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  • 掲載:2026年04月24日 更新:2026年05月01日

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート。新進気鋭の建築家が挑む概念と物質を繋ぐ「8つの実践」とは
寺田倉庫株式会社

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
2026年4月21日(火)、天王洲のWHAT MUSEUMにて、新進気鋭の建築家8組による新作模型展「波板と珊瑚礁 ‐ 建築を遠くに投げる八の実践」が開幕しました。
一般公開に先駆け、4月20日(月)に開催されたプレス内覧会は、出展建築家自らが作品の前に立ち、その意図を解説しながら会場を巡る「ガイドツアー形式」で実施されました。
建材ナビは、この濃密なツアー解説に加え、その後の独占取材で得られた建築家たちの真意をお届けします。

建築模型の「静」と「動」が交差する場所——天王洲・建築倉庫の新たな挑戦

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート

「WHAT MUSEUM」外観


東京・天王洲の倉庫街を、アートの街へと塗り替えてきた寺田倉庫。その活動の中心地といえるのが、同社が運営する現代アートと建築のミュージアム「WHAT MUSEUM」です。
この「WHAT MUSEUM」の核となるのが、2016年に設立された「建築倉庫」プロジェクトです。
建築家や設計事務所から預かった貴重な模型を「保管」しながら「公開」するという、世界でも類を見ないこの試みは、模型を単なる資料としてではなく、建築家の哲学が凝縮された「思考のアーカイブ」として次世代へ繋ぐ役割を担ってきました。

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by Katsuhiro Aoki
建築倉庫

そんな建築文化の発信地で、新たに幕を開けたのが今回の新作模型展「波板と珊瑚礁 ‐ 建築を遠くに投げる八の実践」です。
本展に集ったのは、主に2010年以降に活動を開始した新進気鋭の建築家8組。
デジタルテクノロジーによる最適化や、短期間での更新が求められる現代社会において、彼らはあえて「模型」というメディウム(媒体)を使い、思考の射程を「遠く」へ伸ばそうとしています。


会場に足を踏み入れると、そこには単なる「建物のミニチュア」の枠を超えた、多様な表現が広がっていました。緻密な構造体があるかと思えば、映像を伴うインスタレーションが展開される。
展示タイトルである「波板と珊瑚礁」が示す通り、異なる時間軸やスケール、生成の速度が重なり合いながら共存するその空間には、静謐(せいひつ)な中にも建築家たちの思考が「動的」に脈打っているような、不思議な高揚感が漂っていました。
それは、効率化を優先する現代に対し、建築の可能性を再び能動的に問い直す、極めて刺激的な試みと言えます。

ガイドツアー・各建築家による自作解説

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート

今回のプレス内覧会は、一般的な自由内覧ではなく、全作品を順番に巡る「ガイドツアー形式」で実施されました。 13時にスタートしたツアーでは、出展建築家たちが自らの展示作品の前に立ち、来場したプレス陣に向けて直接解説を行うという贅沢な構成。

作品から作品へ、作り手本人の言葉を聞きながら移動することで、単に「見る」だけでは気づけない細かな意図や、素材選定の背景にある思考のプロセスが鮮明に浮かび上がってきます。
8組それぞれの強烈な作家性が、ツアーという一つの流れの中で「波板と珊瑚礁」という大きなテーマへと収束していく様子は圧巻。まさに建築の思考が「遠くに投げられる」瞬間を肌で感じる体験となりました。



【独占インタビュー】各建築家の思考の深層に触れる

01.『Prop』RUI Architects(板坂留五)

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©RUI Architects
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by Nanako Ono
―細部まで研ぎ澄まされた表現に圧倒されました。制作の過程において、特に「解像度のコントロール」や、表現としての「密度の線引き」で苦心された点はどこでしょうか。
板坂  一番は、まさにその「どこまで作り込むか」という線引きですね。ディテールを極限まで詰めるのか、あるいは見えない部分は最小限に留めるのか。
試行錯誤する中で、見えている部分とそうでない部分のコントラストをつけることで、空間の意図がより明確に立ち上がってくると気づきました。その確信を得てからはスムーズに進みましたが、そこに至るまでの判断が最も大きなハードルでした。

