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  • 掲載:2023年07月21日 更新:2024年03月08日SPECIAL INTERVIEW

「空間デザイン」の可能性を極める商環境デザインの歴史、伝統、文化を担うリーダーとしての役割

窪田茂様

日本から世界へ「空間デザイン」の可能性を極める

永きに渡りインテリアデザインの発展と文化育成に貢献し、現在の主な活動は、デザインアワード、シンポジウム、子供達にデザインを教えるSODA活動、各種出版を始め、全国の各支部では様々なデザインイベントや交流会など開催しているJCD日本商環境デザイン協会理事長を務める窪田さんにお話しを伺った。

った

窪田 茂 | Shigeru Kubota

1969年東京生まれ。 2003年、窪田建築都市研究所(有)を設立。 2023年4月、Degins JP(株)へ社名を変更。 建築からインテリア、プロダクトなど幅広く、 企画、プロデュース、デザインを行う。

商環境デザイン領域に携わるクリエーターが集うJCDとは

秋葉 本日は貴重なお時間ありがとうございます。早速ですが、まず「JCD」とはというところからお話しいただきたいのですが。

窪田 JCDは、日本商環境デザイン協会という名前の団体ですけれど、その名の通り、商環境、つまり店舗やインテリアなどのデザインに関わっている人たちが正会員となって集まっている団体です。特徴的なのはどちらかというと、フリーランスで独立をしているデザイナーが多いことですね。
ほかの団体ですと企業に属しているデザイナーも多いのですが、JCDはフリーランスが多い分、独特で個性的な人たちが集まる団体といえます。

秋葉 それでは、窪田さんが理事長として活動されている中でのJCDへの思い入れなどがあれば、お聞かせください。

窪田 JCDは1961年創立なので、今年62年目になりますか……。デザイン団体としてはかなり古い方であり、それだけずっと歴史が続いて来ているのですが、当時はインテリアデザインという言葉もなく、「店舗設計家」とか「店舗屋」などと言われた時代でした。
それでも、そのころから店舗や商業施設などにデザインが必要になり、それに応じて「日本店舗設計家協会」としてスタートし、今日まで、綿々と続いてきたというわけです。
今はグローバルな時代になり、この長い期間の間に商業デザインという分野が盛り上がり、主流となってきているということです。 そして、この流れを続けていくためのムーブメントとして、デザインの力みたいなものを世の中の人たちに伝えていくためにJCDという団体が非常に重要なポジションにあるのです。それを僕たちは、きちんと引き継いで歴史や伝統、文化みたいなものを未来に繋いでいくという役割を持っていると思っています。

JCD60周年記念式典+記念講演 一般財団法人 日本商環境デザイン協会

JCD60周年記念式典+記念講演 一般財団法人
日本商環境デザイン協会は2021年に創立60周年を迎え、
各地で記念イベントが開催された。


秋葉 SNSで、60周年のイベントなども拝見させていただいたのですが、すごい歴史の積み重ねがある取り組みなのだなと……。

窪田 そのころは、コロナ禍の影響でイベントは1年延期になりましたけれど。現在JCDという団体は全国で10支部あり、各支部に支部長がいるのですが、その支部同士の連携というのはそれまでやや弱かったのです。東京の僕たちがいるところが本部で、関東は関東支部があり、地方支部を合わせて全国に10支部あるのですが、コロナになって活動できなくなった分、オンラインでのミーティングや会議みたいなものができるようになったので、全国の支部の人たちとの連携も、実はコロナ前よりもかなりやり易くなりました。
JCD創立60周年の記念として、基本的な講演会やトークショーなどを中心とした60周年記念イベントを全国の各支部ごとにやってもらい、コロナになったおかげでという言い方は変ですが、それを全国でオンライン配信をすることができました。
今までは、距離の近い支部同士は割と仲良くできていたのですが、北海道と九州となると距離の問題でなかなか交流も難しかったですからね。例えば、それまでは支部長会議なども全国から皆が集まってやっていたのをオンラインで手軽にできるようになり、支部間の連携が上手く運ぶようになったおかげで、JCD自体もさらに盛り上がったような気がします。もともと、JCDのメンバーは皆で集まり、イベントで盛り上がるようなことが大好きだったので(笑)。

