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建築家インタビュー
  • 掲載:2009年06月05日 更新:2024年12月06日

時を経過して風合いの出る素材をうまく現代的に使用していく
新野裕之建築設計

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~取材にあたり~

近代社会の創設以来、世界のあらゆるエリアで急速な発展を遂げた地球文明は一方で、自然破壊という負の遺産をもたらしました。しかし、これを決して次世代に残してはいけないという人類の英知は、ECOLOGY推進という大きなウエーブとなリ、『車』『食』『エネルギー』『通信』そして『建築』など、あらゆる産業分野に拡大しつつあります。
今回のSPACE DESIGNでは、特別企画として、『建材』が設計・デザインに関わる、ECO、利便性、柔軟性、時代性などに果たす重要な側面を、実際の設計現場から探ってまいりたいと思います。



医療施設 麻布医院

――施工画像


――デザイン・コンセプト

昨今医療施設は、電子カルテやレントゲンなど医療設備のデジタル化によりそのあり方が様変わりしつつあります。
今回の医院の改装は、そうしたIT時代の新しい医院を考える出発点となりました。

麻布医院の設計の3つのポイント
1)今までの長い廊下状の待合スペースを、患者の居心地に配慮した空間とする。見せ場となる受付カウンターに人造大理石(コーリアン)を採用。
2)医師や看護士や事務員などのスタッフの動線と患者の動線が交錯し混乱しないように明快に分離する。
3)窓からの眺めを演出し、患者やスタッフがほっとできる場をつくる。医療の現場に癒しの空間を導入し、治療中の患者を和ませる。

――建材の感想

コーリアンの板材は、互いを継ぎ目なくジョイントすることができ、また熱を加えることにより曲げることもでき、加工性の自由度が高く、さまざまな形状を「ムク(無垢)」の材料として表現できる。また汚れ傷などはサンドペーパーで磨き落とすこともでき、メンテナンスの面からも優れた材料。

――使用建材

デュポン™コーリアン®




作品全体のデザインコンセプト

もともとの医院を新しい先生が引き継ぐため全面改装されました。前医院には薬局があり、長い廊下に小さな受付窓が付いた昔ながらの診療所の間取りでした。いわゆる医薬分業により通常薬局は医院内に設けなくなりましたし、電子カルテやレントゲンなど医療機器のデジタル化により業務も効率化されるので、その分待合室や診察室などを充実させることができます。医療のIT化はそのあり方自体を変化させています。また開業医もそれぞれの個別化を尊重するため、これからの医院の形体はますます「カスタマイズ」されていくと思われます。具体的に今回の医院のデザインの要点は以下の3つに集約されます。

第一は、いままでの長い廊下状の待合スペースを、天井の高い明るいフォワイエ・ラウンジ空間とし、来患者を気持ち良く迎え入れる「しつらえ」をつくることでした。待合スペースの見せ場となる受付カウンターは人造大理石(コーリアン)によって存在感のある彫刻的な造形としました。

第二は、これは医療施設の設計では一般的に重要な点ですが、医師や看護士や事務員などのスタッフの動線と患者さんの動線が交錯し混乱しないように明快に分離することです。たとえば、各トイレには検尿カップを提出するための小窓が設けられており、患者さんがカップをもって廊下に出ることがないようにしています。受付カウンターの背面にはメールボックスが設置されていて、診察室の先生の机から書類を受け取ることができます。

第三は、物置場などとして使われていたバルコニーに小さな庭をつくり、窓からの眺めを演出し、患者やスタッフがほっとできる場をつくることです。待合スペースからは南欧風のテラスをつくり、目で楽しむだけでなく、スタッフがランチをとるなど憩いの場としています。奥の診察室に面したバルコニーは白砂利を敷いた和風の坪庭とし、治療中の患者を和ませます。




