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  • 掲載:2026年01月22日 更新:2026年01月23日

作り手の魂が宿る空間づくり。PORTERの店舗デザインにみるブランド哲学とは
Fourteen stones design 代表 林洋介 × 株式会社吉田 企画開発本部長 松原賢一郎

林氏と松原氏
カバンをはじめとするプロダクトを通して、長きにわたり日本のものづくりの精神を体現してきたPORTER(ポーター)。今回は、PORTERのプロダクト開発の責任者である松原氏と、数々の店舗デザインを手がけてきたデザイナーである林氏に、ブランドのこだわりを空間に落とし込むプロセスや、リアルな場が持つ価値などについて、語っていただいた。

Guest

(右)
株式会社吉田 取締役・企画開発本部長

松原 賢一郎 | Matsubara Kenichiro

1997年に株式会社 吉田入社。吉田カバンにて、素材開発や商品企画、店舗開発などを行なっている。吉田カバンは1935年から現在に至るまでメイド・イン・ジャパンにこだわった鞄を作り続けている。今年で創業90周年を迎え、北米・ヨーロッパ・アジアでの海外展開も積極的に進めている。

株式会社吉田 東京本社
東京都千代田区東神田 1-17-6
03-3862-1021

(左)
フォーティーンストーンズデザイン 代表

林 洋介 | Hayashi Yosuke

京都生まれ。2001年「14sd / Fourteen stones design」設立。主な受賞歴にJCD DESIGN AWARD 2001大賞、日本空間デザイン賞 2021, 2024金賞、if DESIGNAWARD 2022,2025(ドイツ)ほか多数。主な仕事に、嗜好品研究所の各店舗(OMOTESANDO KOFFEE,KOFFEE MAMEYA,KOFFEE MAMEYA-Kakeru-)、吉田カバン各店舗、中川政七商店 分店業態店舗など。

フォーティーンストーンズデザイン
東京都世田谷区駒沢2-32-14
03-6805-5314


多様なプロダクトの「背景」を創る。
PORTERらしさを表現する設計思想。

対談する林氏と松原氏

―吉田カバンの長い歴史やブランド哲学を店舗に落とし込んでいく過程で、こだわった点や大変だった点はどこでしょうか。

林  僕がお話をいただいたのは、松原さんたちが社内で自分たちの手でお店をディレクションしていく、ということにもう一度向き合う、というタイミングだったように思います。吉田カバンは「メイドインジャパンのものづくり」というくらいの知識でしたので、改めて資料を見せて頂いたり、お話を深く伺いながらブランドについていろいろ教えて頂きました。

PORTERのプロダクトは、特定のシリーズだけを作っているわけではなく、様々な職人さんが居て、多種多様な素材やデザインが存在します。それを一つの概念的なコンセプトでまとめようとするのは無理があると感じました。

例えば、今いるお店、「PORTER OMOTESANDO」の業態は顕著で、旗艦店であることからも様々なシリーズの鞄を扱っていますので、その商品の雰囲気に合うような背景を複数パターン作る必要があります。一つのお店の中で、商品ごとに背景や見せ方を工夫するという意味で、吉田カバンの仕事はとても繊細です。条件やシーンを作り分けながらも統一感のあるディレクションをデザインや設計の隅々に反映していく必要がありました。

松原  以前は、社内の別のセクションが担当していて、設計や施工も別の会社さんが入っていました。僕にとっては初めての経験だったので、自分がやるからには何か違うことをやった方がいいんだろうな、と。そこで林さんと組むことで、また新しい形でブランドを表現できるのではないか、という期待がありました。

素材選びから本当に細かいところまで、ミーティングを繰り返し行いましたが、林さんはこちらの意図や意向をすごく丁寧に汲み取って、それを形としてアウトプットしてくれるので、本当に助かりました。


―各店舗での違いはどのように決めているのでしょうか。

松原  「こういうお店を作りたい」というコンセプトをまず林さんにお伝えします。例えば、既存店舗よりももう少しカジュアルな感じにしたいとか、商品の見せ方、ロケーションなどを考慮して、「表参道店とは違う見せ方にしよう」とか。本当に雑談レベルから始まります。

林  立地環境も様々ですからね。駅のコンコースのようなトラフィックの激しい場所に出店する際は、既存のコンセプトの屋号でやるのではなく、その環境にふさわしい切り口で一つの業態として作りたい、といったご相談をいただきながら、いくつかの業態を一緒に作ってきました。


ブランドの旗艦店・PORTER OMOTESANDOに込められた仕掛け

フォーティーンストーンズデザイン 代表 林氏

―こちらの表参道店で、特にこだわった部分や時間をかけたポイントは。

松原  この店舗は2000年にオープンしたのですが、2015年の改装のタイミングで林さんに入っていただきました。その後、ヘアサロンだった2階が空くことになり、大家さんから「2階も借りませんか?」という話が来ました。。ただ、当時は1階と2階が中で繋がっていませんでした。

