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掲載:2022年01月17日 更新:2022年01月17日

病院設計のキモは看護師長の意見を吸い上げることにある

私は現場に立ち会うまで、病院では「偉い人が物事を決めている」と思っていました。
ところが実際は、「偉い人が実務で必要な意見を吸い上げまとめている」という解釈のほうが正しいようです。
病院設計では、偉い人にあたる、理事長や院長、その下の各部署の部長だけのヒアリングで済ませてしまうと、思わぬ落とし穴に陥ることがあります。

そこでこの記事では、正しいヒアリング相手とその理由について解説していきます。
この記事の結論は以下になります。

病院設計では、「看護師長」への的確なヒアリングが重要


1.看護師長の意見が重要な理由


看護師長とは看護師の意見の取りまとめる役で、一般的な会社で言うなら課長の役割です。内科とか外科など科に一人いるようなイメージです。
看護師長の意見吸い上げが重要な理由は2つあります。

・病院をいちばん使用するのは看護師
・看護師長は看護師の意見をいちばん把握している

順番に説明しましょう。


2.理由1:病院をいちばん使用するのは看護師

病院設計のキモは看護師長の意見を吸い上げることにある

理由の1つ目は、病院をいちばん使用するのは看護師ということです。
実際に病院を動かしている人には3種類います。
  1. 医師
  2. 看護師
  3. バックオフィス(事務など)
細かく分ければ放射線技師、薬剤師、病院システムのメンテナンスチームなどがいますが、大きくわけるとこの分類となります。

病院をすみずみまで知っているのは看護師

上記3分類のうち、病院の大多数を占めるのは医師と看護師です。
一般的な病院なら患者を医師が診察して、医師の補助を看護師がしてます。
医師は診察のタイミングでしか患者さんと接しませんので、基本的にはずっと診察室にいます。

一方で、看護師はいろんな場所で仕事をしています。
ナースステーションに行ったり、患者に体温計を渡したり、病状をヒアリングしたり、医師の近くで器具を渡して補助したりと、さまざまなところで仕事をします。

つまり、病院のいろんな場所を使っている人たちです。

医師1人に対し12人の看護師が働いている

では、実際の看護師と医師の病院における割合を見てみましょう。
厚生労働省が出している医療法に基づく人員配置基準によると、一般病院の療養病床なら、医師1人が見れる患者さんは48人、看護師1人が見れる患者さんは4人までと決まっています。

つまり、医師1人に対し12人の看護師の割合になります。
多くの看護師が広い範囲で働いていることになります。

設備をすみずみまで利用し、広範囲にわたって多くの人数が働く看護師の意見を取り入れることは、良い病院設計につながります。



3.理由2:看護師長は看護師の意見をいちばん把握している

病院設計のキモは看護師長の意見を吸い上げることにある

ここで、実際にものが決まる流れについて考えてみます。

病院設計の流れ

設計をして、仕様、製品選定、設計図面などが決まる流れはある程度共通です。

①担当者(管財部、医事部)と打ち合わせ
②部署へのヒアリング
③社内決済、社内調整
④設計が決定

ヒアリングや調整が1回だったり2回だったり、病院によって違いはありますが、おおむねこの流れで決まります。


決裁権があるのは医師ばかり

上記の流れで注目したいのが、「②部署へのヒアリング」です。
ヒアリングは各部署をまとめている部長にすることが多いです。
下記は、各部署の部長(最終決定権のある人)です。

・看護部長   ・・・ 看護師全体のトップ
・医療部長   ・・・ 医師のトップ
・診療支援部長 ・・・ 放射線治療やリハビリなどのトップ
・医事部長   ・・・ 医療事務のトップ
・センター長  ・・・ 予防医学センター、血液浄化センター、がんセンターなど病院の特殊治療部門のトップ


上記の大半は医師です。
病院で最も多く働いている看護師のトップ看護部長は、他の部署と同様に1人しかいません。
つまり決定権をもつ人のほとんどが医師という組織になっているため、看護師の意見が反映されにくい構造となっています。

病院内の事をすみずみまで知っていて人数が多い看護師の意見よりも、限られた場所にいる医師の意見が反映されてしまうと、 病院の利便性などが損なわれてしまう原因となりかねません。
たとえば、診察室にしかいない医師が、看護師ばかりが使うナースステーションの使い方に口出ししてしまうと、看護師にとって使いにくい施設となってしまいます。

看護師長は部署のトップ

看護師が使う施設は、専門的なことが多く範囲も広いです。
看護師にとって使いにくい施設とならないためにも、決定権をもつ人達だけでなく、看護師長のヒアリングが大切になります。

看護師長は、部署のトップとして担当部署の業務がスムーズに行えるようにマネジメントをしています。 その部署の看護師・看護主任がスムーズに働くことができるよう部署の全体像を把握してまとめています。

看護師の意見をいちばん把握している看護師長にヒアリングして、外科や内科などのそれぞれの科ごとの細かな要件を拾うことは、病院設計にとって非常に重要となります。


4.ヒアリングが漏れるとデスマーチが待っている

病院設計のキモは看護師長の意見を吸い上げることにある

看護師長のヒアリングが漏れると、いわゆる設計のデスマーチが待っています。 残業地獄の設計作業です。その理由は下記の通りです。

・大幅な設計変更
・納期は変更できない



ヒアリングが漏れると大幅な設計変更に

医師だけにヒアリングしていると、看護師だけが知っている細かな要件が漏れる可能性が出てきます。 漏らしてしまうと、大幅な設計変更につながる恐れが出てきます。

それなら、看護部長に聞けば全部解決するのでは?と思う人もいるかもしれませんが、看護部長も全ての科の看護師を経験してきているわけではありません。
また、管理している人数が多いため、意見の吸い上げも完璧とはいかなかったりします。
看護部長のヒアリングのもと設計した部分が実は使いにくかった、なんてことはザラにあります。

一方、看護師長はベテランが多く、院長先生でも頭が上がらない人は結構います。
看護師長の意見で簡単に決定がひっくり返ったりするケースもあります。


設計変更はあれど納期は変わらない

ヒアリングが漏れて設計変更になると、設計図書を発行するまでの仕事の量は増えます。
しかし、納期は変更できません。設計図書の発行に合わせて他のスケジュールが動いているからです。 そのため、残業してでも帳尻を合わせる必要があります。

そうならないためにも、事前に看護師長の意見をキチンとヒアリングする必要があるのです。


5.まとめ

この記事では、病院設計における看護師長へのヒアリングの大事さについて説明しました。
手を動かしている人が効率的に動けることが、病院にとっての効率化に大きく繋がります。
現場で実際に手を動かしている人は、効率化についてしっかり考えています。
看護師長から的確なヒアリングを行い、より良い病院設計を目指しましょう。


著者(きくりん)プロフィール

一級建築士、一級建築施工管理技士

ゼネコンで一級建築士&一級建築施工管理技士業務
「一級建築士への道」記事執筆







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