- 掲載:2026年08月20日 更新:2026年08月20日
機能性と意匠性が表裏一体になった「モイスNT」内装材&「アイカピュール耐熱」床材 WANKARASHIN×アイカ工業株式会社
- WANKARASHIN
- 代表取締役・デザイナー
石飛 亮 - 神奈川県横浜市南区山谷
- https://wankarashin.jp/
-
横浜と長崎県五島列島に拠点を構え、ジャンルや場所を問わず様々な活動を行っています。その地域の文化や歴史に接続した新たな地図を描くように建築をデザインすることを目指しています。
1987 栃木県宇都宮市生まれ
2011 横浜国立大学 卒業
2013 横浜国立大学大学院 Y-GSA 修了
2013-2019 Junpei Nousaku Architects
2019- WANKARASHIN 設立
2021-2024 横浜国立大学大学院 Y-GSA 設計助手
2025- 関東学院大学 非常勤講師
- アイカ工業株式会社
- 営業統括本部 営業企画部
プロモーション企画室
北川 有里子 -
愛知県名古屋市中村区名駅一丁目1番1号
JPタワー名古屋26階
TEL:03-3843-4030 - https://www.aica.co.jp/
- 部署は、業務部、見積センター、技術サービス、マーケティングなど転々と異動しながら、仕事内容は少しずつ変化をし、CADやDTPから徐々にWEBへシフト。現在は、建材ポータルサイト管理、写真撮影・管理、SNSアカウント運営などがメイン。
WANKARASHIN
美しい光景を守るため〈修道院のような蒸溜所〉をテーマに設計されたと伺いましたが。
100年の歴史を持つ「半泊教会」に隣接するこの美しい風景を守るには、既存の環境に保守的に馴染ませていくのではなく、この風景を更新しながらも本質的な部分を継承する設計でなくてはならないと考えました。そこで掲げたテーマが、半泊教会と一体的となる〈修道院のような蒸溜所〉です。修道院のような蒸溜所をつくるにあたり、石や木など身近であり、経年変化で風景に溶け込んでいくような素材を使いたいと考えていました。
一方で、敷地はいわゆる離島である福江島の中でも奥地にあり、アクセスする山道も細く材料の搬入の課題もありました。そのためできるだけ島内で入手可能であり、現場に搬入しやすい寸法のもので構成していく計画としました。とはいえ蒸溜所という用途上、どうしても機能性を求められる箇所もあります。そのような部分には工業製品でありながらも、周囲の自然素材に馴染む物質感のあるものを選定していきました。
「モイスNT」を採用された理由や、素材そのものの表情を活かそうと考えられた背景を教えてください。
半泊集落は潜伏キリシタンの方たちが自らの手で切り開いた土地であり、半泊教会の海側には信徒の方たちが1つ1つ積み上げた石垣が今でも残っています。隣地に建つ蒸溜所も小さな素材が集積して大きな空間を構成するようなつくり方ができないかと考えました。モイスNT内装材(素板)は天然素材で作られており、表面には小さな空隙があります。それによって調湿機能を実現しているだけでなく、何か石材のような生命的な素材感も持っている部分に可能性を感じて採用しました。また塗装などの仕上げは施さずに、素材本来の質感や単位が見えるようなかたちとしています。
蒸溜所の床に「アイカピュール耐熱」床材を採用された決め手はどのようなものでしたか。
蒸溜室の床には耐熱・耐薬品・耐荷重という機能性が求められたのですが、いわゆる塗り床によって工場然としたものにはならない方が良いと考えていました。「アイカピュール耐熱」床材は耐久性はもちろんのこと、粒子が混ざっているようなマットな素材感が意匠的にもまるで地面のような印象を与え、蒸溜室を修道院における生産の中庭と見立てた設計コンセプトにも合致していると感じて採用することにしました。
このプロジェクトを通じ、建築における素材選びの新たな視点などがあれば、教えてください。
一般的に工業製品における建材は、どうしても人工的で無機質な印象のものが多いように感じています。一方で自然素材を模して作られたものは、却ってそれがフェイクに見えてしまい、むしろ逆効果になってしまうこともしばしばあります。ですが、見た目を優先するのでなく機能性を愚直に追求した結果、その素材自体が本来持っていた機能美を獲得し、逆説的に自然素材との融和性をつくり上げることもあるのではないかと考えています。そのような機能性と意匠性とが表裏一体となっている素材に可能性を感じています。
アイカ工業株式会社
今回、「五島つばき蒸溜所」に御社製品が採用された事へのご感想をお聞かせください。
このようなプロジェクトにおいて、内装には調湿性や空間環境の安定性が求められ、加えて蒸溜所という用途特有の熱や水、においへの配慮も不可欠になります。「モイスNT」内装材や「アイカピュール耐熱」床材といった製品が、意匠の主張を前面に出すのではなく、空間の背景として静かに機能し、建築の思想やストーリーを支える役割を担っているとすれば、それは素材メーカーとして非常に本望な関わり方だと感じています。地域の風土や歴史を尊重しながら、新しい価値を静かに立ち上げていく五島つばき蒸溜所の姿勢は、これからの建築やものづくりにとって一つの指針になるように思います。私たちメーカーもまた、機能性の提供にとどまらず、設計者の思想や土地の文脈に寄り添える素材であるために、どうあるべきかを改めて考えさせられるプロジェクトでした。
WANKARASHIN様より「モイスNT」の素材感を活かしたいというご要望を伺った際、どのように感じられましたか?