林  2015年にまず1階の改装をやらせていただきました。その時に、この建築が将来的に2階と繋げられるスラブ開口が可能な構造になっていることが分かっていましたので、2018年に2階を改装するタイミングで内部から1F 〜2Fを繋ぐための螺旋階段を設ける提案をしました。インテリアデザインとしてはかなり大掛かりな工事だったので、驚かれた方もいたかもしれません。
この店舗は「PORTER OMOTESANDO」というのですが、ブランドのシグネチャーでもあるPORTERという名称は、ホテルなどへカバンを運ぶポーターに由来しています。カバンに精通している職業であるポーターをお店のスタッフに見立ててホテルのエッセンスを空間内の至るところで表現しているのがこの業態のコンセプトです。
入口を入ってすぐのカウンターは、ホテルのレセプションを兼ねたレジカウンターになっています。ラウンジや、ライブラリーに見立てたスペースを設けたり、商品を見せるスペースは小さな部屋がいくつか連なっているような設計にしていて、それが先ほどお話しした「多様なカバンの背景」にも繋がっています。


―お客様の滞在時間を増やすような仕掛けや工夫などは、どのように。

林  まさに、多様な商品に合わせて背景も変わっていくようなシークエンスを作っています。他の店舗の例ですが、商業施設の共用部との境界を曖昧にするような仕掛けをすることもあります。明確な入口を設けず、通路の延長線上にあるような作りにすることで、お客様が「お店に入る」と意識することなく、いつの間にか商品に触れている、という状況をデザインしていくこともあります。

松原  僕自身がそうなのですが、お店に入ってすぐに店内すべてが一望できてしまうと、その先に行ってみたい、と思わない。だから、少し仕切りがあって「この奥には何があるんだろう?」と感じさせるような、店内を巡りたくなる動線がいいな、と常に思っています。その点、この店舗は1階から螺旋階段で2階へ上がっていく体験も面白いですし、2階にはライブラリーのような書棚をイメージした什器を置くなど、色々な発見がある空間になっていると思います。


リアル店舗だからこそ伝わる価値。五感で体験するものづくり

株式会社吉田 取締役・企画開発本部長 松原氏

―リアル店舗の展開や見せ方にこだわられている理由をお聞かせください。

松原  はい。我々は90年間、メイド・イン・ジャパンにこだわり、日本の職人さんたちと一緒にものづくりを続けてきました。その価値は、実際にバッグや素材を触っていただいたり、機能を試していただいたりしないと、本当の意味では伝わりにくいと考えています。オンラインでは見ることはできても、触ったり、持ったり、使ったりという感覚は得られません。
我々のスタッフががお客様と対面で接客し、商品の魅力を伝える。オンラインの利便性も大事ですが、それだけに偏るのではなく、実際に触れていただくことを大切にしたい。そこに実店舗の重要性を感じています。

林  日本の職人さんが作る、カバンごとに異なる複雑な工程を経たプロダクトがこれだけ豊富に揃っていて、モノ自体に本当に力がある、というのは稀有なことだと思います。そういう力がモノにあるからこそ、お客様に直接見てもらう場が絶対に必要だと感じますし、お店を作る意味を改めて肯定してもらっているような気持ちになります。
カバンはすごく日常に密着した道具です。高級品というより、日々の生活の中で使われるもの。レザーの質感、生地の張り、軽さ、そういったものは、ECでは代替できないように思います。

松原  レザーの匂いや、あらゆる素材に触れた時の音や手触りなどもそうですね。人間の五感をフルに使って体験していただく。そういう場として、リアル店舗はオンラインにはない価値があると思います。だからこそ、店内では基本的にお客様が手に取れない商品は置いていません。


挑戦を続けるための信頼関係。ブランドの未来を共に作る

フォーティーンストーンズデザイン 代表 林氏

―「今までとは違う形」を意識された松原さんですが、林さんとの協業は如何でしたか。

松原  過去を否定するわけではありませんが、僕が携わる前までは「カバンのメーカーが作った店舗」という印象でした。歴史のある日本のバッグブランドの旗艦店としてもっと違う見せ方でお客様に楽しんでもらえる店舗を作りたい。それを実現させるには、今までのやり方と同じでは変わらないだろう、と。自分が「この人の感覚は良いな」と感じる人と組むことで、新しい店が作れるはずだ、と思って林さんにご相談しました。
品川駅の店舗を作ったときの話なのですが、毎日何万人もが行き交う場所で、ディスプレイを少し変えたくらいでは誰も変化に気づかない。それを林さんに相談したら、「什器ごと動かせるようにしてはどうですか」と提案してくれたのです。カバン1個の移動よりも、什器の塊が動く方が空間の印象は劇的に変わる。その発想は僕には全くありませんでした。その時に「ああ、この人に頼んでよかったな」と心から思いましたね。
僕にとってお店作りも「ものづくり」なので、こういう面白い考えを持つ人と一緒にやれば、きっと面白いことができるだろうと。それ以来、約11年間ずっと林さんにお願いしています。

林  ファッションブランドのように、時代ごとにデザイナーを変えていくやり方もありますが、PORTERはファッションではなく「道具」としての側面を第一に考えているブランドです。これまでの長い対話の時間からの共通言語があるからこそ、僕らの提案も受け入れていただきやすいのかもしれません。

