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掲載:2021年04月20日更新:2021年04月20日

これから建築士が身につけておくべきスキル

これから建築士が身につけておくべきスキル

「コロナ禍」の影響ですっかり存在が薄れてしまった「年金2000万円問題」ですが、現在も私達が住むこの日本は「少子高齢化」「人口減少」の未来へと向かって突き進んでいます。

人口増加は経済成長の大きな鍵を握りますが、逆に人口減少は経済縮小の要因となります。様々な分野でIT化が進む中、建築業界も今までと同じような仕事が続くとは限りません。

景気の良い時代であればいくらでも仕事がありましたが、人口減少と不景気の影響から建築業界全体も先行き不透明な状態が続いています。
この先、建築士として生きて行く為にどのようなスキルや能力が必要になるのかについてまとめさせて頂きました。厳しい社会でも必要とされる建築の専門家として、強いスキルを身に着けて乗り越えましょう。

1.厳しさを増す建築関係の需要と供給

これから建築士が身につけておくべきスキル

日本経済の絶頂期と呼ばれるバブルの頃、国内の新設住宅着工戸数は160万戸を超えていました。ところが2008年のリーマン・ショックの時に80万戸弱まで半減し、その後若干の増加には転じましたが100万戸を超える事はなく、コロナ禍の2020年はリーマン・ショック時を下回る件数になりました。
さらに恐ろしい事に今後の推測として、2030年度には63万戸、2040年度には41万戸と減少して行くと予想されています。

私は以前、父の経営する工務店事業を手伝っていましたが、2008年のリーマン・ショックの煽りを受けて会社を閉鎖しました。当時は仕事が完全にストップし、知人たちも半ば路頭に迷う寸前の状態でした。

新設住宅着工戸数減少の影響により、建築士のメイン業務であった「建築確認申請」の数も減っていきます。 新築住宅需要の減少とは逆に、リフォーム事業が増加していますが、全てのリフォーム工事に建築士が必要とされるわけもなく、生き残りをかけて建築士は現在厳しい社会の中で戦っている状態と言えるでしょう。

少し古いデータですが令和元年時点の建築士の登録者数は、一級建築士 373,490人、二級建築士 771,246人、木造建築士 18,133人で、加えて建築士自体の高齢化が進み、一級建築士の平均年齢は50代後半となっています。30代は15%程度、20代に至っては1%未満という高齢化士業です。今後は益々高齢化が進み、建築技術者不足が大きな問題になりつつあります。


2.建築士の真価が厳しく問われる時代

これから建築士が身につけておくべきスキル

建築技術者が不足する一方、建築士を必要とする業務自体が大きく変わりました。先に述べたように新築住宅着工数の減少に伴い「建築確認申請数」も大幅に減っています。

逆に増えてきたのが「中古建築物」関連の業務です。

老朽化した建物の建て替えや再開発、既存建物の診断(インスペクション)、建築基準法による定期報告制度の調査業務、リフォームの設計やデザインと言った仕事です。
建築士の仕事は新しい建物の設計やデザインだけでなく、老朽化した建物の解体や、不要になった建物を解体して新しい建物の計画でも必要になります。
当然解体工事の現場でも建築士の知識と技能が必要です。

新築工事だけでなく、中古建築物も含めて建築・不動産全体を有効活用する為には、建築士の存在と需要は非常に重要と言えるでしょう。

業務が多様化し、複雑で難しい仕事が増加する中で、建築士年齢の高齢化は大きな負担になりつつあります。
建築業界の仕事は昔から3K(キツイ、汚い、危険)と言われますが、建築士も例外ではありません。特に中古建築物の仕事になると現場に赴く機会が増えます。若い頃であれば俊敏に動けた現場での調査も、年齢と共に負担が大きくなるでしょう。若年層の建築技術者が減る中で、いかにして高齢化する建築士が効率的に業務をこなし、活躍し続けられるのかが厳しく問われる時代の到来です。


3.建築士が生き残る為に必要なスキル

これから建築士が身につけておくべきスキル

建築士は建築に関連する知識と経験のプロです。叡智こそが資産であり飯の種でもあります。ところが昨今、各業界を震撼させているのが「AI」の登場です。従来建築士が行ってきた業務をAIが代わりに遂行する時代が間もなく到来するかも知れません。そうなると、建築士の立場はどうなるのでしょうか。
敷地調査を始めとした「調査業務」はAIの得意分野です。現状では人間が行っているこの業務がAIに取って代わる可能性があります。

また建築士の十八番とも言うべき「基本設計」「プランニング」「図面作成」「設計見積り作成」と言った業務もAIが代替可能です。建築業界に限りませんが、従来存在した様々な仕事がAIに奪われる可能性があります。

