- 掲載:2026年07月22日 更新:2026年07月22日
建築が持つ従来の機能に、 最新のアップデートを重ねる 株式会社日本設計 代表取締役社長 篠﨑淳

今回お話を伺ったのは、世界一のクラゲ展示の水族館を支える「流体デザイン」から、震災復旧を観光資源へと変えた熊本城のプロジェクト、そして東京都庁のような巨大建築の改修まで手掛ける、日本設計の篠﨑氏です。多種多様な用途の要求に応え続ける篠﨑氏の視点から、ハードとソフトが融合する「次世代のリノベーション」のあり方を探ります。
Guest
篠﨑 淳 | Shinozaki Jun
| 1988 | 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了 |
|---|---|
| 1988 | 日本設計入社 以来、建築設計群 |
| 2020 | ~現職 |
〈主な設計担当プロジェクト〉
| 2012 | 新宿御苑大温室 |
|---|---|
| 2014 | 虎ノ門ヒルズ 森タワー |
| 2018 | 上越市立水族博物館 うみがたり |
| 2024 | YKK AP30ビル |
| 2024 | 長岡造形大学 第4アトリエ棟 |
| 2025 | 虎ノ門アルセアタワー |
株式会社日本設計
東京都港区虎ノ門1-23-1
虎ノ門ヒルズ森タワー34 階
社会ストックを未来へつなぐ日本設計のリノベーション思想
―早速ですが、日本設計が手がけるリノベーションや耐震改修設計の考え方、取り組み方についてお聞かせください。
篠﨑
我々のリノベーションの特徴は、後ほど個別にお話ししますが、扱っている範囲が非常に広いことにあると考えています。現在の社会的要請として、ストックの有効活用が求められる中で、この分野を強化しているのは確かです。
リノベーション部門の強化については、5年ほど前の中期経営計画において、成長戦略として明確に位置づけました。これは時代への対応でもあります。加えて、日本設計も来年で創立60周年を迎え、 自分たちが設計してきた建物も更新時期を迎えており、現代の機能や構造に合わなくなっているものも出てきています。そうした自社が設計した建物を未来につなげていくという意味でも、リノベーションの強化を図っています。
日本の社会的要請としての「ストック活用」と、自社が手がけてきた建物を「未来へつなぐ」という2つの方向性で取り組んでいます。これが我々にとっても、業界にとっても重要なテーマであると考えています。
水族館のリノベーション事例 加茂水族館・海響館・アクアマリンふくしま
―御社が継続的に手掛けておられる水族館の改修やリノベーションはどのような手法で行われるのかお聞かせください。
篠﨑
日本設計が水族館建築を手がけ始めたのは2000年頃からです。2000年竣工の「アクアマリンふくしま」が最初のプロジェクトとなります。 その後、「下関市立しものせき水族館 海響館」(2000年竣工)を担当してきました。水族館のリノベーションは、単なる改修ではなく、増築しながら全体を更新していくスタイルが多いのが特徴です。
例えば「しながわ水族館」では、我々の設計ではありませんでしたが、2000年代後半から増築と一部のリノベーションを継続的に行っています。
その後も「鶴岡市立加茂水族館」(2014年竣工)や「上越市水族博物館 うみがたり」(2018年竣工)などに関わってきました。 「アクアマリンふくしま」では、東日本大震災の被災からの復旧・リノベーションという特殊な事例もあり、高度な空調システムなどが評価され、空気調和・衛生工学会の特別賞(リニューアル賞)もいただきました。
現在は長期修繕計画にも携わっています。 水族館は非常に高機能で、設備設計が最も難しい建物の一つです。その改修事例として、今年4月に12年ぶりにリニューアルオープンした「加茂水族館」の増築および改修は非常に興味深いプロジェクトになっています。
加茂水族館 世界一のクラゲ展示を支える「流体デザイン」
鶴岡市立加茂水族館
「世界一のクラゲ展示」として知られる加茂水族館。特殊な水流技術「流体デザイン」が、巨大な水槽内でクラゲを最も美しく見せる水流を作り出し、展示の質を支えている。
―クラゲの展示が世界一とのことですが、クラゲだからこその見せ方の工夫などはありますか?
