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掲載:2021年04月15日 更新:2021年12月24日

建築士なら知っておくべき国産木材の基礎知識


コロナ禍の影響で延期になった東京オリンピック・パラリンピックですが、今年の開催には大きな期待が寄せられています。

五輪開催はスポーツ関連業界や経済界だけでなく、建築業界も賑わせてくれました。主会場となり、既に竣工した国立競技場は、建築のプロ達からも大きな注目の的になりました。
この競技場は建築家の隈研吾氏の設計で、多用された木材からは強い「ぬくもり」が感じられます。改めて木材の持つ力強さと優しさ、そして多様性の素晴らしさを痛感し、心を打たれました。

今、この「木材」に熱い注目が集まっています。

特に国産木材においては建築業界や林業関係からも大きな期待が寄せられています。
建築士の立場として見逃す事が出来ない木材の情報。
プロならば知っておくべき木材の基礎知識と国産木材市場や動向についてお話させて頂きます。

1.今なぜ国産木材が注目されるのか

ビスダックジャパン

建築のプロであればご存知でしょうが、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されてから公共建築物に木材を利用する事例が急確実に増えています。

この法の背景には、国内の木材需要を高めて林業の活性化や自然災害の防止を行いたいと言う政府の意向があります。 木材は再生可能な資源の一つで、廃材や解体後の材料も、やがて腐敗して自然界に戻る為に環境保護にも繋がるとされています。

戦後、復興に必要な住宅供給の為に政府主導で人工林が増えました。住宅材利用以外における当時の木材の主な使用目的は木炭や薪等の燃料で、この頃の木材自給率は9割以上あったとも言われています。ところが化石燃料が主流となり、さらに木材輸入の自由化の影響で国産木材の需要が急速に下がりました。この為に膨大な人工林が残ってしまい、手付かずの森林が放置され、森の良好な循環が止まってしまいました。
国内に存在する豊富な森林資源を活用すれば、災害防止にも役立ちます。また昨今世界で話題になっている地球温暖化問題の二酸化炭素削減にも貢献する事が出来ます。

このような事態を踏まえて、政府は木材自給率50%以上を目標にし、森林の循環を良くする為に国産木材利用を促しています。
また、今まで安価であった外国産木材が高騰しており、一部のハウスメーカーでは外国産木材から国産木材利用へ鞍替えが始まっています。

これが今、国産木材に注目が集まる理由です。


2.最低限知っておくべき木材の基礎知識

日本の窓

建築の仕事において「木材」は避けては通れない重要な材料の一つです。

木造建築だけでなく、RC造や鉄骨造でも、内装材やその他の雑材として利用されるケースの多い材料です。 ところが、経験の少ない建築士の中には「木の特性」「用途」「基礎知識」が乏しい人も居ます。理論的な話は知っていても、実際の木を見ても材種すら区別が付かないという人も居ます。

古来、日本の建築と言えば木造が基本です。どの種類の木をどの場所に使うのか、しっかり吟味して判断する必要がありました。
建築材料が多様化する現代、失われつつある木材の基礎知識を建築のプロとしてしっかり勉強しておかなければいけません。

集成材の登場によって、繊維方向の目を気にする事無く利用出来るようになりました。
木は本来空に向かって伸びていく為、空に近い部分を「末口」、地面に近い部分を「元口」と呼びます。木材を建築物の柱として利用する場合、この末口と元口を自然の通り使います。逆向きに利用すると「逆木」と呼ばれ、その家に不幸を招くとして忌み嫌われています。

また板材として利用する場合、樹皮に近い方を「木表」、芯に近い方を「木裏」と呼びます。乾燥や収縮によって木表側に凹むように変形します。この特性を間違えると他の部分への影響が出る為、しっかりと判別する目が必要です。人気の天然無垢フローリングも、この木表木裏をしっかりと判断して利用しなければなりません。


3.国産木材の特性と産地を知ろう

片桐銘木工業

国産木材と外国産木材の最大の違いは、生まれ育った環境や気候です。
木は植物であり、伐採されるまで成長を続ける生物の一種です。
しかし伐採されたからと言って命は終わりではありません。

建築材料として加工されてからも、完全に朽ち果てるまで長い耐久年数があります。利用される国の環境で育った木だからこそ、材料としても長く安心して使う事が出来ます。 しかし、国産材は径の大きな原木が少なく、建築材料として商品化するまで長い時間が掛かる傾向にあります。特に良質の国産材は流通量が少なく、希望する大きな材料はなかなか手に入らないと言うデメリットがあります。