デュポン™コーリアン®の使用感想・選択理由・ポイント

今回コーリアンを使用した箇所は、待合スペースの「受付カウンター」と診察室の「手洗シンク付作業台」です。
「受付カウンター」は医院の顔として彫刻的で存在感のある造形をつくるために、約4Mの大きな間口には、コーリアンをジョイントさせて、厚み12㎝の門型のフォームを作りました。コーリアンはもともと10mmあるいは12.3mmの厚さの板で製造されますが、それらを継ぎ目なくジョイントすることができ、また熱を加えることにより曲げることもできるので、さまざまな形状を「ムク(無垢)」の材料として表現できます。

今回は医院内の搬入経路の都合上、工場で製作した門型のフォームをそのまま現場で設置することが困難でしたので、長さ4Mの水平材と、高さ1Mの2本の垂直材の3つのパーツに分け、それらを現場で門型に継ぐこととしました。コーリアンの色柄はマグナアンタークティカという白い石調素材を選択しましたが、もしこの形を本物の石で作るとすると、一つの石材ではまずつくれませんので、ジョイント(継ぎ目)が出ることは結果的には自然な工法だと思いました。(家具職人は現場で継ぐこととなり、ほっと肩をなでおろしました。)
後者の「手洗シンク付作業台」のような水まわりの天板材には、加工性の自由度からも、メンテナンスの面からも、コーリアンはとても有利です。白いコーリアンの天板には深さ30cmのステンレスのシンクが付けられ、手を洗うだけでなく大量の廃液を流すこともできます。作業台にはドライケムと呼ばれる血液・尿検査をするための機器が設置され、隣の一体の水場のおかげで作業の機能性を高めています。医療/化学系の研究所などで使われるベンチ(Bench)と呼ばれる実験作業台に似ています。




一般ユーザーさんに対して、良い家を建てる為に設計士として何かアドバイスがあれば教えてください。

設計士任せずにせず、設計士と議論しながら(ときには議論を白熱させながら)いっしょに考え作り上げていく姿勢ではないでしょうか。その時に一つの考え方に固執しすぎず、総合的観点から柔軟にもっとも良い案を選ぶことだと思います。




設計・デザイン上で今後こんな材料・素材・製品を使ってみたいと思われるものはありますか?

木や石などの自然素材。イナックスのエコカラットなどのタイルには、漆喰の左官壁のような部屋の湿度を調整する機能があるそうです。また時を経過して風合いの出る素材、たとえば最近では敬遠されがちですが、レンガの壁や瓦屋根などは存在感のある美しい材料ですし、それらをうまく現代的なデザインで使用したい。




設計士・デザイナーとして建築に携わられて、仕事にやりがいや喜びを感じられるのは、どんな時でしょうか?

時間をかけて図面にした空間が現場で立ち上がっていく瞬間。そしてなによりその空間を喜んで使ってくれているとき。




これからの住宅・建物(又は店舗・商業施設)はこんな風になるだろうというお考えがありましたら教えてください。

わたしはアメリカのボストンとニューヨークで実際に暮らしましたが、住宅でも店舗でも築50年100年の建物が、あちらこちらで当たり前のように日常的に使われている点にとても感心しました。日本は地震などの外的な要因もありますが、それ以上にまだまだ使える建物を建て替えている「もったいない」現状が多々あります。
一定期間が経過すると税法上の資産価値がゼロとなる減価償却の慣習も影響しているでしょう。たとえばニューヨークなどの都心のぼろマンションの住民は大胆にリノベーションしながら古い建物でも新しく快適に住んでいます。ボストンの郊外の木造の築50年以上の大きな住宅などは、もとは1世帯のための邸宅でしたが、1階と2階を別世帯で貸し出し、現代の若い小さな家族をうまく招きいれていました。

時が経過するにつれ周辺の並木や公園などの環境が成熟していき、その結果その住宅街の資産価値が上昇していくことさえ良くあるそうです。我が日本でもこれからは、古い建物を修繕しながら大切に使っていくこと、あるいは新しく建て替えるときも何世代にわたって使うことのできる頑丈かつ柔軟性のある街や建物のデザインが求められていると思います。




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