日本最大級アワード「日本空間デザイン賞」を創出

秋葉 そうですか、コロナの影響と言ったら語弊がありますが、全国の支部間の連携が深まったというのは、良い側面でしたね。それでは、次にJCDの活動について詳しくお伺いできればと思います。

窪田 はい、JCDの活動のメインは、やはりデザインアワードですね。
現在はインテリアデザイン系の団体であるDSAと組んで開催している「日本空間デザイン賞」という大きなデザインアワードの運営です。それまではJCDもDSAも長きにわたりそれぞれの名前でデザインアワードを開催していましたが、ある時、今日本を代表するデザインアワードとは何だろうかというのを考えたときに、DSAと組んで今までやってきたアワードを合併させて規模を大きくする案が浮上しました。
その方が日本にとっても海外の人たちにとっても、おそらく認知されやすくなるだろうということで、思い切って合併しようということになり、スタートしたのが「日本空間デザイン賞」なのです。
合併したことにより、「日本空間デザイン賞」はアジアで最大と言ってもいいほどの規模のデザインアワードとなり、ここで賞を取ればそれなりの権威があるということを、国内外に発信されるような仕組みづくりをしました。
その結果、今はドイツのiFデザインアワード(※)という世界3大アワードと言われるアワードとパートナーシップ契約をし、「日本空間デザイン賞」で入賞したら、iFデザインアワードの2次審査から参加できるという特典が付くようになりました。それで応募した人たちがドイツで多くの賞を取るようになり、日本のデザインを世界に届け、情報を発信していくことがJCDの大きな活動の一環ともなっています。

※ドイツ・ハノーバー工業デザイン協会が毎年主催する、全世界の優れたデザインを選定するデザイン賞。   アメリカのIDEA賞、ドイツのレッドドット・デザイン賞とならぶ世界3大デザイン賞の一つ。

一般財団法人 日本商環境デザイン協会(JCD)と一般財団法人 日本空間aデザイン協会(DSA)

2019年、一般財団法人 日本商環境デザイン協会(JCD)と一般財団法人 日本空間aデザイン協会(DSA)それぞれのデザインアワードを合併。日本最大級の空間系アワードが誕生した。


未来のデザイナーにデザインの芽を育む活動「SODA」

秋葉 アワードのほかには、どんな活動をされていますか?

窪田 それ以外にはいわゆるトークイベントやシンポジウム、勉強会などです。また、大きな取り組みとして、全国の小学校を中心に子供たちに店舗デザインの体験を通して、デザインの楽しさを伝える「SODA」という活動もしています。「SODA」というのは、Seeds of Design Awardの略で、子どもたちにデザインの芽を育てる意味を込めたものです。
SODAは正規授業枠内での授業として、JCDの正会員や、賛助会員の人たちが授業をやってほしいという小学校を訪れます。小学生たちに幾つかのグループに分かれてもらって、そのグループごとに自分たちが考える未来の店舗もしくは自分たちがやりたい店舗、こんなお店があったらいいなみたいなことをテーマに模型を作ってもらうんですよ。それを最後にプレゼンテーションしてもらってというところまで4時間ほどで……。
そこに使う材料というのが賛助会員から集めた、いわゆる本当に内装とか建築に使う材料を集めてきて、それを使って模型を作ってもらいます。壁や床はスチレンボードで組み立てて、中に貼る仕上げ材は本物の材料を使います。最後に照明で雰囲気を出して、プレゼンテーションしてもらう。それがすごく評判でずっと毎年やっている学校もあります。全国の支部の人たちの活動としても、大いに盛り上がっています。

秋葉 会員さん達と子供さん達との触れ合いも含めて楽しそうですね。そのほかの活動についても伺ってよろしいですか。

窪田 あと、シンポジウムはもう本当に今の著名な方々とか偉業をなされた方々、亡くなった方も含めて、その人たちをテーマでお話をします。これはこれですごく面白いです。
あとはJCDトークラウンジ、タカハシツキイチといって、若手を中心としたデザイナー達を呼んでトークイベントをやってもらいます。トークイベントや講演会等にあまり慣れていない人が多いのですが、優秀な方はたくさんいます。本当にみんな全然違う発想と考え方で、自分たちがこういうデザインをしているということをその場で発表してもらうのですが、三者三様な内容で本当に面白いです。
こうした若いデザイナー達をそうやって引っ張り上げて有名にして行くと言ったら大げさなのですが、そういう手伝いができるのもJCDのいいところだなと思います。
先日の展示会、ジャパンショップでもJCDはブースを持ち、「今注目される若手デザイナー20人展」と銘打ち、自分を売り出すきっかけ作りになればということで、展示スペースをつくり、トークイベントを提供しました。