―機能性や課題解決が優先されがちな現代建築において、あえて「感覚的な領域」や「言葉にできない要求」をテーマに据えられた背景についてお聞かせください。
板坂  今回の展示会自体が大きな契機ではありますが、思考の根底にあるのは「言葉にできない要求」への向き合い方です。
今の建築業界はロジカルな課題解決ばかりが求められる傾向にあります。 しかし、実際にはもっと感覚的で言語化し得ないものを、施主も、そして空間そのものも要求しているのではないかと感じています。
その実体のない要求にどう近づき、理解を深めていけるか。それが今回の作品を生み出す上での、私自身の思考の出発点となりました。




02.『PULP FICTION (jetway)』DOMINO ARCHITECTS(大野友資)

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©DOMINO ARCHITECTS
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
―非常に物語性の強いアプローチをとられていますが、この作品を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか。
大野  今回「模型の展示」というお話をいただいたのですが、実は僕らは、プロジェクトをクライアントに紹介するための「模型」というものを、これまではほとんど作ってこなかったんです。普段模型を作らずに活動している中で、「自分たちが模型をテーマにした作品を作るなら何ができるだろうか」とずっと考えていました。 その中で一つやってみたいと思ったのが、もともと自分の頭の中にあった「架空のプロジェクト」の具現化です。プレゼンのためのメディアとしての模型ではなく、架空のプロジェクトを一度具現化して、みんなで共有できる「物質」として立ち上げる。そういうものを作ってみたいと思いました。 現実にある面白い場所をモチーフにした架空の建築プロジェクトの案は、大小含めて他にもいろいろあったのですが、その時のムードで「これを作ってみたい」と選んだのが今回の作品です。皆さんも、きっとどこかで見たことがある場所(jetway)だと思います。

―架空のプロジェクトでありながら、「飛行機の搭乗橋(ジェットウェイ)」という誰もが知る空間のモチーフが、非常にリアルでしっくりと迫ってきました。制作において一番大変だったポイントはどこでしょうか。
大野  飛行機に乗る前のあの空間(ジェットウェイ)をしっかりとリサーチして作っていますからね。大変だったのはこれだけのものを「確実に作り切った」ということです。 こうした細かいところまで、すべて自分たちの手を入れています。その一つひとつに等しく、全力で力がかかっている。それが僕らにとって、非常に重要な機会だったと感じています。




03.『都市と眠り』GROUP

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by ma.psd
©GROUP
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
―街中の居眠りという、極めて個人的で無防備な行為を都市設計の視点に持ち込まれたのは、どのような問題意識がきっかけだったのでしょうか。
GROUP  街を観察していると、ファストフード店や喫茶店などの公共的なスペースで、つい居眠りをしてしまう人が大勢います。本来、そうした場所は「休憩」や「飲食」のための場であり、本格的に「眠る」ことは想定されていません。つまり居眠りは、都市計画によってあらかじめ決められた「ゾーニング」から逸脱している行為だと言えます。 では、その「ゾーニングからはみ出した行為」から都市を設計し直してみると、一体どのような空間が浮かび上がるのか。今回の展示は、そうした思考のプロセスを形にする実験として制作しました。