篠﨑
ご存じの通り、クラゲは自ら泳げませんので、見せ方の鍵は「水槽内の水流」になります。その水流自体を美しく循環させることが基本です。2014年当時、我々は世界最大級のミズクラゲ水槽の設計に挑みました。私たちはこれを「流体のデザイン」と呼んでいますが、まず小さな水槽でクラゲが美しく舞う水流を観察し、手作業でトレースすることから始めました。美しい水流のあり方を設計し、コンピューターシミュレーションの目標値を設定しました。既存のソフトウェアでは表現しきれない部分もあったため、専門家と共同でシミュレーションソフトを開発し、小さな水槽の成功事例を巨大な水槽で再現できるか検証しました。実際に回るまではドキドキでしたが、ノウハウの積み重ねと微調整により、世界最大級の水槽で綺麗な循環を実現できました。とにかく「水流が命」の設計でしたね。
また、「加茂水族館」では、当初の設計段階から、展示の更新や設備の配管替えが容易にできるような仕組みを採り入れました。既存の本館側の機能を一部外に出すことで、本館自体もリノベーションしやすい環境を作っています。その上で、今回の増改築では「ラボ」と名付けた飼育研究機能をより充実させ、展示機能も持たせました。この20数年の経験で学んだのは、常にフレッシュな展示体験を提供するために、設備が複雑な建物でも容易に改修できる仕組みを最初から入れておくことの大切さです。それと増築を組み合わせる。その最新作がまさに「加茂水族館」です。
地域と歩む水族館づくりと熊本城の復興
熊本城特別見学通路
「見せる復興」の象徴となる特別見学通路。石垣に配慮した独立構造により、修復の過程を間近で体感できる新たな観光のあり方を提示している。
―リニューアルのきっかけや、水族館という施設の特性についてお聞かせください。
篠﨑
水族館は収益が上がったら新しい要素を加えていく、リノベーション前提の施設だと言えます。一度建設して40年そのままにするのではなく、定期的に手を入れ、リフレッシュしていくことが人気の持続に繋がります。また、水族館は地域の方々の思いが非常に強い施設です。「アクアマリンふくしま」が震災からわずか4ヶ月で再オープンできたのも、市民の「地元のプライドとして再開させてほしい」という声に押されたからです。
「加茂水族館」についても、リニューアル工事時に基金を募るなど、市民の力を大きく受けています。水族館づくりは、まさに「まちづくり」そのものだと言えます。
―もう一つの大きな事例として、熊本城特別見学通路についても伺わせてください。
篠﨑
熊本城の震災復旧は、完了まで30年以上かかるとされています。その中で我々が提案したのは、復旧の過程そのものを観光資源として見せることです。貴重な歴史遺産を、現代の技術で直していくプロセスには、大きな感動があります。
文化財保護の観点から、通常は遺構のそばに構造物を建てることはできません。しかし、地盤や石垣に対して配慮した独立した構造の見学通路を実現することで、文化財を守りながら多くの来場者に復旧の歩みを伝えることができました。
このプロジェクトで強調したいのは、復興計画のプロジェクトマネジメントから関わっている点です。どの順番で、どう復旧していくか。どうすれば地域経済に貢献できるか。そうした前段の計画から提案し、今の形に繋がっています。
次世代のリノベーションソフトとハードの融合
足尾銅山記念館
辰野葛西事務所が設計に関わった足尾鉱業所本屋(1911 年竣工、現存せず)を復元した。過去を再現するだけでなく、地域の記憶を未来へ繋ぐリノベーションとして、新たな価値を創出している。
―リノベーションにおける今後の課題や、いわゆる「次世代リノベーション」について、どのようにお考えでしょうか。
篠﨑
ポイントは3つあります。1つ目は、ハードだけでなく「ソフト」を重視したリノベーションです。例えば、空調を一律の温度にするのではなく、暑がりの人と寒がりの人がそれぞれの場所で快適に過ごせるよう「見える化」し、制御する。こうした人の行動やソフトウェアによる改善は、エネルギー効率の向上にも直結します。
2つ目は、巨大な構築物の価値の更新です。「霞が関ビルディング」や「新宿三井ビルディング」のリノベーションや、昨年完了した東京都庁の大規模改修などを我々は手がけてきました。都庁のような巨大な建物の機能を維持したまま、最新の耐震性能や設備へと更新していくのは、カーボンニュートラルの観点からも非常に有効です。今後は「新築かリノベーションか」という区別すらなくなっていくでしょう。20年、30年というスパンで常に更新し続け、価値を落とさずにストックを維持していくことが当たり前の時代になります。
3つ目は、近代歴史遺産の活用です。港区の旧公衆衛生院の保存再生や文化庁の京都移転に伴う、歴史的建造物の改修など、歴史的建造物に新たな価値を与えるプロジェクトを数多く手がけています。
また、「足尾銅山記念館」のように、長い間失われていた建築を復元することで、周辺の歴史的地区全体を修復し、価値を再定義することも重要だと考えています。
未来を担う若手世代へのメッセージ
―これから社会に出る学生や、若手の設計士に向けてメッセージをお願いします。
篠﨑
これから社会に出る学生の皆さんは、大きな転換期に向き合う世代になります。「建築とはこういうものだ」という先入観を持たず、社会課題を凝縮して解決する役割として建築を捉えてほしい。社会的責任の大きいテーマから、地域に根ざしたプロジェクトまで、建築には社会に理念を訴えかける大きな可能性があります。
―最後に、建材サイトを運営する立場から伺いたいのですが、今後どのような建材にニーズが生まれるとお考えでしょうか。
篠﨑
深刻な人手不足の中で、ロボティクス導入の動きがありますが、今の建材はロボット向きではありません。今後はAIやロボットに対応した新しい「工法」や「建材のあり方」が変革の鍵になるでしょう。意匠性だけでなく、施工の省力化に繋がる建材情報へのニーズが高まると感じています。
また、CO2排出量に関するデータはもちろんですが、やはり「工法としての手間をどう省けるか」という情報も重要です。CO2排出量と施工効率のバランスをどう取るか。その判断材料となる情報を提供していくことが、次のステップにおいて非常に重要になると思います。
―本日は貴重なお話を、ありがとうございました。
取材
建材ナビ広報担当 秋葉 早紀(二級建築士)
水族館の改修において『リニューアル』を前提に設計するという考え方は大変興味深く、4月にリニューアルした加茂水族館でも、常に変化し続ける展示体験への期待が高まりました。また、取材を通して柔軟な空間設計を可能にする日本設計の技術力についても知ることができ、今後の動向にも注目して参りたいと思います。
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篠﨑 淳 | Shinozaki Jun
| 1988 | 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了 |
|---|---|
| 1988 | 日本設計入社 以来、建築設計群 |
| 2020 | ~現職 |
〈主な設計担当プロジェクト〉
| 2012 | 新宿御苑大温室 |
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| 2014 | 虎ノ門ヒルズ 森タワー |
| 2018 | 上越市立水族博物館 うみがたり |
| 2024 | YKK AP30ビル |
| 2024 | 長岡造形大学 第4アトリエ棟 |
| 2025 | 虎ノ門アルセアタワー |
株式会社日本設計
東京都港区虎ノ門1-23-1
虎ノ門ヒルズ森タワー34 階

