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掲載:2021年03月02日 更新:2021年12月24日

大型木造建築が熱い!この先、木造に強い建築士が生き残る


「木」は古来より建築の材料として重宝されてきました。国土の約7割が森林である日本には豊富な木材資源があり、人々の暮らしと密接に関わってきました。
現代でも住宅と言えば木造のイメージが強く、他の構造に比べて「軽量」「費用」「工期」の面で有利とされています。昔は大型建築も木造が中心で、寺院やお城も木造で作られていました。

ところが現代の大型建築はRC造や鉄骨造が主流となり、すっかり木造は小型建築や住宅向けと言う認識が広まりました。 しかし今、再び大型木造建築に注目が集まりつつあります。 これからの時代を生き残る建築士として、木造の知識、大型木造建築物への参入、木を使った設計力の強化が求められています。 今回は「木造に強い建築士」の必要性と基礎知識をお話させて頂きます。

1.なぜ木造が見直されているのか?

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木造と言えば「建築費用が安い」「間取りの自由度の高さ」「調湿効果」と言ったメリットと、「耐久性・耐震性の低さ」「火に弱い」「シロアリ等の害虫に弱い」と言ったデメリットが一般的に認識されています。 RC造や鉄骨造に比べると軽量な木造は、基礎工事に掛かる費用が安く、住宅を中心とした小型・低層建築物に多く採用されています。

しかし大型建築物と言えばRC造や鉄骨造が現代建築物の主役です。この大型建築物市場に「木造」が主役の座を狙って成長しつつあります。

その理由の一つは平成22年に公布・施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の影響です。 この法律の背景には、戦後に植林された木が伐採期を迎え、効率的な消費を促す目的があります。森林資源を建築材料に利用するだけでなく、林業の発展や、自然災害の防止も兼ねて期待が寄せられています。 法施行の結果、公共建築物の木材利用は上昇しました。

しかしながら、実際に木材利用が伸びているのは、役場庁舎、学校、老人ホーム、保育所、病院、体育館、図書館、公共交通機関の旅客施設等の「低層の公共建築物」で「中高層建築物」の分野ではありません。 ところが今、この市場神話を大きく変えようとする動きが出てきています。



2.これからは木を活かせる建築士が必要

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木造は、複雑な上に独特の呼び名や収まりがあり、苦手とする建築士もいます。特に都市部ではマンションが住宅の中心となり、木造建築の経験が乏しい建築士も存在します。 また台風等の災害の多い地方では木造建築も少なく、木材を活かすためには建築士の育成が必要です。

木造建築物でなくても、内装材や外装材として木材を利用する機会があります。住宅であれば人気の無垢フローリング材やウッドデッキを思い浮かべるでしょう。 木材は人間の住環境と相性が良く、吸湿性や断熱性に優れ、高いリラックス効果をもたらします。頭痛やめまいを引き起こすシックハウス症候群対策としても天然木材の利用は高い関心が集まっています。

さらに今、国や自治体が国産木材の市場拡大に向けて様々な取り組みを行っています。公共建築物だけでなく、一般市場に木材の活用や普及を目指した動きが活発化しており、建築士であればこの動きには注目しておかなければなりません。


3.木材を活用した巨匠の作品

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木造建築物の巨匠と言えば、真っ先に思い浮かべるのが国立競技場を設計した隈研吾氏ではないでしょうか。 隈研吾氏は木を使った建築が有名で、従来の木造建築から逸脱した形態を様々な新技術を取り入れて実現しています。彼が生み出す新しい木造建築は、一般人が見ても新鮮な気持ちを抱くでしょう。

国立競技場以外にも斬新で注目すべき作品は多数あります。 「梼原 木橋ミュージアム」は日本古来の刎橋(はねばし)の構造をヒントにして設計された美術館です。短く積み木のような杉材が不安定さと斬新さを醸し出した見事な建築物です。
隈研吾氏が一躍有名となった作品と言えば「竹の館」です。竹の館は中国の万里の長城の脇に建つ小型のホテルですが、特徴のある竹の外壁が中国らしさを引き立て、中国でも人気のある作品です。

伊東豊雄氏の「みんなの森ぎふメディアコスモス」も見逃すことが出来ない木材を活用した素晴らし建築物です。岐阜市中心街ある図書館複合施設ですが、岐阜産の桧を三方向に丸く組み上げ、大きな曲線で構成された天井には圧巻の一言です。


4.大型の木造建築が新たな市場となる

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木造は小型建築物が多く、大型建築物でも「低層」が主軸です。大断面集成材を利用した木質ラーメン構造もありますが、ほとんどが3階以下の低層の建築物であり、中高層の大型建築物市場に木造が参入出来る余地がありませんでした。
この常識を覆したのが「CLT」と呼ばれる新技術の誕生です。

CLTは「Cross Laminated Timber」の略で、ひき板を繊維方向が直交するように接着した材料です。厚みがある大きな板材で、構造材として利用する事が出来ます。
CLTは1995年頃からオーストリアを中心に発展し、ヨーロッパ各国でも様々な建築物に利用されています。さらに驚くのはCLTを使った高層建築が建設可能と言う事です。 木材が原料なので断熱性が高く、軽くて施工速度も早く、耐火性能も優れるCLTは、新しい建築市場を作り始めています。

すでに海外では10階を超える高層建築物が登場し、木造ビルが今後の主役になる可能性を秘めています。 RC造や鉄骨造に比べて軽量の為、基礎工事の簡素化が可能です。さらにパネルを組み立てる工法の為に工期短縮も可能で、大型の高層建築物市場が大きく変わるかも知れません。 日本でこの中高層建築物市場に木造が進出できれば、1〜2兆円規模の新しい市場が誕生するとも言われています。


5.大型木造建築と建築士に求められるスキル

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木造ビルを次々に誕生させる為には、いくつものハードルを超えなければなりません。 すでに国内でもCLTを利用した高層建築の計画と施工が進んでいますが、さらなる普及の為には法的整備が必要です。特に密集市街地において木材を利用した高層非住宅建物は、CLTの普及促進に繋がる為、規格化や法改正に大きな動きが起こる可能性が高いでしょう。

大型木造建築物に対応出来る建築士や技術者の育成も必要となります。CLTは従来の木造建築とは異なる為、特殊なスキルを身に着けておかなければなりません。当然ながら低層の建物とは異なる法対処も必要です。


RC造では1カ月の工期を必要とする工事でも、たった1日に短縮することが出来るCLTは、今までにない市場を生み出す原動力として大きな期待が寄せられています。 構造体としてだけでなく、外装や内装にも今まで以上に木材の利用が進むでしょう。

これから先、この新技術CLTによって建築士も木の利用に積極的にならなければなりません。
新しい知識を蓄え、次の時代を作ることが求められます。


6.まとめ

いかがでしたか。これからの建築士に求められる木造のスキル。 国や自治体が積極的に木材利用を促す以上、建築のプロとしても避けて通ることは出来ません。 構造材として、内装・外装材料として、高層建築物の躯体として利用がますます拡大すると予測される木材だけに、今まで以上に木材や木造に対する知識を豊富に揃える必要があります。

特にCLTに関しては大きく注目されているだけに、勉強会等があれば積極的に参加しておくべきでしょう。 新たな高層木造建築市場への参入、そして木材を有効利用できるプロの存在と役割は重要です。もちろん、小型の建築物でのCLT木造の利用も増えてくるでしょう。
今後の市場の動きをしっかりと把握し、「木造に強い建築士」を目指しましょう。


著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める







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