―展示は2つの部屋を横断する構成になっていますね。単に模型を眺めるだけでなく、鑑賞者の視点が段階的に変化していくような仕掛けを感じましたが、その構成意図と制作上の苦労についてお聞かせください。
GROUP  今回は2部屋構成という条件を活かし、時間軸を伴う体験を設計しました。まず最初の部屋で図面を見て自分の現在地を把握していただき、その後、隣の部屋で25分ほどの映像を鑑賞していただきます。映像を観終わった後、再び元の部屋に戻って図面と模型を見ると、最初とは全く異なる意味を持って見えてくる……という、認識の反転を狙った仕掛けです。
技術的には、LEDチップや3Dプリンター、モニター、プロジェクターなど、多種多様なメディアを連動させています。それぞれのデバイスが持つ特性を調整し、一つの体験として統合するプロセスが、制作において最も苦心したポイントでした。
実はLEDの演出にも、ある意図を忍ばせています。少しずつ光が弱まっていくような繊細な調光を行っています。 外の世界は時間の流れとともに夜から朝へと移り変わりますが、この展示空間内だけは常に明るいままです。その不変の光の中で、影だけが刻一刻と移動していく。一見すると何が起きているか戸惑われるかもしれませんが、映像体験を経て再び空間を見渡したとき、その意図が自然と身体に落ちるような感覚を大切にしています。



04.『闇、遅れた微光』Office Yuasa(湯浅良介)

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©Office Yuasa
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by Haruyuki Shirai
―このインスタレーションを構想されるに至った背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。
湯浅  普段から、世の中のあらゆる物事が「すぐに消費されてしまう」という感覚に違和感を持っていました。一方で、建築というものは作り上げるのにも膨大な時間がかかりますし、完成した後も長い年月そこに佇み続けるものです。 世の中のファストな状況に対して、すぐさま反射的に反応しないという点に建築の本来の良さを感じていたので、今回の展示ではそれをインスタレーションという形で表現できないかと考えました。
今回は蓄光塗料という、まさに「時間」を内包する材料を空間の各所に配しています。そこに一定のリズムで強い光を当てたり、消灯したりといった変化を加えることで、空間にいる人の振る舞いが影として現れたり、逆に強い光によってかき消されてしまったりする仕掛けを作りました。
とにかくそこで時間を過ごすこと。時間をかけないと見えないものや、暗くなるまで待たないと現れないものなど、そうした「時空間」そのものへ直接アプローチできるような体験を目指しています。

―「時間を過ごさないと全貌がわからない」というコンセプトを鑑賞者に伝えるのは、非常に難易度が高いのではないでしょうか。空間を構成する上で、その点に対する葛藤はありましたか。
湯浅  「時間を過ごさないとわからない」ということをどう伝えるかは非常に難しい課題でした。一瞬見ただけで「よくわからない」とすぐに出ていってしまう可能性もありますから。 でもそれは、今の世の中で頻繁に起きている現象そのものです。例えばNetflixなどの動画配信でも、開始10分以内に面白いシーンを持ってこないと視聴者に離脱されてしまう。そうした「タイパ(タイムパフォーマンス)」を求める視聴習慣に合わせて、作品の作られ方自体が変わってきているのが現代です。 ただ自分は、建築という「膨大な時間がかかり、多くの人が関わるメディア」に携わっているので、あえてその即物的な風潮に少し抗ってみたいという思いがありました。世の中に対する、ささやかな一石を投じる試みでもありますね。
基本的には、リレーショナル・アート(関係性の芸術)としての側面をこの作品で扱おうとしています。そして、建築や空間というものは、本来そういうものだと思っているんです。 光や影、そして時間を通じて、そこに新たな関係性が生まれたり、あるいは何もないままであったりすることも含めて、一つの「関係性」です。そうした抽象度の高い、言葉ではすぐに説明しづらい静かな部分を扱うのは、ある種の実験のような感覚でもありますね。



05.『What is ○△□ ?』畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©アーキペラゴアーキテクツスタジオ
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by Yohtaro Suzuki
―「建築の完成形」を見せるのとは異なるアプローチを感じました。この展示を構想するに至った思考のプロセスや、背景にあるエピソードを伺えますか?
畠山  私たちは普段、住宅などの建築作品をメディアで発表していますが、竣工写真や図面、文章だけでは、どうしても受け手に「先入観」を持たれてしまうというもどかしさを感じていました。
誌面を通じた情報伝達と、実際の空間体験との間には大きな差があります。誌面でこぼれ落ちてしまったもの、あるいは先入観によって見えなくなってしまった本質的な要素を、展示という形でもう一度作り上げたいと考えたのが今回の始まりです。

