大前裕樹 / 建築家 設計士インタビュー(住むほどに愛着と味わいの生まれる家づくり)| 建材ナビ

シリーズ建材ナビ
「住むほどに愛着と味わいの生まれる家」づくり



http://www.daiichijutaku.com



私たちが日々の生活を送る上での基本的3要素である「衣・食・住」のうち、最も時代の流れや変化に敏感な反応を示すのはもちろん衣であり、次に食となります。それらは一定のサイクルで流行と衰退を繰り返し、時には後退しながらも日々変化を遂げています。それでは「住」の場合はどうでしょう。衣・食ほどの短いサイクルではありませんが、「住」への認識もそれを取り巻く環境も時代の流れとともに確実に変遷を重ねて今日に至っています。然しながら、「住まい」という観点から考えますと「衣・食」のように使い捨てるわけにはいかない「住」については単なる流行や見た目の美しさ以上に大切な判断基準の線引きが必要となります。
 今回のSPACE DESIGNでは、長く住み心地のよい住まいを追求し、できる限りシンプルで飽きの来ない自然素材を取り入れるなど、「住むほどに愛着と味わいの生まれる家」づくりに取り組む建築のプロフェッショナル、大前裕樹氏にお話を伺います。
◆プロフィール

株式会社大市住宅産業 一級建築士 大前 裕樹

株式会社大市住宅産業 一級建築士
兵庫県生まれ
三重大学 大学院修了(建築学専攻)
設計事務所勤務を経て
株式会社大市住宅産業入社
一級建築士として住宅・店舗など様々な設計を手掛ける
デザイン・設計の相談をする
今回ご登場いただいた大前先生への相談はこちらから
◆主に手掛けられている建築設計分野・デザイン分野は何でしょうか?
■案件として多いのは、新築住宅や住宅リフォームです。店舗・商業施設の設計も好きな分野の一つです。変わったところでは、お寺の設計も手がけたことがあります。
◆今まで請けた設計・デザインの仕事の中で、興味が持てた・やりがいがあったなどと思われた案件はありますか?
■陶器の展示即売スペースの実施設計をしました。内装のリニューアルで、基本計画はある程度決まっており、2m角程度の約60のブースを施設内に組み込み、全体としては昔の横丁の町並みを再現するという計画でした。入り組んだ雰囲気を出すため、複雑な平面形状になり、コストが見合わないということで、ご相談をいただきました。工期短縮とコスト削減のため、材木をプレカットで発注。構造用合板に浸透性塗料塗りを基本仕上げとし、合板をカットせずに使えるよう、合板サイズを基本モジュールとして平面図を作りました。複雑な平面形のため、使い勝手の上で不備な点も後からいくつか出てきて、手直し工事をしたりしましたが、全体としては「来場されたお客さんに好評だ」という言葉を頂き非常にうれしかった案件です。リニューアル前は通常の「お土産販売所」であったため、お客さんの滞在時間が短く、すなわちそれは売上にも直結します。リニューアル後は売上も伸びたということを聞きました。

株式会社大市住宅産業

◆一般ユーザーさんに対して、良い家を建てるために設計士として何かアドバイスがあれば教えてください。
■計画段階から入居まで、何度も打合せを重ねる間に「これも、あれもしたい」と夢が膨らみます。家づくりにおいて、設計士の仕事は敷地条件や法的制限、コストの制約と折り合いをつけながら、本質的に何を求められているのかを引き出してあげる作業だと考えています。ですから、細かなことや無理かもしれないということでも、何でも設計士に話をしていただくことが重要だと思います。制約が多いほど、思いもしなかったアイデアやデザインが生まれるものです。建築の場合「絶対にできない」ということはそんなになくて、むしろ「考えたらできる」ことのほうが多いと思います。いろんな制約や施主の要望は、我々にとってはいわばデザインソースです。そういう意味で双方のコミュニケーションが非常に大切だと考えています。

  株式会社大市住宅産業

◆設計・デザイン上で今後こんな材料・素材・製品を使ってみたいと思われるものはありますか?
株式会社大市住宅産業
 

■できるだけ自然素材を使いたいです。新建材を使う場合は、もちろんF☆☆☆☆商品を使うので、健康面で実害があることはまず無いとは思います。それでも新建材ばかりで内装を仕上げた建物と、自然素材を多用した建物では、竣工時の体感に微妙な違いがあります。自然素材は工業製品と違ってばらつきやくるいが生じやすい特性があります。しかし、元来建築は、そのような不確定要素をうまく組み合わせて造られるものであり、また経年的に変化していくものだと思います。10年20年経った時に、単に「汚れている」と思われるような材料ではなく「味わいが出てきた」と思える材料を使いたいです。自然素材嗜好も一つの流行りと見る向きもありますが、私はこの流行りは良い傾向だと思います。飽きのこない自然素材とシンプルなデザインが味わいの出る家につながるのではと思っています。
 それと建物は必ず古くなるし、痛んでくるものだという使い手の認識も必要だと思います。車だってメンテナンスフリーというわけにはいかないですから、ご自身で出来るワックスかけや床下の点検など簡単なメンテナンスはしていただきたい。逆に言うと設計段階でメンテナンスのこともある程度頭において計画すべきでしょう。その上で愛着を持って使っていただきたいと思います。

◆設計士として建築に携わられて、仕事にやりがいや喜びを感じられるのは、どんな部分でしょうか?
■やはり竣工時に発注者の方に喜んでいただけた時が一番です。特に設計と施工がうまくかみ合って、「大工さんがよくやってくれた」などとチームとして評価いただけた時には本当にうれしいです。いくら詳細な図面を書いても、実際に建ってみないと実感できない部分もあります。出来た時に新たな発見をすることもあります。また、愛着を持って建物を使っていただいている姿をみたり、別のお客様をご紹介頂いたりすることも喜びを感じる瞬間です。
◆取材後記
10年、20年後にも快適に過ごせる、しかも古くなるにつれて味わいの出る家を目指す。頭では分かっていながらも、「住まい」の認識について改めて考えさせられた気がいたします。SIMPLE is BESTですね。初めて、自分の家を持ちたいと思う世代の主流は、30~40代だそうですが、大前先生のように、そうした施主と同年代の若い建築家の方々の感性に今後も大いに期待したいものです。

取材・文 建材ナビディレクター 中島