子供たちに空間デザインを紹介しデザインの楽しさを伝える活動

Soda委員会では子供たちに空間デザインを紹介しデザインの楽しさを伝える活動をしています。


秋葉 若手のデザイナーさんが自身をPRするお手伝いをJCDさんにやって頂けるのはいいですね。次にJCDの会員についてですが、正会員と賛助会員の協力関係は今後どのように形になるとよいでしょうか。

窪田 賛助会員の方々はJCDの活動に賛同とサポートをしていただいており、本当に感謝しているのですが、願わくばもっともっと積極的に参加していただきたいと思っています。
もちろん、仕事として繋がるということもあると思うんですけれども、デザイナーの近くにいることでデザイナーがどんなことを考えているのかということを聞く機会というのは多々あるので、そういうのを聞くだけでも、本当は商品開発や何かのきっかけになるのではないかと思います。
それで、うまくいけば、そういう賛助会員の方々とJCDの正会員が組んで何か新しい商品を開発をする、ショールームを作ってブランディングをしていく、など、お互いにサポートし合うことで、win-winの関係というのが作れると思うのですよね。で、実際にそういうことをやっている人たちもいますし、僕もやっているんですけど、そういったことにうまく正会員を使ってもらえるといいなと思います。

PRODUCT OF THE YEAR

PRODUCT OF THE YEAR
賛助企業の優れた技術、デザインに基づく製品を、正会員の目で評価。受賞製品は、商店建築やNIKKEIDESIGNなどで掲載される。


優れた技術、デザインを備えた製品だけに与えられる「プロダクトオブザイヤー」

秋葉 JCDでは毎年、賛助会員さんに向けた「プロダクトオブザイヤー」を開催していますね。

窪田 そうですね。プロダクトオブザイヤーは、アワードとして優れた製品に賞を与えるものですが、賞を取れなかったとしても、賛助会員さんからすれば、PRをするチャンスが増える。正会員からすると、自分たちが知らない情報がちゃんと届く、とそんなふうに活用して頂ければいいかなと思います。

秋葉 JCDさんがこれから取り組もうとする活動などについてお聞かせください。

窪田 まずは、今までずっとやっている活動をこれからも継続していくこと、そして更に盛り上げて行く努力をすること。また、これまでは外部向けに発信して行くイベントなどが中心だったのですが、これからはもっと内部の人たちが楽しめる場づくりや会員同士のコミュニケーションを図るような改革にも取り組んで行きたいと考えています。そういう方向でJCD内部の承認は取り付けているのですが、皆さん普段の仕事を持ちながら、JCD活動をボランティアでやっていますので、仕事の合間を上手く利用しつつ少しずつでも確実に進化させて行くのが、僕の役目だと思っています。

インタビュー風景

カウンターテーブルに場所を移して、リラックスした雰囲気でお話を伺いました。


会社の成長に伴う社名変更で業務の枠も大きく広がる

秋葉 最近の社名変更について、その理由や経緯などについてお話しください。

窪田 今まで窪田建築都市研究所という名前でやっていましたが、創業から20年目という節目で、いろいろなものを変えてみよう、トライしていくぞと思った結果、そうなりました。窪田建築都市研究所は古臭いけど、分かりやすくて良かったのですが(笑)
それにうちのスタッフもだいぶ育ってきたし、あえて僕の名前で仕事をしなくてもいいくらいの優秀な子たちが出て来ていて、窪田という名前ももうそろそろ要らないかなと思ったのと、建築都市研究所という建築やインテリア、街づくりに関わるために付けた名称が分かり易くはあるけれど、故に業務の範囲が制限されてしまう。そんなことを何回か経験した上で、やはり名称を変更する必要があるという考えに至ったわけでして。
その一方で、不動産業をずっとやってみたいと思っていたのですが、その理由として、周囲の建築デベロッパーさん達と一緒に仕事をする中で、不動産屋さんの理論でもの作りが進められることに度々ジレンマを感じることがあった。それはそのデベロッパーが悪いのではなく、社会の構造に起因しているからであり、例えば何か売るとか貸すとかということになった場合は、何LDKにしなければいけないとか、駅から何分かなどが価値基準になっており、それに合わせて価格が決まったりするわけです。素晴らしいデザインのものが出来れば家賃がちょっと高くなったり、それを流動化すれば、今までよりも高値で取引きされる可能性もある。やはりデザインがいい方がいい。
それなら、自分たちがデベロッパーになって、自分たちの考え方で戦おうという風に思い、マイクロデベロッパーぐらいの小さい規模から始めるのはありなのではないかと……。やるなら、今しかないという思いでチャレンジしています。

