- 掲載:2025年12月27日 更新:2025年12月27日
削りの先に宿る意志。家具工房KOMA・武内舞子が語る「技術を磨き、チームで挑むものづくり」 家具職人 武内舞子
本記事では、KOMAで12年にわたり製作に携わる家具職人・武内舞子さんに、技術の習得、チーム文化、女性職人としての葛藤や成長について伺いました。
性別や年次ではなく、「できるかどうか」で評価されるフラットな環境。若手が挑戦できる仕組み。そして、続けるために必要な覚悟——。
職人として、そして“チームの一員”として現場に立ち続ける武内さんの言葉から、これからのものづくりの姿が見えてきます。
Guest
東京都出身。KOMAの製品を展示会で見て惚れ込み、2013年アルバイトとしてKOMA入社。2014に正社員に。 KOMA社長の松岡氏の椅子部門の一番弟子。職人であると同時に生産管理、日々の段取りなどを通して部門をまとめ、部下を管理する立場でも力を発揮している。
株式会社KOMA 本社工房
東京都武蔵村山市
衝撃を受けた「削り」と、フラットな評価基準
武内 高校卒業後から家具づくりの道を歩み始め、その頃から「KOMAにすごい削りをする人がいる」という噂は耳にしていました。 実際に松岡に会ったのは、1年ほど経った頃。
知人に誘われてKOMA展示会に行った際、初めて直接話す機会があり、そのエネルギーに圧倒されました。「この人たちと仕事ができたら絶対に楽しいだろうな」と感じたのが大きなきっかけです。
―その印象は今も変わっていませんか?
武内 変わらないですね。当時から他にない削り出し技術を持っていて、「きっとすごい有名になるんだろうな」と感じたのを覚えています。
KOMAのクルー
―KOMAというチームの特徴はどこにあるのでしょうか?
武内 KOMAは「やれる人が上に行く」というフラットな評価基準です。勤続年数や立場に関係なく、実力と行動で評価される。やればやるほど任される仕事が増える実感があり、それが面白さにつながっています。
―初めて大きな仕事を任された時はどんな気持ちでしたか?
武内 突然、先輩が担当していた仕事を「やってみて」と言われたんです。松岡は普段見ていないようで、実は私が陰で練習している姿を見てくれていたようで…。
「いいんですか?」という驚きと、先輩を押しのけて自分がやる複雑さ、でも嬉しさもありました。「よし、やるぞ」と覚悟が決まった瞬間でした。
―実力があれば、先輩を追い越すこともある環境なんですね。
武内 そうですね。そこで「よしきた!」と思える子が残っていく。KOMAならではの環境だと思います。
TEL:03-6383-5585
TEL:03-6434-0023
「若い衆」が輝ける仕組みと、技術へのあくなき探求
武内 そうですね。会社が制度として整えてくれているのが大きいです。就業後に作った作品を買い取って販売してくれるなんて、普通の木工業界ではまずありません。若いうちから名前も出ますし、挑戦すると次の仕事につながる。本当に恵まれた環境です。
―「薄削り大会」も印象的でした。
武内 元々は全国大会があり、その上位入賞者の方に松岡がカンナの研ぎ方を教わったのが始まりです。 その技術を松岡が持ち帰ってKOMAに取り入れたところ、仕上げ時間が大幅に短縮されるほど効果があって、「これは全員で極めるべきだ」となりました。
今では毎週金曜に「カンナ部」としてカンナ台を並べて全員で取り組んでいます。 刃物を使って造形する仕事においては極めて重要な技術で「何ミクロン」という規定値を出せなければ担当できない仕事もあるので、基礎として徹底しています。
―継続が重要なんですね。
武内 はい。継続しないと感覚が戻ってしまいますし、まぐれで数字が出ても意味がないので、積み重ねがすべてです。
デザインを具現化する難しさと、職人としての矜持
武内 親方がデザイン・設計・試作したものを、私が読み取りながら形にします。自分の頭の中にない形を理解するまでが難しく、少しの違いも見抜かれてしまう。 一点もののクオリティが求められるので怖さもありますし、形を変えてしまって怒られることもあります。
また、職人として売り上げを作るためにスピードも求められます。任される仕事が増える中で「これで大丈夫なのか」と不安になる瞬間もありますが、必死に食らいついています。
でも「やればできるようになる」という実感があるのが、この仕事の面白さです。 薄削りなどは特に分かりやすくて、最初はティッシュのような厚さだったものが、向こうが透けて見えるほど薄く削れるようになる。 数字を測らなくても手応えで分かるようになってくるのは面白いです。
―製作ペースは決まっているのでしょうか?
