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建築家インタビュー
  • 掲載:2025年08月28日 更新:2025年09月10日

再生をデザインする。対話と技術で築く新たな建築文化を社会へ広げていく。
株式会社渡邉明弘建築設計事務所 渡邉明弘

株式会社渡邉明弘建築設計事務所
株式会社渡邉明弘建築設計事務所 渡邉明弘
株式会社渡邉明弘建築設計事務所
渡邉明弘(わたなべあきひろ)
代表取締役・管理建築士・一級建築士

〒150-0036
東京都渋谷区南平台町13-4 南平台セントラルハイツ306
【経歴】

1986年
福岡県北九州市生まれ
2009年
北九州市立大学 国際環境工学部 環境空間デザイン学科 卒業
2011年
首都大学東京(現:東京都立大学)大学院 都市環境科学研究科 建築学域 修了
2011-2015年
青木茂建築工房 勤務
2016年
渡邉明弘建築設計事務所 主宰
2022年
株式会社渡邉明弘建築設計事務所 代表取締役

【受賞歴】

2005年
北九州市立大学卒業設計優秀賞
2009年
JIA東海支部設計競技 一次審査通過
2012年
GOOD DESIGN AWARD2012(前職在職時)
2018年
GOOD DESIGN AWARD2018
2024年
日本空間デザイン賞2024 Longlist入選・サステナブル空間賞
2024年
GOOD DESIGN AWARD BEST100
2024年
第10回 これからの建築士賞
2024年
JIA優秀建築選2024
2025年
JIA関東甲信越支部 住宅部会賞
2025年
第51回 東京建築賞 奨励賞

【講演・執筆】

2017年
カルガリー大学 ゲストクリティーク
2024年
武蔵野法人会 週刊不動産経営(2016年8月〜2022年6月、2024年5月〜現在まで連載)
2024年
JIA関東甲信越支部住宅部会
2024年
湘南設計監理協会
2025年
神奈川大学建築学部建築学科「デザイン系不動産学基礎」ゲストレクチャー

【展示】

2018年
グッドデザイン賞受賞展
2024年
グッドデザイン賞受賞展
2025年
発掘展


対話とリサーチに充分な時間をかけることを大切

AWAに仕事を依頼して下さる方の多くは、既存建物の利活用に関する設計力を期待して下さっています。旧耐震だったり既存不適格といった具体的な要望や悩みをお持ちの方は多いですし、具体的な間取りを提示されることもあります。

ただ、最初にクライアントから提示された具体的なリクエストをそのまま図面化することはほとんどありません。クライアントの言葉ではなくその奥にある本質的な思いや背景こそが重要だからという理由ももちろんありますが、それに加えて再生特有の技術的な問題が立ちはだかったり、「できるのはこんなことだろう」という先入観があったりするからです。
なので、私たちは設計に取り掛かる前にクライアントとの対話や、既存の土地や建物のリサーチに充分な時間をかけることを大切にしています。企画や調査と呼んでいるこのステップに十分なリソースをかけることで、クライアント自身すらまだ言語化できていない要望や、プロジェクトが秘めている可能性を共に発見するのです。


形式知を蓄積し、作業の定型化・自動化を進めていく

建築は感覚的判断と論理的判断が交錯しながら構築されていくものだと思っています。私たちは設計のプロセスにおける行為を「暗黙知」と「形式知」に分けることで、その質と再現性を高める試みをしています。

特殊なプロセスをマニュアル化したり、色々なプロジェクトに共通のスタディ方法を採用してみたり、あるプロジェクトの成果を次のプロジェクトで発展させて取り入れたり。様々な方面で形式知を蓄積して、色々な作業の定型化・自動化を進めています。そうすることで新人からボスまで役割に応じて主体的に仕事へ取り組めています。また、デザインの議論のための時間を毎週とってじっくりディスカッションしています。

視野を広げる意味では、同年代の建築家を事務所に招いてレクチャーをしてもらうという試みをしています。一般参加も受け付けて、色々な人が聴きに来てくれるのがいいですね。


「再生をデザインする」というビジョンに共感してもらう

既存を利活用する方法について私たちのクライアントは、積極的に情報収集をしているといえるでしょう。既存不適格という言葉を知っている方も珍しくありません。そこまで調べた上で設計を依頼されることはとても嬉しいことですし、毎回の打ち合わせが刺激的な時間になっていますが、ともすると技術的な問題解決に終始してしまいかねないとも言えます。新築に比べて省コストや短工期といった実利が再生の大きな魅力であることは間違いありませんが、それに加えてもっと多様で創造的な価値を持った行為であることも伝えたいです。

何よりも大切なのは「再生をデザインする」という私たちのビジョンに共感してもらうことです。現実的な条件や実利も踏まえつつ、再生ならではの建築を一緒に探求できるクライアントとの仕事が一番楽しいです。

新築とは別の本質的な建築のアプローチを考える

既存建物の利活用そのものが既にトレンドとして定着しつつあると言えますが、一方で「ファッションリノベ」とでも言えそうな一過的なトレンドに終わらないか、あるいは新築の下位互換のような存在になってしまわないか、という危機感があります。

原状回復ではなく価値観を持って空間を刷新するスタンスをリノベーションという言葉で普及させたことや、表層をきれいにするだけでなく建物をしっかり長寿命化させる耐震補強や大規模修繕とった技術的な蓄積を進めたことは、先輩建築家の功績だと思います。
私たちの世代では、それをさらに進めて、新築とは別の本質的な建築のアプローチを考えられたらと思っています。

再生を新しい建築文化としてデザインし認知を広げていく

長らく新築至上主義の価値観が広く信じられてきましたが、人口減少、資源の制約、社会インフラの老朽化など、私たちを取り巻く現実は明らかに変化しています。これからの建築はますます「何を新しく建てるか」ではなく「何をどのように活かすか」が問われる時代になっていくでしょう。

私は再生をやむを得ない選択肢ではなく、新たな建築行為として積極的に捉えたい。なぜならそれは単なる保存や延命ではなく、制約を創造力に変え新築では再現できない魅力を生み出す行為だからです。
そんな意味での再生を新しい建築文化としてデザインし、社会にその可能性について認知を広げ、根付かせていけたら。成熟社会に転換した現代において、今ある建物の活用に対する発想力はますます求められ、そこに再生の文化と技術が必要とされると確信しています。





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