日本建築士事務所協会連合会「日事連建築賞」の令和５年度受賞者・作品が決定しました。

令和５年度は、リノベーション等の建築物も含めて１６９点の作品が各都道府県建築士事務所協会（単位会）へ応募され、単位会での第１次審査を経て、日事連へ５５点の応募がなされました。日事連建築賞選考委員会（委員長：松村秀一）で第２次審査を実施した結果、１９の受賞者および作品を決定しましたのでお知らせ申し上げます。

最優秀賞にあたる国土交通大臣賞には、『東立石保育園』（一般建築部門）を設計した「株式会社相坂研介設計アトリエ」が、国土交通大臣賞に次ぐ日事連会長賞には、『吉田村 』（小規模建築部門）を設計した「有限会社アトリエ慶野正司 一級建築士事務所」の受賞が決定しました。

＜審査講評＞
今日、共働きの両親を支える保育サービスの拡充は全国各地で求められている。ただ、地域施設としての保育園は、小中学校よりは規模が小さく立地もさまざまであり得るため、周辺地域との関係を中心に建築計画上の課題は「保育園はこう」というふうには絞りにくく、プロジェクトに固有の答えを出せる建築設計者の力に期待がかかる。 東立石保育園は葛飾区の海抜ゼロメートル地帯に建つ。周辺は住宅が建て込んでおり、音環境制御、安全管理等の観点からも、唯一外部空間にゆとりのある公園側の一面だけをオープンにし、通園を中心とする人の往来はここに絞る方法が採られた。そこを入ると園内広場があり、子どもたちのいるスペースも管理部門の諸室もすべてこの広場に面する形になっている。
この保育園の最大の特長は、広場を囲むコの字型平面の屋根部分が大きな螺旋階段状の屋上広場になっており、子どもたちの遊び空間になっていると同時に、海抜ゼロメートルの近隣にとっての一時待機所にもなっている点にある。この骨太の空間計画を無理のない動線計画や管理計画と両立させ、丁寧に設計された細部で具体化した点は、個別性の強い地域施設としての保育園の設計例として高く評価できる。

建設地： 東京都葛飾区
用　途： 保育所
構　造： RC造、一部S造
階　数： 地上3階

＜審査講評＞
ギラギラと夏の太陽が照り付ける中、広場を囲む数棟の石蔵と鉄骨の骨組みの向こうで風に波打つ稲田の緑がとても印象的だった。既存建物への新たなスモールビジネスの導入や外からも人を呼べるイベントの開催等によって、衰退する農村を元気のある地域に変えていこうという事業者と地元の建築士事務所のチーム。このチームが進めている段階的なプロジェクトの第二段階にあたるリノベーションは、この広場を囲む大谷石蔵群の中の１棟で行われた。
構造材として多くを期待しにくい既存の大谷石はそのまま残し、その中に鉄骨の構造骨組みを挿入することで、若い感性にも響くデザインのホテル、物販店、カフェ付きパン屋の場をつくり出した。大谷石の存在感が効いている。これ以前の第一段階では、同じく広場を囲む旧農協事務所棟を地元食材中心のイタリアン・レストランにリノベーションし、この後の第三段階では、広場を囲む他の元倉庫のリノベーションと周辺地域の空き家活用等に展開する計画だとのこと。日本の美しい農村の風景が人々の新しい活動によって守られていく明日。それを感じさせてくれるプロジェクトである。

建設地： 栃木県下野市
用　途： ホテル、物品販売業を営む店舗、飲食店（パン屋）
構　造： S造、一部木造
階　数： 地上2階