令和７年度は、１７１点の作品が各都道府県建築士事務所協会（単位会）へ応募され、単位会での第１次審査を経て、日事連へ５３点の応募がなされました。日事連建築賞選考委員会（委員長：松村秀一）で第２次審査を実施した結果、１８の受賞者および作品を決定しましたのでお知らせ申し上げます。

最優秀賞にあたる国土交通大臣賞には、『なでしこ芸術文化センター』（一般建築部門）を設計した「（株）久米設計一級建築士事務所」が、国土交通大臣賞に次ぐ日事連会長賞には、『狸上るビル』（小規模建築部門）を設計した「（株）竹中工務店北海道一級建築士事務所」の受賞が決定しました。

＜日事連建築賞選考委員会＞
委員長 松村 秀一 神戸芸術工科大学学長
委 員 加茂 紀和子 （株）みかんぐみ一級建築士事務所
木下 庸子 設計組織ADH、工学院大学名誉教授
中谷 正人 （有）中谷ネットワークス、建築ジャーナリスト
原田 真宏 （株）マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所、
芝浦工業大学建築学部教授
樋上 雅博 日事連副会長、（株）プラッツ設計一級建築士事務所
宿本 尚吾 国土交通省住宅局長。

＜審査講評＞
人口の高齢化が進み、住民の活力の減退とともにまちとしての魅力も減ずる。日本の郊外住宅地の殆どが直面している大問題である。40年以上前に神戸市西部でまち開きされた「西神(せいしん)ニュータウン」も例外ではない。授賞対象建築はその中核駅に隣接する。通勤、通学、お出かけの住民たちが気軽に立ち寄りたくなる、あるいは帰宅後ちょっと着替えて出かけたくなる、そんなまちの魅力を生み出すことを狙い、実際にそうなっているところがこの建築の素敵なところだ。
まず、図書館と芸術ホールという異なる性格の場を、人々が自由に通り抜けたり、座って新聞や本を読めたりする「交流モール」で気取ることなくつないでいる点が好ましい。また芸術ホールと外部の道路沿いの交流広場との間は、日常的には飲食できる多目的スペースだが、ホールとこのスペースの間の壁、このスペースと外部の交流広場の間のガラス壁はともに開放できる仕掛けになっており、まちの人々の色々な規模、目的の集いが屋内外でできるのも魅力的だ。芸術ホールの楽屋も交流モール側から出入りでき、他の目的での集まり等にも柔軟に利用できる。また、隣接するマンションも同社がデザイン監修を手掛け、マンションと公共施設とで連続した外部空間を形成している点も、ニュータウンの駅前でのこの建築の佇まいの良さにつながっていて好ましい。

建設地： 兵庫県神戸市西区
用　途： 劇場、図書館
構　造： RC造、一部S造
階　数： 地上4階
面　積： 敷地面積 4,000.00㎡／建築面積 2,793.43㎡／延面積 6,172.33㎡

＜審査講評＞
昭和のアーケード商店街は全国に数多く存在する。どこも、かつては地元客でにぎわったまちの商業の中心だったが、今では車に便利な大型ショッピングモールの出現や小売業自体の後継者難によって、中には「シャッター街」となったところもあるように、押し並べて衰退が著しい。そんな中で、商店ビルの建替えによる活性化の可能性があることを示す。この授賞対象建築がやろうとしたことである。それが説得力のある具体の形になったことが高く評価された。
具体的には、道沿いの1階部分を地元の人や買い物客に開放することで、アーケード街を元気にする色々なイベント等が展開できるスペースにしている。その上は3階まで吹き抜け、ハイサイドライトが空の光を1階まで届ける仕掛けになっている。2階のカフェもここに張り出すバルコニー席でつながっているし、3階のスタジオもガラス越しにこの吹き抜けに参加する形になっている。ここがこの建築の見せ場であり、アーケード街の新しい名所になることだろう。
夜間に限られる工事、アーケード側1面に限られる資材搬入路等の難題を、設計と施工の間の緻密な打合せと適切な材料、工法選択で克服し、それが各所の仕上げや構造に反映され、独特の佇まいに結実している点も高く評価された。

建設地： 北海道札幌市中央区
用　途： 事務所、物販店舗、飲食店舗、レンタルスタジオ
構　造： RC造
階　数： 地上5階
面　積： 敷地面積 249.89㎡／建築面積 218.63㎡／延面積 921.45㎡

＜審査講評＞
高槻城二の丸跡に立地する文化施設。旧城下町の公共施設の典型的な立地である。そこにこれまで見たこともないような佇まいの公共建築を実現するのは容易ではない。この授賞対象建築では、高さを抑える断面計画、中庭を挟み巧みに分節することで大きな箱状を回避し、さらに表面の素材を地元の木材とコンクリートという飾らないものに絞り込み、そこに十分な手間をかけることで、手触り感があって無用な威圧感のない、それでいて気品のある佇まいをものにしている。密度の濃い各所の検討を一つにまとめ上げた力量は高く評価された。

