井上英勝 / 建築家 設計士インタビュー(多様な生活スタイルに対応する「理想の住まい」)|建材ナビ

◆プロフィール

株式会社クレアール 代表取締役
明治大学工学部建築学科卒業
平成6年、一級建築士資格取得
建築コンサルタントとして数多くのマンション、住宅、商業施設のリフォーム、コンサルタントを手掛ける。近年は「C・I(コンストラクション・インプリメント)」として、より深く建築に踏み込んだ立場で活躍している。

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クレアールデザインオフィス
◆社名である「クレアール」とはどのような意味なのでしょうか?
■CREARE(クレアール)はスペイン語で「創造する」を意味します。英語のCREATE(クリエイト)と同じです。建築という古くからの文化の中に、今求められる形態を創造する。創造することが使命であると考え、社名としました。
◆建築コンサルタントとしてまた、設計者として長年建築に携わって来られた井上先生ですが、最近は建築コンサルタントから、より深く建築に踏み込んだ「C・I→コンストラクションインプリメント」という立場でお仕事をされていると伺いました。「C・I」とは、どのような仕事なのでしょうか。また、コンサルタントと大きく異なるところはどのような点なのでしょうか?
■「コンサルタント」は、経営者的な立場にあり展開や方針についてアドバイスを行いますが、責任を負わない立場にあると考えます。しかし、「インプリメント」は経営者的な立場に居ながら、実際の交渉や事業の実務、組織への指導をクライアントと共に運営し行動します。つまり、クライアントの手となり足となって共に問題を解決して行くことが「インプリメント=道具・手助け」なのです。
具体的には、建築の企画から、設計、施工、監理、維持、運営の全てに対して携わることです。建築という専門分野全体を把握しているクライアントはほぼ皆無です。また、建築に従事する方でも、全体を把握し 代行できる方も皆無です。「インプリメント」はクライアントの立場で事業全体を監理し代行する仕事であります。

北面をグリーンで生かしたマンション

◆先生が建築に携わる部分で、最も大切なものや理念などをお聞かせください。
■今、最も大切なものはコミュニケーションであると思います。建築という事業を展開す る中で、人と人とのコミュニケーションは欠かせないものです。クライアントの気持ち、設計者の考え、施工者の立場、運営者の能力、それぞれの立場・考えを共有することが出来れば、皆一丸となって事業を進めることが出来ます。それぞれを繋ぎ止めるためには、通訳・説明・交渉することが重要であると考えます。 また、私の信念は「創造」です。温故知新の精神に基づき、旧来のモノと最新のモノを融合し、今、求められているモノを創りだす。基本に戻る。そのモノの由来を知る。そこに「在る」理由を確かめる。モノは考え方にも置き替えられます。私は現状を受け入れること、知ることが全ての始まりと信じています。
◆人々の生活と最も密着したアイテムのひとつが「住まい」ですが、現在の建築において、改善が必要な問題点などはあるのでしょうか。

■東京・大阪・名古屋などの大都市に住まうスタイルばかりが「住まい」のモデルではありません。地方や山間での「住まい」もモデルの一つです。建築における改善が必要であるのは、都会での「住まい」に限ると思います。睡眠時間や休息時間よりも仕事や遊戯の時間を優位とする環境において、ただ眠るために帰宅する狭い箱空間は「住まい」とは言えません。帰宅したくなる「住まい」を創造するべきです。多様な生活スタイルに適応できるフレキシビリティーに富んだ空間を企画・設計することが大切であると思います。


マンション居室リニューアルプラン
◆住宅建築において「住まう人」「建てる人」の双方が最も安心と満足を得るためには、これからの建築の在り方や、考え方などはどのように変化して行ったらよいのでしょうか。あるいは、井上先生の考える理想の住宅とはどのようなスタイルのものでしょうか。
■「住まい」のスタイルに拘る前に、「住まう人」は、生活習慣の見直しや生き方を再考することをお勧めします。「住まい」は人を形成するエレメント(要素)の一つです。自分がどのような人になりたいか、どう在るべきかを考え「住まい」を企画設計するべきです。また「建てる人」は、「住まう人」の考えや気持ちを理解し、具体的に表現しなければなりません。自分の考えを押し付けてはなりません。流行のデザインや仕様を取り入れる前に、家族の絆・健康を損なわない環境創りを主体とするべきです。クライアントと建築家がお互い信頼関係を築き、共に切磋琢磨を繰り返し、建物を創って 欲しいものです。
「人は家を作り、家は人物を創る」この言葉を忘れたくありません。
 三畳和室の癒し空間
◆取材後記
最近特に、様々な分野において○○偽装、○○改ざんなど企業倫理を問われる問題が多発するようになりました。元々は一連の耐震偽装という建築に関わる分野での不正が発端でしたが、今こそ全ての企業がこれらを他山の石とし、自社コンプライアンスの確立に取り組む努力が求められている時代だと思います。建築の場合は、その上でさらに「住まう人」と「建てる人」の信頼関係が何より大切であり、ともに切磋琢磨を繰り返してこそ理想の住宅が出来上がるという井上先生の持論を感慨深く伺わせて頂きました。家族の絆と健康を損なわない環境づくりという言葉に「理想の家」のイメージが、私の中にも形になって見えて来たような気がいたします。

取材・文 建材ナビディレクター 中島