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掲載:2023年08月08日 更新:2023年08月08日

解決策はあるのか?コンクリート価格上昇の原因と今後

コンクリート
現状、住宅やマンションなどの建築に欠かせないコンクリートの価格上昇は続いていて、いまだに出口が見えません。
それでは、コンクリートの価格上昇の原因はどこにあるのでしょうか。また、今後はどのようになるのでしょうか。

この記事では、コンクリートの価格上昇について、コンクリートの製造に触れながら解説します。価格上昇がどのようにして起こったかについても把握できることでしょう。



1.コンクリートの価格上昇

コンクリートタイル埋め込み
まずはコンクリートの価格上昇について取り上げます。

コンクリートの価格推移


一般財団法人・経済調査会では建設資材価格指数を公表していて、その中に生コンクリートについての調査結果があります。

その資料によると、2015年から現在までの生コンクリートの価格が概ね20〜200%程度まで上がっていることが分かります。
尚、この状況が変わって、下落に転じる気配はなありません。

材料費の価格推移


次に、コンクリートの材料ではどうでしょうか。
コンクリートの材料は骨材(砂利、砂)とセメントですが、この価格推移も前述の建材資材価格指数で分かります。
それによると、2015年から今までの値上げは次の通りです。

・セメント : 117〜168%
・骨材   : 100〜148%

材料全般が値上がりしていますが、セメントの価格上昇が著しいです。


2.コンクリートの製造について

セメント固め
次に、コンクリートの価格上昇を製造の観点から取り上げましょう。

コンクリートの材料について


前述のように、コンクリートの材料は骨材(砂利、砂)とセメントです。 この骨材は砂利も砂も海外からの輸入に頼っているケースが多いです。

また、セメントの製造工程には「高温での焼成」があり、大量の燃料が必要です。多くが石炭を燃料とし、これも海外からの輸入に頼っています。

セメントの製造方法


ここでセメントの製造方法について紹介しましょう。
セメントの製造工程は大きく分けて以下の3つです。

・原料を乾燥、粉砕、調合をする「原料工程」
・調合された原料を1450℃以上の高温で焼成し、クリンカと呼ばれるセメントの中間製品を作る「焼成工程」
・焼成工程で出来た中間製品(クリンカ)を粉砕し、石膏などを混合させる「仕上工程」

尚、石炭が必要になるのは2番目の焼成工程です。


3.価格上昇の原因は何か

セメントポンプ
それでは、コンクリートの価格上昇の原因はどのような点にあるのでしょうか。

石炭価格の高騰


まず挙げられるのが石炭価格の高騰です。 石炭の産地には中国やロシアなどがありますが、過去の日本のセメント製造にはロシア産石炭が使われていました。

しかし、ロシアがウクライナに攻め込んだため、石炭価格が高騰しました。それに合わせてセメントが値上がりしたのです。
尚、石炭はロシア以外の国から買えば良い…と考える人もいるでしょう。

しかし、仮に供給可能な国が見つかったとしても、為替の問題で採算が取れない、遠い国だと輸送費が上がってしまう…といった新たな問題が出る可能性があり、簡単ではないのです。

材料価格の高騰


先に挙げた通り、コンクリートの材料である骨材とセメントの価格も上がっています。これも価格高騰の要因です。

ところで、コンクリートには骨材として「砂」が必要ですが、近年、世界中の多くの地域で「砂不足」が叫ばれていることをご存知でしょうか。
実は、砂は天然資源の1つ。世界中の都市建設で砂が使われ、慢性的な不足が叫ばれています。そのため、コンクリートの価格上昇も慢性化しかねないのです。

燃料価格の高騰


コンクリートの製造にはエネルギー源として石炭が使われていますが、実際の製造を考えるならば、燃料は石炭だけとは限りません。
1つの例としては「電力」も多く使われていて、そのコスト転嫁がコンクリート価格に影響しているのです。

国内の電力事情を考えるならば、電気の価格上昇は難しい問題で、打開策は簡単には見つからないことが分かります。
電気に関係する燃料価格の面でのコンクリート価格上昇についても、対策は簡単ではないのです。

輸送コストの高騰


輸送コストの高騰もコンクリートの価格上昇の後押しをしています。
実際、街のガソリンスタンドを見ても、価格上昇は長引いていて、ストップする気配があまり見えません。

しかも、コンクリートに使う材料は大量です。例えば、都市部にある50階を超えるタワーマンションに使われるセメントや骨材などの量はどれくらいでしょうか。
一般の人には推測が難しいほどの量であるはずです。それがコストに影響しているのです。

国際政治の問題


前述の通り、コンクリートの価格上昇の背景には石炭や燃料の価格上昇が隠れています。そして、これはロシアのウクライナ侵攻が少なからず関係していると言えます。

例えば、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構の出している石炭資源情報では、ロシア産石炭の輸入量が、2023年4月に昨年同月比で80.8%減少したと報じています。
これはロシアに関係する国際政治の問題と無関係ではありません。

新型コロナの影響


もしかすると新型コロナの問題は「過去のもの」のように思えるかも知れません。今ではマスクを外している人も増え、死亡率が減っているからです。

しかし、新型コロナの問題が産業に残した爪痕は計り知れないほど大きなものです。原油の高騰はもとより、ある地域では工場が止まり、物流のルートも途絶えました。
これらの問題はコンクリート価格上昇に関係するものと考えられます。傷跡が消えるまでは時間が掛かるに違いありません。


4.今後の見通しについて

セメント施工
このように、コンクリート価格に関係する問題は国際問題も関係する大きなもので、いずれも難しいです。
それでは、この問題は今後どのようになるのでしょうか。

ここでは、各問題に対してのシナリオを挙げてみましょう。

石炭調達の問題


石炭の問題はロシアとの関係改善や別の調達先の発掘などが挙げられるでしょう。
しかし、仮にロシアとの関係が改善したとしても、ロシアが石炭を掘り尽くしてしまったならば、問題は解決しません。

ただし、石炭がセメント製造の熱源としてのみ関係するならば、打開策が見えない訳でありません。石炭使用量を減らすことが有効策となるのです。
尚、国内のセメントメーカーには、二酸化炭素排出の減少を目的に、石炭使用量の減少に取り組んでいるところがあります。

材料調達の問題


前述の通り、コンクリートは砂をはじめとした材料不足も大きな問題。しかも、打開策が見えないほどに困難です。
そのため、このままでは材料価格の高騰は更に進むとも思われます。

しかし、テクノロジーの進化が対策を産みつつあります。
例えば、東京大学は2022年8月に100%リサイクルが可能で、新たな材料を入れずに済むコンクリートの技術開発を発表しました。このような技術は期待できる材料調達の対策手段です。

輸送コストの問題


輸送コストも大きな問題ですが、政治の問題を考えると簡単ではありません。
また、産油国の資源枯渇もあり得ます。その場合はエネルギー価格も更に上がることでしょう。

しかし、脱炭素社会に向けた取り組みは多く、それが輸送コスト削減に繋がるものも少なくありません。今後の発展がカギとなるでしょう。


5.まとめ

コンクリートスラブの均し仕上げ
ここまで、コンクリートの材料や製造、そして価格高騰の要因や考え得る対策について取り上げました。価格高騰が現代社会を考えるならば、ある意味必然的であったのかも知れません。
しかし、記事の後半に記したように、対策がゼロではありません。社会情勢の沈静化も大切ですが、テクノロジーの発展も大いに期待出来るでしょう。




著者(田上 ノブ)プロフィール

▼略歴
建材メーカーに30年勤務、専門は開口部建材







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