しかし、絶対に無くならないと言える業務があります。
それは「提案」「交渉」と言った人間同士の話し合いの業務です。

いくら良質な資料を揃えても、AIではお客様の気持に寄り添うことが出来ません(現状のAIの話になりますが)。 AIによって得たデータや作られた図面や資料を元にして、建築士がお施主様や関連業者と折衝を行わなければなりません。この分野にこそ、建築士が生き残る秘訣と活躍出来る場所があります。

その為には、建築知識の勉強は当然ですが、「コミュニケーション能力」のスキルを身に着ける必要があります。また、業務の安定を図る為にも「営業力」や「集客」の勉強も必要となります。
人間は高齢化すると向上心を失っていくものですが、人生は一生勉強です。積極的なスキルアップを目指して勉強会への参加や関連書籍を読むことが大切です。


4.技術職でも必要な「伝える力」

これから建築士が身につけておくべきスキル

建築士と言えば「先生」「偉い人」「堅物で融通が利かない」と言うイメージが世間一般にはあるのではないでしょうか。私は長年建築業界に携わってきましたが、建築士と言う立場であっても人間同士のコミュニケーションは非常に大切です。一方的に指図を出すのではなく、相手の話や言い分を聞き入れ、そして上手にまとめてこそ一人前の社会人ではないでしょうか。

建築士として仕事を遂行する為には、当然ながら建築に対する必要とされる高いスキルを持たなければなりません。建築士試験に合格しただけでは建築のプロとしてはまだまだ駆け出しです。設計やデザインの技術だけでなく、お施主様の期待するものを、さらに期待以上に実現させるだけ能力と経験を身に着けていなければなりません。

お施主様の依頼は多岐に渡り、時には法規制や予算の面で難題が生じることがあります。
その問題を一つずつ解決して、相手に納得させる為に「伝える力」が必要になります。

特に住宅工事の場合、お施主様は建築知識が豊富ではありません。ネットや雑誌の情報で得た知識はありますが、法的な問題や予算、そして詳細部の収まりまでは理解されていません。
その様な相手に対してでも、分かりやすく説明を行い、納得させるだけの伝達力が必要となります。
無理難題を要求されて断るのは簡単です。しかしそれではプロとしての対応ではありません。
相手の話や要望に寄り添い、共に考え、建築技術者として最高のアイデアを出し、そして納得して頂ける伝え方を持ってこそ、本物の建築のプロと言えるでしょう。


5.良好な人間関係を構築する為のスキル

これから建築士が身につけておくべきスキル

建築業界は縦横の繋がりが複雑な業界です。これは建築士も同じで、様々な人と繋がりを持ちながら仕事を進めなければなりません。たくさんの人間を相手に業務を円滑に行う為には「コミュニケーション能力」は重要です。

世間に名の知れた建築家の巨匠と呼ばれる人たちもコミュニケーションの達人ばかりです。お施主様には頭を下げるものの、逆に関連業者や下請け業者に対して上から物を言うような人では良好なコミュニケーションは作れません。 関係する周囲の人達と上手なコミュニケーションを取り、より良い人間関係を構築出来てこそプロです。

AIの登場で仕事が変わると言われる中で、これまで以上にコミュニケーションに長けた建築士が必要とされています。 話の通じない一方的な建築士は生き残りが難しくなるでしょう。

お施主様との打ち合わせで、ちょっとした会話の中に潜むニーズや要求を引き出す事も大切なコミュニケーションスキルの一つです。言われた事、要望として出た事だけを計画しているだけではプロの業務とは呼べません。仕草、言葉尻にまで気を使い、深層心理に潜む要望を形にしてこそ真の建築士の仕事だと言えるでしょう。

コミュニケーション能力の向上はお施主様との打ち合わせだけに使うものではありません。関連業者との打ち合わせや元請業者との折衝にも有効的です。
信頼関係を構築し、人間力を高めるほどに良い仕事が呼び込めるようになるでしょう。


6.まとめ

いかがでしたか。時代の移り変わり共に、建築士として必要となるスキルも複雑になってきました。建築の様式も多様化し、新たな工法の開発に対する勉強、法改正に伴う知識の充足に追われてしまいがちです。

しかし建築士は良好な人間関係を構築する中心的存在でもあります。 人と人を繋ぐ最も大切なポジションとして、伝達力やコミュニケーション能力の向上に向けてスキルアップしなければなりません。 今後さらに厳しさを増すと予想される日本社会の経済事情の中で、強く逞しく、そして一際輝く魅力を持つ建築士こそが生き残れる大切な要素です。

その他にも「営業力」「ライティング能力」「集客スキル」等々が必要になりますが、先ずは信頼の出来る建築のプロとしての人間力の向上を目指しましょう。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める






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