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掲載:2026年10月26日更新:2026年10月26日

非常口は「押すだけ」で開くか。海外基準の監査でも求められるワンアクション退避を実現する緊急退避装置「パニックバー」(ゴールドマン株式会社)

火災や地震のとき、建物の非常口は「押すだけ」で開くでしょうか。国内の非常口は、サムターンを回してレバーハンドルを下ろす方式が一般的です。平常時は何気なくこなしている動作ですが、煙が迫り、背後から人の圧力がかかる状況では、鍵を回す余裕はありません。
海外では「押すだけで開く」パニックバーが非常口の標準的な装置として広く使われており、近年は国内の工場でも、海外取引先の監査をきっかけに導入が進んでいます。本記事では、ゴールドマン株式会社(神奈川県横浜市)が扱う開き戸専用の緊急退避装置「パニックバー」を紹介します。

パニックバーとは——バーを押せば、ラッチが引き込まれて開く

パニックバーは、非常口の開き戸の内側に取り付ける横長のバーです。バーを押すとラッチ(かんぬき)が引き込まれ、そのまま押し開けるだけでドアが開きます。手で握る、回す、引くといった操作がいらず、体重をかけるだけで退出できるワンアクションの装置です。
従来のサムターンカバー付きのドアでは、カバーを外し、サムターンを回し、レバーハンドルを下ろし、押し開けるという4つの動作が必要です。パニックバーなら、子どもや高齢者、車椅子の利用者、両手がふさがっている人でも、体や肘で押して脱出できます。内側からは押すだけで出られる一方、外側は施錠できるため、防犯と避難を両立できるのが大きな特長です。

国内法令は満たしていても、海外基準の監査では通らない

非常口は「押すだけ」で開くか。海外基準の監査でも求められるワンアクション退避を実現する緊急退避装置「パニックバー」|(ゴールドマン株式会社)
非常口の施錠について、国内では建築基準法施行令第125条の2が、避難階段に通じる出口などの戸の施錠装置を「屋内からかぎを用いることなく解錠できるもの」と定めています。工場や事業所では、労働安全衛生規則第549条により、常時使用しない避難用の出入口に避難用である旨を表示し、容易に利用できるように保持することが事業者の義務です。サムターンとレバーハンドルの組み合わせは、こうした国内のルールを満たしています。

ところが、電子・半導体や自動車・EV産業のサプライチェーンで広がるRBA(責任ある企業同盟)行動規範では、話が変わります。RBAの第三者監査(VAP監査)では、非常口が鍵や工具、特別な知識なしにワンアクションで開けられるかが確認されます。サムターンとハンドルを回す二段階の操作は、避難障害として重大な不適合と判定されるおそれがあります。海外と取引する国内メーカーでは、素材加工や部品組み立てを担う二次・三次サプライヤーの中小工場も対象で、不適合が続けばサプライチェーンから外されるリスクがあります。監査では、扉が外開きであること、扉の前後に物を置いていないことも併せて確認されます。
パニックバーは、この要求にそのまま応える装置です。米国では集会施設や学校など一定の用途・規模の建物で設置が義務づけられており、国際的には非常口の標準といえる存在です。