建築設計のチャレンジ、デジタル化

秋葉 デジタル化への取り組みはどのように。

窪田 そうですね、リアルな業務である設計と不動産に加えて、今後はデジタル化にも積極的に取り組んで行こうかと考えています。世の中がどんどんデジタル化の方向に進んでいますし、設計業務自体も自動設計ソフトが生まれ、自分たちの設計図を描くという業務自体は減っていく可能性が大いにある。AIが入ってくると、もしかするとデザインという業務が奪われる可能性もあります。
でも、だからといって悲観していてもしょうがないので、3Dとかデジタルの方にトライする場所を作ろうといって作ったのが今回のデジタルデザインチームです。メタバースとかWEB3.0とかNFTもそうですけど、今年はAIが話題ですが、去年や一昨年ぐらいからそういう話題が多くありました。

そんな中、たまたま、メタバースの中でミュージアムを作りたいという話をチームが受けることに。メタバースという仮想空間の中に作るミュージアムなので、本物の建築を作るわけではないのです。だから何の法律も制限もないものを作るので、自由過ぎちゃう(笑)その自由過ぎちゃうものを建築事務所がいかに取り組むのかが課題なのですが、新たな考え方や要素などを取り入れる必要もあり、仕事としては面白くなってくるのかなっていう風に感じています。

だから、その設計と不動産とデジタルがうまく回るようになれば、色々なことにトライできるようになるので設計事務所単体としてやっているよりも、幅が広がるというのが一番ですね。窪田建築都市研究所という名前がDegins JP(デジンズ ジェーピー)になって、仕事の枠をぐーんと拡げることができそうです。

オフィス

Degins JPは池尻大橋駅から徒歩5分。オフィスの側には目黒川が流れています。


秋葉 分かりました。ところで、私ども「建材ナビ」では建築業界の更なる発展を目指して活動しているのですが、JCDさんとの新しい取り組みの方法などについてご意見を伺いたいのですが。

窪田 そうですね、やはり「建材ナビ」さんには、JCDが主催する、例えば「プロダクトオブザイヤー」、「SODA 」、各種イベントなどの活動へのご協力、情報発信などにご協力頂き、人々がお互いにふれあい、交流できる機会を創出して頂ければ、より良い関係性が生まれるのではと思います。
また、僕たちが、コンサルティングとして企業さんとやっているような製品開発などを取材し、レポートするといった事例が世の中にあふれてくれば、面白いことになるのでは、と思います。

秋葉 モノを創る側と、それを活用する側の交流がもっともっと広がって行くと、確かに新たな製品のアイデアや活用術なども広がり、面白くなるということですね。本日はお忙しい中、興味深いお話をお聞かせいただき、大変有難うございました。

窪田様の会社”Degins JP”の施工実績紹介


右写真)LATTE GRAPHIC 武蔵小杉
1Fの店内は、中央を横断するように約8mのキッチンカウンターを配置。
左上写真)HIYORIチャプター京都トリビュートポートフォリオホテル
1階共有部のエントランス、レセプション、レストラン・バー、チャプターファクトリーの内装設計を担当。
左下写真)Aoi Teien
和歌山市内の結婚式場。「歴史や伝統を尊重・継承しながら、新たな創造をしていく」ことを空間コンセプトとした。

~取材後記~

今回の取材で、生活に潜む身近なデザインを改めて考えさせらました。デザイン団体として個性豊かなメンバーが所属。近々他のJCDメンバーにも取材をさせていただく予定です。

取材:秋葉 早紀 建材ナビ広報担当

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窪田 茂 | Shigeru Kubota

1969年東京生まれ。 2003年、窪田建築都市研究所(有)を設立。 2023年4月、Degins JP(株)へ社名を変更。 建築からインテリア、プロダクトなど幅広く、 企画、プロデュース、デザインを行う。

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