松原  ただ同じことをやっているだけでは、今の時代は難しい。お客様を良い意味で裏切るような変化は常に必要です。長年やってきた歴史があるからこそ、その思いを汲み取ってくれた上で、新しい提案をしてくれる林さんのような存在は不可欠です。この作業をまたゼロから違う人とやるとなると、なかなか難しいでしょうね。

プロが注目する建材とは。そして、100周年に向けて

フォーティーンストーンズデザイン 代表 林氏

―設計やデザインのプロとして、今注目している建材や、今後使ってみたい素材などはありますか。

林  個人的には、やはり自然素材に近いもの、その素材が持つ良さを活かした建材に惹かれますね。あとは、設計者の自由度が高い、いわば「余白」のある建材でしょうか。規格が決まりすぎていると、どうしても表現が画一的になってしまう。例えば、大判で提供されていて、そこから僕らが自由に切り出して使える、といった素材はありがたいです。作り手の意図に応えられるような建材がもっと増えると、空間デザインはさらに面白くなると思います。

松原  僕らもカバンで化学繊維も使いますが、やはり天然素材や古くから伝わる染めや織りの技術など、温かみのあるものは欠かせません。自然の素材(木・石・革・鉄など)の組み合わせは、やはり相性がいい。それは什器や建材にも通じることだと思います。

―最後に、吉田カバンの今後の展望についてお聞かせください。

松原  スタッフには常々言っているのですが、「90周年良かったね、じゃあ次は100周年を目指そう」と。それは当たり前ですが、その前に、僕らは一日一日を大切に、新しい気持ちでやっていこう、と。「毎日が新しい始まり」という意識をスローガンにしています。長く続けることはもちろん大事ですが、その前提として、一日一日をフレッシュな気持ちで取り組む。そうして気づいたら100周年を迎えていた、というのが理想ですね。現実は失敗だらけですけどね(笑)。でも、その思いが、僕らのものづくりの根幹にあることは間違いありません。

―そのフレッシュな感覚が、新しいアイデアや商品開発に繋がっているのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。


Column
1935 年創業。日本の老舗バッグメーカー吉田カバン

PORTER

吉田カバンのブランド「PORTER(ポーター)」は、耐久性と機能性を兼ね備えた高品質な製品で知られている。定番の「タンカー」から、ビジネスシーンに合うレザー製品まで、幅広く展開している。

PORTER表参道

今回の取材場所となった「PORTER OMOTESANDO」。吉田カバン初の直営店として2000 年に誕生。
ブランド名の由来である“ホテルのポーター” をテーマに設計された旗艦店です。ホテルのロビーを思わせる温かみのある1 階、ギャラリーのようにバッグを展示する2 階、そして螺旋階段でつながる空間構成が特徴。螺旋階段でつながる2 フロアでは、「PORTER」を中心に「POTR」「LUGGAGE LABEL」の世界観を展開し、限定品やコラボレーションアイテムも充実している。上質な素材と照明で統一された内装は、アートやカルチャーを体感できる“体験型ショップ” としての魅力を放っている。
所在地:東京都渋谷区神宮前5-6-8

吉田カバンの「OLDNEW」

吉田カバンの「OLDNEW」シリーズは、日本古来の染色技法「柿渋染め」に挑戦した新しい試み。中綿入りの真っ白なバッグを職人が一つひとつ原液の柿渋に浸し、揉み込み、天日干しすることで独特の深みある色合いを生み出している。


取材

KENZAI-NAVI Media Planner 秋葉 早紀(二級建築士)
今までとは違う見せ方に挑戦されているお二人のこだわりと強い信頼関係が感じられました。"リアルの店舗だからこそ”の店内には、職人技を間近で見られる工房など、ブランドの魅力が凝縮されています。ぜひ、PORTER表参道店をご体験ください。

取材後に撮影した集合写真



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株式会社吉田 取締役・企画開発本部長

松原 賢一郎 | Matsubara Kenichiro

1997年に株式会社 吉田入社。吉田カバンにて、素材開発や商品企画、店舗開発などを行なっている。吉田カバンは1935年から現在に至るまでメイド・イン・ジャパンにこだわった鞄を作り続けている。今年で創業90周年を迎え、北米・ヨーロッパ・アジアでの海外展開も積極的に進めている。

株式会社吉田 東京本社
東京都千代田区東神田 1-17-6
03-3862-1021

(左)
フォーティーンストーンズデザイン 代表

林 洋介 | Hayashi Yosuke

京都生まれ。2001年「14sd / Fourteen stones design」設立。主な受賞歴にJCD DESIGN AWARD 2001大賞、日本空間デザイン賞 2021, 2024金賞、if DESIGNAWARD 2022,2025(ドイツ)ほか多数。主な仕事に、嗜好品研究所の各店舗(OMOTESANDO KOFFEE,KOFFEE MAMEYA,KOFFEE MAMEYA-Kakeru-)、吉田カバン各店舗、中川政七商店 分店業態店舗など。

フォーティーンストーンズデザイン
東京都世田谷区駒沢2-32-14
03-6805-5314

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