―「誌面からこぼれ落ちたもの」を可視化するという試みですね。今回の制作において、特に他者との共創や表現の面で苦労された点はどこでしょうか?
畠山  今回は3つの作品を、それぞれ異なるアーティストに依頼しました。私たちが直接手を加えるのではなく、アーティストとの対話を通じて形にしていくプロセスをとったのですが、言葉では伝わりきらない感覚的な部分をいかに共有し、すり合わせていくかというコミュニケーションには非常に苦労しました。
しかし、その過程そのものに多くの発見がありました。 また、空間構成についても試行錯誤しました。グループ展では各ブースが独立してしまいがちですが、今回はあえて構成を少し崩し、各作品が互いに繋がりや関係性を持てるように設計しています。



06.『ほどかれた結界』ガラージュ

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©ガラージュ
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©ガラージュ
―一つの完成された形を目指したというよりは、複数の思考が重なり合い、絶えず変化しているような印象を受けます。この作品に至るまでの思考のプロセスや、根底にある問題意識についてお聞かせください。
ガラージュ  今回の作品には、これといった明確な「きっかけ」があるわけではありません。最初から完成形が見えていたわけではなく、小さなアイデアを一つずつ積み重ねて、この形に行き着きました。 これ自体が何か一つの確固たる考えを表現しているというよりは、複数の思考の間に存在していて、僕たちが日頃考えている様々なことに関連している……という「状態」そのものなんです。ですから、何がきっかけだったかはメンバー一人ひとりで捉え方が違いますね(笑)。
ガラージュ  僕個人の視点で言えば、最初は「下部を球体にしたい」という直感的な提案から始まりました。事務所のスタッフと一緒に試作を繰り返す中で、「この不安定なバランスこそが目指すべき方向だ」という確信に変わっていきましたね。
ガラージュ  私は新しい建築のあり方を模索する中で、図面以外の伝達手段、例えばダンスの記録である「スコア(譜面)」などの概念に着目していました。動きを記述し、それによって立ち上がる空間は、建築の新しい手立てにならないかと議論していたんです。
そんな時、ある現場の地鎮祭を見かけました。強風の中で竹がしなやかに揺れ、その中で儀式が執筆されていく様子を見て、お祭りのための空間、つまり「プロセスそのものが空間を定義する」あり方に強く感銘を受けました。普段の建築は「建てること」が目標になりがちですが、身体や認識の中に「建築的な意識」が自然と芽生える瞬間、その記憶が今回の作品とも重なっています。
ガラージュ  僕は制作の現場には立ち会えなかったのですが、事務所で送られてきた写真を見た時、意識していたわけではないのに「自分たちが目指している方向に似ている」と直感しました。
ガラージュ  僕たちは「ダンス」についても深く研究しています。変化や動きを記述することは、従来の建築が苦手としてきた分野です。音楽やダンスのように動きを記述する方法を建築に取り入れられないか。その探究が、今回の根本的なテーマにも繋がっています。

―「動きを記述する」という抽象的なテーマを、実際の物質として立ち上げるプロセスには相当な苦労があったのではないでしょうか。特に素材選定や力学的なバランスの調整において、どのような格闘があったのでしょうか。
ガラージュ  まさに、制作そのものが物質との格闘でした。美術館の前のスペースで、自分たちでモルタルを練る手作業から始まりましたが、部材の太さ、長さ、重量が少し変わるだけで全体の挙動が全く変わってしまうんです。
針金の直径も6mmや4mmを試し、重すぎて倒れてしまう失敗も繰り返しました。力学的なバランスの最適解を見つけるまでが非常に困難でしたね。予測不可能でありながら、どこか連動して動く面白さ。それを実現するために、設営期間の1ヶ月をフルに使い、現場で実験を繰り返しました。今もまだ「不安定な中にある安定」を探り続けている、実験の途中のような感覚です。