逆に外国産木材は、生育条件が良い物が多く、経も大きく、長い木が大量に存在します。
ただし、育ちが良いと言うのは短期間に急激に大きくなった証拠であり、年輪が大きいと言う問題があります。年輪の大きい物は乾燥収縮が大きく、狂いや反りなどの悪影響を及ぼします。
国産材は年輪が狭く、見た目の美しさと、変形リスクを下げられるメリットを有しています。構造材として利用した場合、長持ちさせられるので重宝されます。

また、日本は高温多湿の夏がある国です。雨が多いと言う事は油成分を多く含み、シロアリやダニ、そしてカビなどを防ぐ効果があります。特に雨の多い地方の木材ほど、油成分を多く含んでいます。


4.国産木材の利用価値と今後の動向

シンセイ・テクノ・マテリアル

代表的な国産木材と言えば「杉」「桧」「松」です。

その他にも多数の樹種が存在しますが、日本の人工林のおよそ半数が「杉」で占められています。その理由は、成長が早く、育てやすさにあります。 狭い土地でもたくさん植えることが可能で、生産性が高い木材です。
また、耐久性や強度・加工性に優れ、抗菌・防虫・消臭・リラックス効果の高い「桧」も人気の国産木材です。 構造材から仕上材まで多用出来る為、重宝される木材です。
日本の気候や風土に適合し、高い耐久性と利用価値がある国産木材が安価で入手出来るようになれば、需要は間違いなく増加するでしょう。 政府が推し進める木材自給率の向上にも貢献出来るようになるでしょう。

しかし、過剰な森林伐採に対し、森林破壊に繋がるとして懸念する声もあります。確かに森林全体を大掛かりに無計画伐採すれば環境破壊に繋がるでしょうが、それは政府の目指す森林利用とはかけ離れています。計画的な植林と管理、そして伐採を行わなければなりません。
さらに、成長途中で間引きされた「間伐材」をどう有効利用するかが国産木材を有効活用する大切なキーワードになります。


5.新技術CLTと木材に強い建築士の必要性

鳥取CLT

国産木材の育成段階で生じる間伐材の有効利用。建築材料として今注目を集めているのがこの「間伐材」を利用した新技術のCLTです。 日本の森林が宝の山に変わるかも知れないと、熱い注目を集めています。

CLTとは「Cross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)」の略で、通常の集成材とは異なり、ひき板を直交積層した材料です。 大型のパネルにする事により、コンクリートにも劣らない強度を有します。
強度がある為、高層階の建築も可能です。因みに東京オリンピックの選手村にも使われています。
搬入すれば建築現場ですぐに組み立て可能で、打設から型枠解体まで時間の掛かるRC造に比べると大幅な工期短縮が可能です。 ヨーロッパなどでは1990年代頃から普及し、すでにいくつもの高層建築物が登場しています。

このCLTが全て国内で生産され、さらに3階までの建築物を木造にした場合、新規需要として1.0〜1.9兆円を生み出す効果があると推測されています。 「宝の山」とはまさにこの間伐材を利用したCLTを指すのかも知れません。

そしてこの新技術を活かせる法改正と建築士の育成が急がれています。 今後の日本国内の建築様式を一変させる可能性がある技術ですので、早めに情報収集して、適切な技術を身に着けておきましょう。


6.まとめ

いかがでしたか。木材に関する基礎仲の基礎と言った説明でしたが、今現在の国産木材の動向や新技術に大きな注目が集まっている理由がご理解頂けましたでしょうか。

構造材としても内装材としても秀逸な材料である木材。今まで安価な外国産木材に市場を奪われ、眠ったままになっていた日本の森林でしたが、今大きな期待が向けられています。
林業従事者の総数も減少傾向にありましたが、近年急激に機械化や省力化が進み、若年層の林業参入が増加傾向にあります。また、ITを利用した林業も進められており、今後の林業市場は目が離せません。
環境保護、災害防止、新規市場拡大、経済効果等、国産木材の需要・流通拡大には多くのメリットがあり政府や各経済界からも期待されている大きな市場です。

軽量で育成しやすい杉材のCLT利用が増加すれば、今後は海外への輸出にも期待が膨らむでしょう。
建築のプロとして、この国産木材の動向には常に目を光らせておくべきです。

木の特性を知り、本質を知り、使い方を知る。
新技術も含めて、今後の建築士に必要とされる大切なスキルの一つです。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める







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