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掲載:2022年02月15日 更新:2022年06月17日

学校設計で本当に大切なのは、死亡事故を防ぐこと(死なない程度の安全性)

学校は子供が様々なことを学ぶ場です。
たくさんの子供が利用するので、安全が担保されることが大切です。
しかし、100%ケガをしない学校を作るのは無理でしょう。
実際、子供の行動は予測できませんし、つまづいて転んだりするのは日常茶飯事です。
ですが、死んでしまうような事故は防げるはずです。

というわけで、この記事で言いたいことは次の通りです。

・学校設計で本当に大切なのは、死亡事故を防ぐということです。
つまり、死なない程度の安全性の確保がカギだといえます。


学校設計で本当に大切なのは死なない程度の安全性

さっそく結論ですが、学校の設計で一番大切なのは、生徒や児童が死なないことであって、それさえ満たしていれば合格だと考えています。

理由は3つです。

理由1:子供の行動は本当に予測できない
理由2:死ぬほどの事故は予防ができる
理由3:小さなケガをすることで危険について学ぶ

順番に説明しましょう。


理由1:子供の行動は本当に予測できない


子供の行動はまったく予測できません。
子育てをしたことがない人でも、この事実には同意してもらえるでしょう。

たとえば、子供は1つのことに興味が湧いて他のことが目に入らなくなることがあります。
その結果、何か気になることがあると急に車道に飛び出したりするのです。
子供の手を親が強く引いて、子供の安全を守っているのはよく見かける光景です。

ほかにも、子供は恐怖心より好奇心が勝つことが多いでしょう。
その結果、危険な行動を平気でします。
コンセントに10円玉を刺して感電したり、高いところから飛び降りてみたり、危険な行動のオンパレードです。

子供はそんな特性を持っているので、行動は予測できません。
そのため、学校であろうとどんな場所であろうと、多少の怪我をするのは仕方ないことだと思っています。

個人的にはそう考えていますが、世間の人はどう思っているのでしょうか。
調べてみました。

ケーススタディ-1  事故の予防はできないと78.2%が思っている

キッズデザイン・ラボという団体が平成21年初頭に実施したアンケート「子供の事故・傷害に関する意識調査」によると、回答者の78.2%が「予防できないと思う」と回答しました。
世間の約8割が、事故は予防できないと思っています。
大人ですら、どんなに注意をしていても事故を起こしてしまうこともあるわけです。

人間である以上、完璧な注意力を常に発揮し続けることはできません。
ましてや子供なら、つまづいて転ぶことだって日常茶飯事でしょう。


理由2:死ぬほどの事故は予防ができる


一方で、死亡事故だけなら予防できるのでは?といった意見もあります。
たしかに、そんなにしょっちゅう子供が事故で死んでいたら問題です。

たとえば、トップライトを突き破って転落する事故なら、そもそもトップライトに近づけないようにしてあげれば事故は防げます。
窓から転落する事故が発生するなら、窓に鍵をかけて窓を開けられないようにし、換気は自然換気ではなく機械換気でまかなえるようにすれば問題ありません。
少し考えただけでも、死ぬほどの事故は予防できそうに感じます。

これに対して一般の方はどのように考えているのでしょうか?

ケーススタディ-2 死ぬほどの事故は予防できると73.2%が思っている

「子供の事故・傷害に関する意識調査」によると、73.2%が死ぬほどの大きな事故は予防できると答えました。
約7割の人々が、死亡事故は予防できると思っています。この結果は、事故は予防できないと答えている一方で、死亡事故は予防できると、矛盾した答えのように感じるかもしれません。ですが、考え方が根本的に違います。事故自体を防ぐのではなく事故の大きさをコントロールするということが大切です。

では、死亡事故はどれくらい起こってるのでしょうか?