07.『往還する身体』ALTEMY(津川恵理)

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©ALTEMY
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
Photo by Kento Nishida
―津川さんは普段、多くの制約がある公共空間の設計を手がけられていますが、今回の展示では非常に実験的で純粋な表現に挑戦されています。このプロジェクトが始まった経緯と、そこに込めた建築家としての哲学についてお聞かせください。
津川  もともとは(主催者の)砂山太一さんからお声がけいただいたのがきっかけです。普段の実務や建築設計の枠組みではなかなか実現できない、挑戦的な試みをしたいと考えました。建築家としての哲学やメッセージを、一切のノイズを取り除いた「最もピュアな形」で来館者に届けたいと思ったんです。
私たちは日常的に公共空間を設計する中で、常に「身体性」というテーマを重視しています。人が生き生きと振る舞える空間のあり方を模索し、今回は鏡リサさんとコラボレーションすることで、身体感覚に特化したインスタレーションとして結実させました。

―映像解析から6台のプロジェクターによる投影設計、さらにはプログラミングまで、通常は専門部隊に委ねるデジタル領域をアーキテクトのみで完結させた点に驚きました。あえて自分たちの手でテクニカルな実装まで手がけた狙いはどこにあるのでしょうか。
津川  デジタルインスタレーションは通常、専門の技術チームに依頼するのが一般的ですが、今回はあえて私たちアーキテクトだけで、映像解析から裏側のプログラミング、現場での投影設計まで全てをコントロールすることにこだわりました。
デジタル特有の想定外なバグやエラーとの格闘はありましたが、外部に任せず自分たちの手でやり遂げること自体が、私たちにとっての大きな挑戦でした。音響についても、空間にいる人の数や動きに反応してリアルタイムで変化するように設計しています。その時、その瞬間にしか生まれない「生物(なまもの)」のような空間体験を作り出したかったんです。



08.『東京箱庭計画』平野 利樹

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
©Toshiki Hirano
【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
―今回の『東京箱庭計画』を拝見し、箱庭療法のような心理学的なアプローチと、都市建築というマクロな視点が融合した独特の表現に非常に強い感銘を受けました。どのような「ものづくり」のあり方を提示しようとされたのでしょうか。
平野  主に模型や「ものづくり」の本質に関する試みですね。今回、建築とは直接関係のない「おもちゃ」をすべて中国の通販サイトで購入したことが一つの実験でした。いわゆる広告で見かけるようなサイトで、5万円分ほど買い込んだのですが、そこには「一体誰が買うんだ」と驚くような、突飛でチープなものが大量に含まれていました。例えば、脈絡もなく届くスクールバスの模型などです。 それらの小物が持つ、ある種の「過剰な状態」をそのまま作品として引き受けることで、これまでの建築にはなかったような過剰なエネルギーを持った空間が出来上がるのではないか、という面白さを追求しました。
模型自体は、生成AIで作った3次元データを、パーツ分割せずに一体成型(ワンパーツ)で3Dプリントしています。技術革新によって、こうした高度な技術が驚くほど安価に利用できるようになりました。 下世話な話ですが、以前なら数十万円かかっていた制作が、今では数万円で可能です。かつては高度な知識や技術を持つ限られた専門家にしか作れなかった複雑な形が、今では容易に具現化できる。非常に面白い時代だと思います。