一般的に、内装材は仕上げによって質感や印象を整え、空間の完成度を高めていくものと考えられがちです。しかし本プロジェクトでは、素材を「整える」方向ではなく、「そのまま受け入れる」姿勢が取られており、そこに五島つばき蒸溜所の建築コンセプトの核心が表れているように感じました。島の風土や歴史、祈りの場に寄り添うという設計思想のもとでは、素材もまた過度に意味付けされる存在ではなく、場の背景として静かにあり続けることが求められていたのだと思います。
「モイスNT」の素材の機能性や成り立ちを深く理解した上で導き出された選択であることが伝わってきました。製品を「完成品」として扱うのではなく、建築プロセスの一部として位置付け、その存在の仕方まで含めて設計されている点に、私たちは強い敬意を抱きました。
蒸溜所の床に採用された「アイカピュール耐熱」床材について教えてください。
蒸溜所の床に採用された「アイカピュール耐熱」床材は、本来、熱水や薬品、重量物の往来など、非常に過酷な条件下での使用を前提とした床材です。そのため、機能性を最優先に計画される製造現場で使われるケースが多く、今回のように「高いデザイン性」や「空間体験」が重視されるプロジェクトに導入されることは、メーカーとしても大きな意味を持つ取り組みでした。今回の計画において私たちが最初に意識したのは、「アイカピュール耐熱」床材を「工業的な床材」として前面に出さないことでした。
蒸溜所は確かに製造の場である一方で、内部には銅製の蒸溜器や木造の構造体が並び、見学者や作り手が滞在する空間としての質も強く求められています。蒸溜所の要である蒸溜室の床には、耐熱性や耐薬品性に加え、可動タンクの重量への耐久性が求められました。「アイカピュール耐熱」床材は機能性を満たすとともに、左官に近い仕上がりや素材感を持っているため、木のアーチ架構や壁面ともよく馴染むと考えて採用されました。また短期間での施工が可能であるため、工期の短縮にもつなげることができたそうです。床材は、完成後に「意識されにくい」存在である一方、空間全体の印象や落ち着きに大きく影響します。そのため、設備や木材、壁材との関係性の中で、丁度良い存在感だったかもしれません。
プロジェクトの完了後、メーカーとして特に感じられたことはありましたか。
今回のプロジェクトを通じて、私たちがあらためて実感したのは、離島案件や高い設計要求は、決して特別対応ではなく、メーカーとしての姿勢そのものが問われる機会だということでした。製造・物流・営業のそれぞれが独立して動くのではなく、一つの建築を実現するチームとして関わる。その意識を持てたことが、五島つばき蒸溜所という場所にふさわしい形で素材を届けることにつながったのだと思います。このプロジェクトストーリーを通じて、私たちは「この製品を使うと、どんな空間ができるか」だけでなく、「この製品とともに、どんな時間を積み重ねられるか」を想像していただきたいと考えています。建築とともに成熟し、使い手の記憶を静かに受け止め続ける存在として、『単なる建材以上の物語』を、今後も丁寧に伝えていきたいと思います。