建設地： 大阪府高槻市
用　途： 劇場、音楽練習スタジオ、集会場、自動車車庫、自転車駐車場
構　造： RC造、S造、SRC造
階　数： 地上3階、地下2階、塔屋3階
面　積： 敷地面積 19,075.80㎡／建築面積 5,438.86㎡／延面積 17,273.65㎡

＜審査講評＞
ごく普通の住宅地の中に位置しながらも、音等について周辺への配慮を十分に行う等、迷惑施設とならないよう工夫されているだけではなく、この住宅地全体の価値を高め得ている点が高く評価された。具体的には、メインアリーナだけでなく、サブアリーナ、トレーニングルーム、武道場など複数の機能を持つ複合施設として、内側に中庭を取ることで、非常に心地よい「抜け」の空間を生み出すとともに、既存の大学側と同じ色合いのルーバーによってつながりを感じさせる等の繊細な設計内容が、住宅地の中での魅力的な佇まいにつながっている。

建設地： 福岡県福岡市城南区
用　途： 中学校、高等学校又は中等教育学校
構　造： RC造、一部SRC造、S造
階　数： 地上3階
面　積： 敷地面積 6,691.60㎡／建築面積 4,456.72㎡／延面積 6,966.34㎡

＜審査講評＞
山林と川を背景に、大きな半径の円弧を描く木造校舎が、低い三段構成の屋根を持って、前面に広がる芝生の運動場の手前から来る生徒たちを迎えるその佇まいは、手前で立ち止まって眺めてしまうほどに魅力的である。耐震性と防火性の多くを、長い建物の2カ所に配したRC造のコアに担わせることで、軸組があらわしの開放的な空間を実現しているが、小中学校9学年合わせて80名の小規模学校ならではの、学年を超えたさまざまな交流を自ずと可能にするマルチスペースや教室間のおおらかなつながりが、学校生活の楽しさを想像させてくれる。

建設地： 茨城県日立市
用　途： 義務教育学校（校舎）
構　造： 木造、一部RC造、S造
階　数： 地上2階
面　積： 敷地面積 15,030.17㎡／建築面積 2,069.02㎡／延面積 2,839.70㎡

＜審査講評＞
大手不動産企業が展開するサーキュラーエコノミーのための拠点の一つであり、屋上の菜園の運営やここを会場とする各種のイベントも含めて、有形無形を問わずこの場所のコンテンツは、サーキュラーエコノミー関連で一貫している。木造の軸組部分についても、ドリフトピンを用いた接合方法の工夫によって、解体・再利用が可能な仕組みとなっており、高密な都市の中の狭く使いにくい未利用地を、その形状に合わせてうまく使うために採用された六角形のプラン展開とともに、説得力のある提案になり得ている。この点が高く評価された。

建設地： 東京都渋谷区
用　途： 飲食店
構　造： 木造
階　数： 地上2階
面　積： 敷地面積 421.82㎡／建築面積 169.61㎡／延面積 198.42㎡

＜審査講評＞
大手住宅メーカーの賃貸住宅のシステムを活用しつつ、その全国一律性を回避し、鎌倉らしくその風景に馴染むような建築に仕立て上げるべく、住戸ユニットをずらし、共用部を広げ、網戸を兼ねる銅製のネットで包み込んだ、その独創性豊かなアプローチが高く評価された。住戸ユニットをずらして配置したことが効果的で、多様な活動を可能にする中間領域を生み出している点も魅力的である。このような形で、地域の建築設計者が住宅メーカーのシステムを利用して建築を造る方法は、新たな方法として可能性を感じさせるものである。

建設地： 神奈川県鎌倉市
用　途： 共同住宅（6戸）、飲食店、事務所
構　造： S造
階　数： 地上3階
面　積： 敷地面積 188.94㎡／建築面積 139.75㎡／延面積 386.50㎡

＜審査講評＞
「次世代の新しい公教育を実装する場」、「教材としての実験的な建築」といった意図の下に設計・施工された建築であり、新しい構造方式、新しい施工方式、新しい設計方式等に取組んだ挑戦性が高く評価された。新しい構造方式としては、CLTを捨て型枠および補強材として用いた8cm厚RCシェルが実現されており、その設計と製作、施工にはコンピュテーショナル・デザインとデジタル・ファブリケーションが有効に用いられた。設計者自身がデジタル・ファブリケーションの工場を保有・運営しているという業容も新しく挑戦的なもので、魅力的である。

建設地： 東京都小金井市
用　途： 大学
構　造： RC造
階　数： 地上1階
面　積： 敷地面積 297,471.22㎡／建築面積 251.28㎡／延面積 295.90㎡