―なぜ「箱庭」という形式を、自身の設計手法の起点とされたのでしょうか。
平野  もともとは大学の授業がきっかけです。学生に建築や都市を考えさせる際、その前段階として箱庭を作ってもらいました。 通常の設計演習では、敷地調査をして、機能を整理して……という画一的な手法に凝り固まってしまいがちです。しかし、それでは「どこかで見たようなありきたりな提案」しか出てこないのではないかという危惧がありました。そこで、一度既成概念を払拭させるための「自由に作らせる」手段として、箱庭という手法を思いついたんです。 このファンタジー的な要素を取り入れた手法は、7年ほど前から東大や海外の大学でも実践してきました。学生との対話から生まれてきた「自由な視点」が、今回のプロジェクトにも大きく活かされています。
生成AIに「建築や都市を作って」と直接指示しても、案外つまらないものが出てくるんです。形は歪でも、窓が等間隔に並んでいたりして、既視感のある造形になりがちです。AIは過去の膨大なデータを学習している以上、これは避けられません。 ですから私たちは、あえて「建築」とは言わずに異なる方向からAIに造形を生成させ、出てきたものをこちらが建築や都市として「見立てて」いく手法をとっています。 3Dプリントした後に、私が手作業で金色の人や木を配置したのもそのためです。そうすることで初めて作品に「スケール感」と命が吹き込まれます。
近い将来、AIが自律的に都市を設計する時代が来るでしょうが、そこに人間がどう関わり、新しい価値を見出せるか。その「見立て」のプロセスこそが、これからの建築家の職能になっていくのかもしれません。



建築倉庫ツアー

【独占取材】寺田倉庫WHAT MUSEUM『波板と珊瑚礁』レポート
建築倉庫ツアーでは、設計の表舞台からは見えにくい「建築家の思考プロセス」を辿る貴重な体験となりました。 800点以上の建築模型が収蔵されており、名だたる建築家たちの模型や実際に見たことがある建築物の模型を見ることが出来ます。

印象的だったのは、きれいに仕上げられた完成模型だけでなく、何度も切り貼りされた「スタディ模型」の展示です。 窓の位置を試行錯誤した跡や、使い込まれた風合いは「検討の手垢が詰まった勲章」と呼ばれ、設計者の思考がそのまま形になっているようでした。 隈事務所の膨大な模型群や、植栽にヘチマを使うような自由な素材選びにも、現場ならではのリアリティを感じました。



新しくできた体験スペースでは、一般の方や子供たちが実際に手を動かして建築を考える体験の場も用意されており、専門領域に閉じこもることなく、広く社会に向けて建築の面白さを発信する窓口となっていました。


開催概要


タイトル
波板と珊瑚礁 ‐ 建築を遠くに投げる八の実践
会期
2026年4月21日(火)~2026年9月13日(日)
会場
WHAT MUSEUM(〒140-0002 東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間
火曜~日曜 11:00~18:00(最終入館17:00)
休館日
月曜(祝日の場合、翌火曜休館)※2026年5月4日(月・祝)、5月5日(火・祝)は開館
入場料
一般 1,500円、大学生/専門学生 800円、高校生以下 無料
※日時指定のオンラインチケットは200円引き(他割引との併用不可)
主催
WHAT MUSEUM
企画
WHAT MUSEUM 建築倉庫、SUNAKI
後援
品川区、品川区教育委員会
公式サイト
https://what.warehouseofart.org/exhibitions/corrugatedcoral
※会期中には、出展建築家によるトークイベントや建築倉庫での連動展示を予定しています。詳細は順次お知らせいたします


取材後記

「建築倉庫」プロジェクトは、2016年の設立から今年で10周年という大きな節目を迎えました。
今回の展覧会では、模型を単なる完成予想図としてではなく、建築家が世界をどう捉えているかを示す「思考を立体化した模型」を体感できる内容となっております。 建築家の頭の中にある思考をダイレクトに感じられる構成となっており、「建築家はこれほどまでに深く、多様な視点で設計しているのか」という驚きを、模型や体験を通して発見していただけるはずです。
建築の専門家はもちろん、初めて建築に触れる方も存分にお楽しみいただける新しい表現の展示会です。ぜひ、その目でお確かめください。



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