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  • 掲載:2022年09月01日 更新:2022年09月01日

聞き上手で論理的な思考、そして確かな実践力をもつ設計者と一緒に建築することが大切です。

藤田 慶
株式会社フジタケイ建築設計事務所/KFA
藤田 慶(KEI FUJITA)
代表取締役/一級建築士/管理建築士/京都芸術大学、京都精華大学、摂南大学、非常勤講師
大阪府高槻市
<経歴>
1980年 香川県生まれ 大阪育ち
1998年 高槻高校卒業
2002年 京都大学工学部建築学科卒業
2005年 京都大学大学院 修士課程修了
2011年 フジタケイ建築設計室主宰
2018年 フジタケイ建築設計事務所に改称

<主な受賞歴>
2021年 京都デザイン賞
       京都大学建築学科100周年記念コンペ 実作部門 金賞
2020年 WOOD DESIGN賞
2020年 住まいのリフォームコンクール
2013年 住まいのリフォームコンクール
       環境・デザインアワード
       京都デザイン賞


教育施設に必要なことは子供たちの「能動的な行動」を育てる設計です。

教育施設を設計するときは、こどもや学生たちが、何かのアクションを自発的におこすきっかけづくりを意識しながら計画をしています。
施設側が「あなたたちはここでは、このようにして使ってください」と利用者の行動を規定してしまうのではなく、反対に何もないニュートラルな空間を用意するのでもなく、利用者の能動的な行動を誘発するきっかけづくりが、教育施設には重要だと考えています。

大学の食堂では、レンガ壁の高さに凹凸をもうけており、腰をかけたり、窓台のような場所に本や観葉植物を置いたりできるようなしつらえとしました。
学生さんたちが、このレンガ壁の面白い使い方を発見するようになれば、実際の街に出ても同じように楽しめることができるようになると私たちは考えています。

認定こども園では、階段を上階への動線という機能だけでなく、子供たちの遊び心を刺激するよう、小さな丘のような場を設けました。
設計段階では安全性を考えもう少し緩くすることも検討したのですが、園の先生方からもう少し勾配をきつくした方が子供達にとって楽しく感じるのではないかというご意見がでて、今の勾配になりました。

ここで過ごした子供たちや学生さんたちが、公共空間の楽しさを発見し、能動的に楽しみながら成長すれば、社会も豊かになるのではという希望をいただいて設計しました。




「ストーリーを持つ建材」を

「建材」の内容でお話しすると、弊社は京都で仕事をさせていただくことも多いのですが、西陣織の会社さんに襖紙を作っていただいたり、施主のご兄弟の陶芸家さんに洗面器をつくっていただいたりしたことはあります。
排水口の金物を取り付けられるように、洗面器の底に穴をあけるのですが、焼き物なので焼いている間に大きさが変化するようで、窯から出してみないと正確な穴の大きさがわからないといわれてドキドキしましたが、案ずるより産むが易しで、結果的にはうまくいきました。

このような普通既製品をつかうところに手作りの工芸品をつかったのは、それぞれのクライアントの家にとってその建材を使うストーリーがあったからです。
特定の建材を適材適所に使うことで、個人や家族などの組織、地域などが過去から現在にいたるまで紡いできた物語を未来へ受け継いでいけるのではないか、というようなことを考えています。

こうした設計者が考える想いは、形や型となって建築にあらわれますが、そうしたアイデアを、きちんと施主に伝えることが大切で、単なる表層的なデザインとは少し違う建築的な論理も、熱意をもって伝えれば、一般の人にも伝わると思っています。




情報が簡単に手に入る今の時代、専門家としての「統合力・実践力」が問われています。

ネット社会になり沢山の情報が簡単に手に入る時代になり、勉強熱心な施主の方も増えています。私たちも日々、様々な情報を収集しつつ研鑽を積んではいますが、全てのキッチンメーカーさんの最新機種の情報を知っているわけでもありません。そうした個別具体的な情報について、こだわりのあるお施主さんから教えていただくことは少なくなく、反省をしつつも素直にありがたいとも思っています。

一方、私たちは専門家として個別具体的な情報を統合し、モラルや経験に基づきつつそれぞれの施主に相応しい構想を一緒に考えるようにしています。インプットした多くの情報を統合してアウトプットの実践につなげるのが、私たち専門家の職能だと思っています。施主から難しい注文や無理な注文がくる場合は、与条件の整理や情報の統合ができていない場合が多く、それはある意味当然だと考えています。

そこで私たちは専門家かつ実践者として、情報の整理や状況の構造化を、できるかぎり紙面で説明するようにこころがけています。そして各論の優先順位などについて、施主と一緒に考えるようにしています。
一般ユーザーの皆さんは、各論を素直に設計者に伝えて、情報の統合(すなわち設計)は設計者に任せた方が結果良い家になることが多いと思いますし、任せるに足る、聞き上手で論理的な思考と確かな実践力をもつ設計者を選ぶことが大切だと感じています。




「つながり」に溢れる昨今、住宅は「ひとりの時間」を守る最後の砦です。

InstagramやPinterest等のSNSには美しい空間の画像が溢れていますが、こうした情報が世の中に広がる昨今は、住宅業界の質が向上していると思っています。

私たち住宅建設に携わる者たちは、こうしたトレンドもチェックしておかなければ、世の中のスピードから取り残されてしまうという危機感はもっていますが、今まで建てる側・販売する側の論理(効率重視や販売しやすさなど)で作られていた多くの住宅や集合住宅が、今後住う側の立場(実際の住み心地)で建物が建てられていくという流れになれば、住宅業界としては喜ばしいことだと思います。

一方で、こうしたデジタル社会の環境が世の中にどんどん溢れてくると、逆説的に、本物であること、普遍的であることが求められる社会に少しずつなっていくとも思います。
家が古くなればなるほど美しくなり、愛着がわくといった意識が少しずつ世の中に受け入れられ始めていけば、成熟した社会になっていくと考えています。

またSNSやスマートフォンなどの発達により、私たちがひとりでいる時間がどんどん少なくなってきています。家の中にいても仕事のことを考えていたり、リモートワークで仕事をしたりと、どんどん私たちの個人のプライベートな時間や空間が「つながり」によって侵食されつつあります。
こうした状況下で住宅は、プライベートな時間や空間を守る最後の砦といえるかもしれません。

「つながる」ことから疲れた個人や家族が癒されたり、リラックスできたりする物理的な場所が住宅や庭に今まで以上に求められるようになる気がしています。




ARCHITECT
設計士インタビュー
シーズン毎で取材させて頂いている設計士へのインタビュー記事です。2007年秋にスタートして四半期毎に新しい記事の更新をしています。住宅、集合住宅、商業施設、公共施設など設計士の体験談をお楽しみください。
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