5つの方式と防火戸対応。既存ドアへの後付けも

ゴールドマンが扱うのは、台湾I-TEK社のブランド「Klacci」のパニックバーです。ラッチの方式によって5つのシリーズがあります。

- 1100(リム式):本体をドア面に後付けするベーシックなタイプ。片開き用で、既存ドアに設置できます

- 1200(垂直ロッド式):上下のロッドでラッチする、主に両開きドア向けのタイプ。1100より丈夫で、下側のロッドを省いたレスボトムロッド仕様も選べます

- 1300(コンシールド垂直ロッド式):ロッドとラッチをドア内に隠蔽し、デザインを損ないたくないドアに向きます

- 1400(箱錠式):ドアのほぞ穴に箱錠本体を納めるタイプ

- 1500(マルチポイント):1200と1100を組み合わせ、2点または3点でラッチします

型番にFが付くものは防火戸用で、UL/cULの3時間防火戸用パニックバーとしてリストされています。耐久性はANSI/BHMA A156.3のグレード1で、対応ドア厚は45〜56mm。薄いドアには別売の嵩上げプレートで対応します。本体の長さはドア幅914mm以下なら33インチ型、915mm以上なら45インチ型を選び、片開きで幅1,219mm・高さ3,048mmまでのドアに標準で取り付けられ、両開きは1100+1200、1200+1400といった組み合わせで構成します。本体は鍛造のシームレスデザインで、仕上げは標準のサテンステンレスのほか、真鍮やブロンズ、クロームなど8種類。機械部分には5年保証が付きます。

セキュリティと両立する電気錠・オプション

防犯や情報漏洩の対策で非常口や工場内の扉を施錠している現場では、「避難のために開けやすくすると、防犯が弱くなる」というジレンマが起こります。パニックバーは外側からの入室を制御したうえで設置できるため、このジレンマを解消します。
外側のレバーハンドル(トリム)は電気錠にでき、入退室管理システムと連携させれば、カードや顔認証で入り、内側からは押すだけで出る運用が可能です。内側の操作に対しても、バーを押してから15秒または30秒間アラームを鳴らして退出を遅らせる遅延退出、85dBの出口アラーム、プッシュバーの操作やラッチの状態を検出して信号を送るスイッチなど、用途に応じたオプションを組み合わせられます。バーを押してラッチを引き込む動作そのものは機械式で、電源に左右されません。マグネット電気錠や電気ストライクを併用する場合は、火災報知器やフェイルセーフの仕組みと連携させ、火災時や停電時に解錠される構成にします。

メーカー自社施工で、現調から引き渡し、メンテナンスまで

パニックバーは、ドアの厚さや幅、開き方、防火戸かどうか、電気錠との取り合いによって機種と部品が変わります。ゴールドマンは、国家資格を持つ施工技術部の社員が現地調査から取り付け、引き渡し、メンテナンスまでを担うメーカー自社施工の体制をとっています。建設業許可を持ち、電気工事業の届出も済ませているため、電気錠を含む工事も一貫して任せられます。

同社は2008年の創立以来、ドアに関する建築金物を輸入・販売・施工してきた専門会社で、2017年にI-TEK社と独占販売契約を結びました。パニックバーの納入先は、病院やホテル、商業施設、学校、空港のほか、カジノの避難専用出口やハイセキュリティ施設にも広がっています。専門誌『建築防災』でも紹介されました。

まとめ:非常口の「押すだけ」を、設計の標準に

法令を満たしていることと、非常時に誰もが確実に逃げられることは、同じではありません。海外基準の監査は、その差を「ワンアクションで開くか」という一点で問うています。工場や倉庫の改修で非常口の仕様を見直すとき、またホテルや病院、商業施設の新築で避難と防犯を両立させたいとき、パニックバーは検討に値する選択肢です。リム式なら既存ドアへの後付けもできるので、まずは現状のドアで何ができるかを相談してみてください。その際は、ドアの開き方向や扉まわりの保管状況も合わせて見直しておくと、避難経路全体の安全性が高まります。


著者:溝下 翔太

■ 保有資格・活動

一級建築士・建築基準適合判定資格者

■ 経歴

近畿大学建築学科卒業後、設計事務所で5年間の設計実務を経て自治体に入庁。建築確認審査・住宅政策・都市計画など建築行政に10年以上従事し、2026年に独立(United Archi.Lab代表)。
住宅・建築・不動産分野で執筆実績400本以上、建材メーカー公式サイトのコラム・SEO記事の執筆経験も豊富。設計と審査の両側を知る実務経験を活かし、製品の技術的な強みと法規上の位置づけを、建築のプロにも一般の読者にも伝わる言葉で解説します。
防災・耐震、建築基準法など制度分野の解説が得意です。

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