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掲載:2024年02月16日 更新:2024年02月16日

火星に氷の家をつくる、NASAと火星住宅開発を行う建築家

火星に氷の家をつくる、NASAと火星住宅開発を行う建築家

とてもダイナミックな話ですが、地球とは異なる惑星に建設される「宇宙建築」というものが、近年関心を集めています。そこに挑む建築家である曽野正之さん、その発想は「住むのは人間。地球も火星も考え方は同じ」という、シンプルなものでした。

※建築家「曽野正之さん」
ニューヨークを拠点に活動するクラウズ・アーキテクチャー・オフィス(以下クラウズ・アオ)の建築家。他にも、妻の祐子さん、オスタップ・ルダケヴィッチさんが所属。数々の宇宙建築を発表している稀有なチームです。


曽野氏のチームが注目を浴び始めたのは、2015年にNASAが開催した火星基地設計コンペで優勝し、その際に発表した「氷の家」が原点です。

1.あくまでも主役は「人」

あくまでも主役は「人」

コンペの条件には下記のようなものがあります。

●宇宙線から居住者を保護する
●資材は現地調達
●3Dプリンターで建設可能

曽野氏は、それまでの宇宙建築は地面を掘ることで地中での生活を当然とした「核シェルター」のような建築が定説とされていたとおっしゃっていました。曽野氏のチームも、当初は同じ方向性の建築物を計画していたそうですが、途中でその考えを放棄します

理由は、「窓のないところに人が住むということが想像できない」という、人が住むうえで現実的ではないという意見が挙がったからだそうです。

2.研究の結果で発見されたこと

研究の結果で発見されたこと

リサーチを進めていくうえで浮き彫りになったことは、「氷は宇宙線を効率よく遮蔽し、同時に光を通す」という事実でした。同時に、水素が宇宙放射線遮蔽に大きな効果があるという、実験結果を見つけることができました。

火星は地球に比べ、気圧が低いです。
このような環境下では、氷はドライアイスのように昇華してしまい、時間が経つと消えてしまいます。この点についてはなんとか解決すべく、さらに調査と検討を重ね、NASAがすでに宇宙で使っている素材を改良・補強して採用しました。
その結果、必要な条件をクリアできる事がわかりました。

この点が、大手企業も応募している中で選ばれた大きな理由となります。

そのほかにも、「火星」であったことも理由に含まれています。火星は高低差が大きく、ドラマチックな眺めが楽しめる惑星であることが魅力です。自然光が入り、居住者は外の風景を見ることで、景色を楽しむという人間らしい生活を送るためには、この計画が理想的でした。

ここで誕生したマーズ・アイス・ハウスは、統一的ではなく、非対称の形状になっています。採光を考慮しながらつぼみを連想する形から、建築に動きを出すことが狙いだったため、このデザインを採用したとのことです。
遠くから帰宅したときに自分の住む家が角度によってさまざまな表情を見せてくれることで、家に対しての愛着がわきます。

3.「氷の家」のコンセプトがNASAから称賛される

「氷の家」のコンセプトがNASAから称賛される

火星には水が豊富にあります。資源として利用できる可能性があり、NASAの承認を得ている、ある建築ビジョンによると、火星は人間が住むのに理想的な惑星になり得ます。

NASAの100周年記念チャレンジのプログラムマネージャーであるモンシ・ローマンは、「私たちが目にしたデザインの創造性と深みに感銘を受けました」と、プレスリリースで述べています。

また、「このチームは、想像力に富み、芸術的なだけでなく、未来の宇宙探検家が地球外の居住地で必要とする生命依存の機能も考慮に入れていました」と述べられており、デザインの高さだけでなく、機能性の高さも評価を受けていることがわかります。

4.「AVATAR X LAB」と名付けられた建築物

「AVATAR X LAB」と名付けられた建築物

大分県の大きな穴の上に浮かぶ未来的な建築物、「AVATAR X LAB」が発表されました。
この建築物が建設された理由は、宇宙探査・開発の理解を深めることを目的としています。火口底から18mの高さに浮かぶ高層ビルで、橋でアクセスすることができます。曽野氏によると、この場所が選ばれたのは、月の風景に似ているからだとのことです。

また、宇宙や未来をイメージできる要素もほしいというリクエストがありました。
その結果、宇宙建築の技術や設計手法を逆方向から考えてみることで、「浮いている建築」を提案しました。

もともと存在するクレーターの端の4か所にケーブルを張って、ダイヤモンド型の建物を浮かせることに成功しました。この方法で建設することによって、通常の建築のような安定した土地を探し、土台を作るという手間を省くことができます。

この建築物から以下のようなイメージを印象づけさせました。 宇宙飛行士が宇宙船に乗り込むとき、彼らは橋を渡ります。
同じように、飛行機に乗るときは、ターミナルと飛行機の間にあるジェットブリッジを歩いて渡ります。
これは、新しい場所へ飛び立つ前の、慣れ親しんだ地面との最後の接触をイメージしたとのことです。吊り下げられた建物は、この慣れ親しんだ地を越えることを体現しており、人類の新しい挑戦を指しているように感じました。

この建築物は、いくつかの建物と月面シミュレーション地形で構成され、独自で開発されたアバターロボットを使用して、月面居住地の遠隔操作による半自律的な建設を実験するために使用されるとのことです。

5.災害を避けることを考慮した「空中建築」

災害を避けることを考慮した「空中建築」

いつの時代も、どんなに科学技術が進んでも止めることができず、100%予測ができないのが、災害です。

曽野氏は、近代的になればなるほど、建築物の軽量化と高層化が爆発的に進んでおり、その方向性を延長すると、どんどん空中、宇宙に出ていくように伸びていきますと語られていました。どんどん地面から離れていっているのです。

曽野氏が10年以上前に空中建築を提案した時は、周囲からは理解が得られず、笑われたといいます。しかし過去の建築史と災害の歴史を考えると、この終着点は必然的だったといえます。

災害自体がなくなってしまうことはないため、住む場所をその災害に対応できるように開発することの重要性を語られています。

まとめ

まとめ

最後に、プロジェクトチーム全員が最期の住処はどの星に定めたいか尋ねてみると、意外にも「地球」とのことでした。
その理由が、宇宙建築の開発を進めていくと、風が吹く・雨が降るという地球の当たり前の事柄が、なんて贅沢なものであるかと気づかされるとのこと。地球で生まれたのだから、やはり地球で生涯を終えたい、とのことでした。

何世紀も時を経ると、火星で生まれた子供たちも現れてくるかもしれません。その子供たちは、火星で生涯を終えたいと考えるかもしれません。
やはり生まれ育った場所で生涯を終えたいという人間らしい感覚も大切にしているからこそ、空想的で非現実的な建築物ではなく、人と建築の共存を大切にした建築物が誕生したのだと思います。





著者(SaKI)プロフィール

<経歴>
建設会社にて2×4工法、RC造の建築物の設計・積算を担当。
故郷である熊本が地震で被災した際に知った、建築家の坂茂さんの紙のログハウスに感銘を受け、命を守る建築の魅力に気づく。

技術職とは別に、ジュエリーブランド「casa」を立ち上げ、ジュエリーデザイナーとしても活動中。
インテリア界のパリコレと言われる審査の大変厳しい Maison & Objet への出展許可をいただきました。
建築の知的な造形美をジュエリーに取り込んだ作品を生み出しています。

<保有資格>
・建築積算士
・二級建築士







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