大学に入りました。

ところが、美術大学を出た後にすぐにデザインの仕事に就いたわけではなく、少し横道を逸れて、経済やビジネスの勉強をしたいと思い、金融の仕事に就きました。
ただ、やはり金融の仕事は自分には合わないなと感じていた中で、次に選んだのが石原さんの会社だったのです。「生き物を扱うこと」と「デザインして空間をつくること」、その両方ができる仕事だと気づいて、「これをやってみたい」と思ったのがきっかけです。


建築を邪魔せず、引き立てる。「調和」を生む植栽の哲学

施工実績 : Office H

施工実績 : Office H

―生き物である植物を扱う難しさをどのようにして克服しましたか。

中山  一つ大事なテーマにしているのは「調和」です。 僕の会社の社名は「円( EN )」というんですが、これには「縁(つながり)」、「円(まどか=調和)」、そして庭園や造園の「園」という意味を掛け合わせています。
独立した時に思ったのは、建築はすごくかっこいいのに、植栽がそれに合っていなくて台無しにしているケースが多いということでした。せっかく建築がかっこいいなら、植栽もそれに合わせて調和したものがいい。周辺の環境や、クライアントの想い、ビジョンに調和した空間を作りたいというのが最初のテーマです。また、植物同士の調和も大切です。お互いが陽の光を分け合って育つようなバランス、日照条件や環境との調和を図ることが、植栽デザインの一番大事なことではないかと思っています。

実際の自然から学ぶことはすごく多いです。山の中に入ると、高い木があって、その下に中くらいの木があり、さらにその下に低い木があって……と、環境に応じて植物が住む場所を分け合っています。お庭づくりでもスケールは小さくなりますが、高さの違う木々をバランスよく植えるなど、自然から学びながら落とし込んでいくところが一番重要です。


「サステナブル」から「再生」へ。世界的なトレンド〝リワイルディング〟

中山大輔氏

―世間の緑に対する印象やトレンドの変化を感じますか?

中山  僕が感じる一番のトレンドワードは「再生」とか「回復」なのではないかなと思います。今まで「サステナビリティ(持続可能性)」がメインでしたが、そこから一歩踏み込んで「再生していく」という考え方が注目されています。

最近聞いたのが、イギリスなどで出てきている「リワイルディング(再野生化)」というキーワードです。今までは人間にとって都合のいいものだけを育ててきましたが、あえて整えない、手をかけずに自然のままにすることで、虫や動物のすみかを作っていく。芝生も人が歩く場所以外は伸ばしっぱなしにして生態系を戻す、といった「再生」の流れが来ています。日本でも「大地の再生」というのが注目されています。昔ながらの石積みなどを見直して、コンクリートで固めずに水や空気の循環を良くし、土砂崩れを防ぐといった、自然の力を活かす手法が見直されています。

最近のマンションや商業施設の植栽を見ても、より自然で多様性のある植物が植えられています。見た目だけでなく、機能的にも本当に自然に近い環境を作ることが、都市や個人の庭でも広がっていくのかなと思います。


下北沢「BONUS TRACK」に見る、地域と共に育つ風景

下北沢「BONUS TRACK」

下北沢「BONUS TRACK」
完成形を固定せず、使われながら育っていく“ まちの余白” として構想されたプロジェクト。建築のあいだに生まれる外部空間を丁寧につなぐことで、人の行為や活動が自然に重なり合い、下北沢らしいにぎわいと偶発性を生み出している。

―最近話題になった「ボーナストラック(B O N U STRACK)」のプロジェクトについて、完成までのピソードなどをお聞かせください。

中山  最初に事業主である小田急さんから「商業施設の中に植栽をするのではなく、雑木林の中に商業施設ができたみたいな空間にしたい」というお話がありました。それにすごく感銘を受けました。後からつけた植栽ではなく、もともとそこにあった自然の中に建物が建ったような、より自然な雰囲気を目指しました。
また、駅周辺に公園や人がゆっくり留まれる場所が少ないという課題もあったので、外部スペースを広くとり、地域の方が過ごせる場所にしたいという要望がありました。夏は木陰を作り、冬は日向ぼっこができるような、緑に包まれた空間づくりを計画しました。

珍しい点として、メンテナンスをシモキタ園藝部という緑が好きな人々によって生まれた地域コミュニティが担当しています。僕たちが直接手入れをするのではなく、ボランティアの方々に「こうしてほしい」と伝えながら一緒に管理しています。プロが管理して終わりではなく、地域の人が植物に触れ、愛着を持って育てていくことで、より優しい空気感が生まれていると思います。

ボーナストラックでは、ツバメアーキテクツさんと最初のコンセプトづくりの段階から一緒にやらせていただきました。「雑木林のような空間にしたい」という要望に対して、どういった植栽が可能か、舗装材はどうするかなどを建築側と一緒に考えました。

通常、商業施設だと建物と駐車場があって余った場所が緑地になりがちですが、今回は全体を森の中のような空間にするために、どう植栽スペースを配置すればどこにいても緑を感じられるか、ということを一緒に計画しました。建築の計画がある程度固まる前に相談いただけると、より良い提案ができますね。


オフィスは「集まる場所」へ。テクノロジーと自然素材の融合

施工事例 :  Office G

施工事例 : Office G

―オフィスにおけるグリーンの役割についてはどうお考えですか?

中山  この10年ぐらいでオフィスにグリーンを入れるのが当たり前になりました。コロナ禍でリモートワークが増え、オフィスの需要が減るかと思いきや、逆にグリーンの需要は伸びています。オフィスが「作業する場所」から「みんなが集まる場所」へと役割が変わり、従業員が心地よく働ける環境を作るためにグリーンが求められているのだと思います。

これからは、オフィス内で「植物が育つ環境」を作っていくことが課題です。現在はレンタルで定期的に交換して維持していますが、光が足りずに植物が弱ってしまうことが多いため、照明(植物育成ライト) や空調などを活用し、室内でも植物が健康に育つ環境をテクノロジーの力で整えることが求められています。元気な植物があってこそ、人も活力を得られると思います。


取材

建材ナビ広報担当 秋葉 早紀(二級建築士)
下北沢のプロジェクトでは、植栽を植えることで広がるコミュニティや、地域の憩いの場として建築と繋げる考え方があり、凄く素敵なことだと思いました。
お話を伺って一番感じたことは、植栽の役割が大きく変わっているという事です。
社会的な意識の高まりとともに、その価値を大きくするグリーンデザインの重要性が改めて再認識されていると思いました。

中山大輔氏・建材ナビ広報担当



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中山 大輔 | Nakayama Daisuke

グリーンデザイナー。1981年山口生まれ。武蔵野美術大学卒業後、金融業界に就職。その後、庭園デザイナーとして海外でも数多くの受賞歴を持つ石原和幸氏を師事。2014年en景観設計株式会社設立。現在、同社代表取締役。グリーンデザインやレンタル事業の他、エンドユーザーに向け「HITOHACHI」の店舗運営やEC事業を展開する。手掛けた主な仕事に「BONUS TRACK」(下北沢)、「メルキュール京都ステーション」(京都)ほか多数。

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