ケーススタディ-3 小学生の死因の17.4%が不慮の事故

厚生労働省「人口動態統計」(2016年)によると、小学生低学年では死因の17.4%が不慮の事故です。小学生の高学年から中学生でも、死んだ人の15.0%が不慮の事故で亡くなっています。
不慮の事故というのは、それなりに起こっているのです。
では、その不慮の事故というのは、どういった事故で構成されているのでしょうか。

不慮の事故の割合

不慮の事故の割合・・・①溺水53% ②転倒・転落21% ③窒息16% ④火災5%
小学生だと最も多いのが溺れることです。次に窒息や転倒・転落、火災などが起こっています。溺水や窒息などのように、建築で予防できない事故もたくさんあるのです。
一方で、建築の工夫しだいでは防げるのではないか、という事故もあります。

建築で防げる不慮の事故は建物からの転落

転倒・転落事故の死因の内容は、建物からの転落、平面上の転倒、階段からの転落、椅子からの転落、ベッドからの転落など様々です。
この中で一番多いのが建物からの転落で、小学生高学年から中学生で70.9%を締めています。不慮の事故の中の割合でいえば、14.7%が建物からの転落です。

建物からの転落は、さすがに設計段階での検討でどうにかできそうな気がします。
窓を一定以上開かないようにストッパーを付けたり、屋上を使用禁止にして施錠管理しておけばいいからです。

手すりの高さも法令で決まってはいますが、状況に応じてもっと高くしたり、座ることができないデザインにしたりと工夫の余地があります。
万が一落下しても、コンクリートの床では即死かもしれませんが、下がゴム製であれば脳しんとうや脳挫傷は軽症で済むかもしれません。

しかし、ニュースなどで学校での子供の転落事故の事例を見ると、窓のストッパーが破壊されて窓が開くようになっていたりと、予想を超えた子供の行動で、設計通りに使えていないことが見て取れます。

安全上の定期点検やメンテナンスだけは、頻度を増やして対応することが必要なのかもしれません。

理由3:小さなケガをすることで危険について学ぶ(危機管理能力の醸成)

死亡事故のような大きな事故につながる原因として、3つの要因があります。
1.建物の設計上の機能
2.使用上の管理
3.子供の危機管理能力


1つ目の設計の問題は、建築士が安全な設計をし、通常の使用用途であれば問題のない設計をしています。
2つ目の使用上の管理では、危ない場所の施錠管理をしたりと、教員が日常で管理をしているので問題ありません。

3つ目の危機管理能力の伸ばし方は簡単で、小さな失敗をすることです。
小さな失敗をすることで、大きな失敗を防ぐことができます。

危険を排除された環境で育つと自分の痛みも他人の痛みもわからない

完全に怪我をする恐れのない、安全な環境で子供が育つとどうなると思いますか?
当然ですが、怪我をしません。そのため、痛みや恐怖を知らずに育ちます。
小さな失敗をせずに成長するので、大人になってからも危険なことがわかりません。

痛みというのは体のアラートです。
痛いという感覚を知るから、怖いと思えます。
怖いから慎重に行動することができ、大きな失敗を防ぐことが可能なのです。

こわいという感覚が大きな危険を防ぐ

怖いという感覚がなかったらどうでしょう。
ギャンブルが怖いという感覚がなければ、全財産を投入して無一文になってしまいます。
それと同じです。
ギャンブルが怖いと知っているから、ギャンブルをしないし、やったとしても危険のない金額でコントロールできます。

怪我をまったくしない状況で大きくなると、どんな時に怪我をするのかを学ばないまま大人になってしまうでしょう。
そうなると、危ないという感覚を持たないまま大人になり、より危険な状況が生まれます。

そういった意味でも、学校設計で本当に大切なのは、死なない程度の安全性であって、完全に安全な環境ではないと考えています。



まとめ

この記事では、
・学校設計で本当に大切なのは死なない程度の安全性
が必要だということについて具体的な理由を交えて説明しました。

簡単にまとめると以下の通りです。

理由1子供の行動は本当に予測できない
理由2死ぬほどの事故は予防ができる
理由3小さなケガをすることで危険について学ぶ

学校で生徒が快適に過ごせることも大切ですが、快適性を優先して安全性が軽視されるようなことはあってはいけません。


著者(きくりん)プロフィール

ゼネコンで一級建築士&一級建築施工管理技士業務

「一級建築士への道」記事執筆 






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