武内 基本的には100脚単位などのロット生産で、途中段階まで進めておく形をとっています。仕上げの手前まで進めておくので、「月に何本」とは一概には言えません。
―迷った時の判断基準は?
武内 とにかく親方に聞く。早く、正確な答えにたどり着くためにはそれが一番です。
「辞める選択肢はない」。葛藤の先に生まれたチームの結束
武内 あります。職人としてというより「人として」怒られることが多かった頃。後輩に教える立場になっても言葉が足らず叱られたり…。
また、家具職人の現場ですから材料も重いですし、入ったばかりの頃は体力が追いつかず「ついていけないかも」と悩んだこともありました。
整体の先生に「辞めるか鍛えるかだね」と言われて、「辞める選択肢はない」と決めて鍛えました。
―女性が働くには厳しい場面もあったのでは?
武内 昔は女性が少なかったので余計にそう感じました。女性が入ることはあったんですが、体力が続かなかったりして辞めてしまうことが多かったんです。 入っては辞め、の繰り返しで、「自分に原因があるんじゃないか」「どうやったら人が続くのか」と悩んだ時期もありました。
今は広報を担当している親方の娘をはじめ、女性スタッフが増えました。メディアに出るようになった影響もあるかもしれません。
私も、入ってくる女性たちには「もし無理だったら先に言ってね」と伝えています。
女性たちはすごく手際が良くて、指示をすると「分かりました!」とテキパキ動いてくれます。女性特有の視野の広さや気の利く動きで現場を支えてくれています。
今残っている子たちは、ものづくりが好きで、何よりKOMAのことが大好きなんですよね。
「チーム女子」の結束は強いですよ。
親方を超える日を夢見て
武内 今の製品はほとんど親方のデザインですが、「若い衆」の制度を通して自分の作品にも挑戦していきたいです。 まだ実力は足りませんが、いつか自分の椅子を製品にできたらと思っています。
―最後に、これから職人を目指す方へメッセージをお願いします。
武内 ものづくりの職人をやっていて思うのは、「好きなことを仕事にできているのは最高に楽しい」ということです。「なんとなく」ではなく、「本当にこれが好きだ」と思えることで仕事を選んでもらえたら幸せなんじゃないかなと思います。
取材後記
建材ナビ広報担当 長谷部 沙織
KOMAの工房を訪れると、張り詰めた空気の中に静かな熱量がありました。木を削る音、刃物を整える動作、そのひとつひとつに「誤魔化さない」という姿勢が宿っています。
武内さんが語った「辞める選択肢はなかった」という言葉は、ものづくりを続けたいという純粋な意志の表れでした。
勤続年数よりも技術が評価され、若手が挑戦できる仕組みをつくる——。
KOMAの文化は、職人の世界に新しい風を生み出しているように感じます。
本記事が、読者の皆さまが職人の仕事に対して抱くイメージを少しでも深め、KOMAが生み出す家具の背景にある“人”の魅力を伝える一助となれば幸いです。
建築が直面する新たなフェーズに挑戦する女性たち
「建材ナビジャーナル」特集記事
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武内 舞子 | Maiko Takeuchi
東京都出身。KOMAの製品を展示会で見て惚れ込み、2013年アルバイトとしてKOMA入社。2014に正社員に。 KOMA社長の松岡氏の椅子部門の一番弟子。職人であると同時に生産管理、日々の段取りなどを通して部門をまとめ、部下を管理する立場でも力を発揮している。
株式会社KOMA 本社工房
東京都武蔵村山市

