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掲載:2021年06月09日 更新:2021年06月09日

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!
すでにご存じの方も多いでしょうが、昨年から木材価格が世界的に高騰しています。

市場の木材供給が不足し、価格が高騰する「ウッドショック」は、日本にも大きな影響を与えています。 特に今年の3月以降の価格の上昇が著しく、先の見えない不安感が漂っています。

ウッドショックの影響で、特に木造住宅に利用される構造部材の確保が非常に難しくなってきています。

なぜウッドショックが起きたのか、いつ収まるのか、現状をどう対処するべきかなどについて言及します。 厳しいウッドショックの状況を乗り越えるためのヒントとして活用ください。

1.木材流通に大きな危機が到来

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

木材価格が高騰する「ウッドショック」の問題は日本だけでなく、世界的に深刻な問題になっています。

アメリカ・シカゴの取引所では、昨年2020年5月に1000ボードフィートあたり353ドルであった木材価格が、2021年5月には1327ドルまで上昇しています。
わずか1年で4倍近くの驚異的な価格高騰です。 アメリカの建築会社経営者でも「今まで経験したことのない急激な値上がり」というほどの驚異的な短期間の高騰です。

日本国内でもウッドショックの影響は深刻化しており、「木材が届かないので着工を延期した」「工事請負契約後の損失が数百万円に達した」といった悲鳴が各地で上がっています。

「ウッドショック」が起きるのは今回が初めてではありません。 1992~93年や2008年のリーマン・ショック直前にもウッドショックは起きています。

前回のウッドショックは、リーマン・ショックの引き金になった「サブプライムローン」が発端になっています。 サブプライムローンは低所得者向けの住宅ローンの名称で、当時好景気に沸いていたアメリカでは2000年ごろから住宅ブームが起きていました。
低所得者の住宅需要が急激に増え、木材の争奪戦が始まります。 この影響によってウッドショックが起こりました。

そして3度目となる今回のウッドショックは、さらに強い価格上昇を引き起こしています。
なぜここまで短期間に木材価格が高騰したのでしょうか。

木材に限らず、製品などの価格が高騰する理由は一つしかありません。
供給量を遥かに超える需要があるためです。
限られた木材供給量をめぐって、現在熾烈な木材獲得合戦が世界的に繰り広げられています。


2.コロナショックによる環境の激変

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

世界的に深刻なウッドショックが発生した原因は2つあるといわれています。

一つはアメリカ国内の新築住宅需要の増加に伴う木材価格の上昇です。
もう一つは、中国の経済回復などに伴う木材需要の増加です。

新型コロナウイルスによる感染症の拡大で、アメリカは2020年4月まで住宅着工件数が落ち込んでいました。 そのため木材価格は低迷していたのですが、過去最低水準といわれる住宅ローン金利が発端になって住宅ブームが起こりました。

さらにテレワークが普及・定着したため、都市部の住宅から郊外の広い戸建てへと引っ越しする人が急激に増加しました。 日本の住宅市場とは異なり、アメリカの住宅売買のメイン商品は新築ではなく中古物件です。

ところが中古物件の数には限りがあり、急激に増加する需要には追いつけず、新築住宅需要を一気に押し上げることになりました。 今まで何もなかった未開の土地に、新築の木造住宅が大量に建てられていきました。 この急激な住宅需要の増加によって、アメリカの木材価格が高騰し、世界の木材需要を引き上げてしまう形となりました。

さらにコロナ禍で経済活動をいち早く再開させた中国の景気回復による貨物が急増し、世界的に海上輸送用コンテナが不足したため、さらに輸入木材の価格を高騰させる要因となりました。


3.国産木材市場にも大きく影響

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

世界的な木材価格の高騰は、当然ながら日本にも大きな影響を及ぼしています。
特に日本は外国産木材への依存が非常に強い国の一つです。

しかし、国土の7割弱が森林といわれる日本は世界でも有数の森林大国です。
国土面積に占める森林面積を「森林率」といいますが、日本の森林率は先進国の中でフィンランドに次ぐ第2位で、世界の森林率の平均である約31%を遥かに凌駕しています。
資源のない国と酷評される日本ですが、実は森林資源は潤沢にあり、使われず放置されているという悲しい現状があります。

国産木材を使わず外国産木材を大量に輸入する理由の一つは、外国の木が日本の木より安く手に入るようになったからです。

国産木材の自給率は3割程度であり、実に国内の木材需要の7割近くを輸入に頼っている状況です。

ちなみに輸入元は、カナダ・ロシア・スウェーデン・フィンランドの4国が中心で、総輸入量の約7割を占めています。 外国産木材の輸入に依存が高い日本の木材市場は、今回のようなウッドショックが起きると大きなダメージを被ります。

輸入木材が不足すると、国産材への切り替えが加速しますが、すでに国産材の工場はフル稼働状態となっていて、供給が追いつかずに国産木材の価格上昇も引き起こしています。

すでに販売を断るケースも増えているようで、木材の獲得が非常に厳しい状況になっています。


4. 住宅市場に急ブレーキがかかる

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

木材価格が上昇すると、大きな影響を受けるのが住宅や家具の市場です。
特に外国産木材への依存度が高い現代の住宅市場は、今回のウッドショックによる影響が各所で現れています。

今回のウッドショックには国も危機感を抱き、木材加工や住宅メーカーの業界団体など対して、必要以上の木材の買い付けや過剰な在庫を抱えないように要請していますが、先行きの見えない状況に対して不安は広がるばかりです。

もっとも不足しているといわれるのが梁(はり)に使われる集成材と製材です。

梁にはアメリカ産の「米マツ」という木材が頻繁に利用されますが、国産材では代替することができず、悩みの種になっています。 ベイマツが利用されるのは価格だけではなく、強度が重要なポイントです。 在来軸組工法だけでなく、2×4(ツーバイフォー)でも多用されるベイマツの不足は、非常に深刻な問題となっています。
ちなみに梁材の国産材使用率はわずか10%、柱材は42%で、構造用合板は81%と比べると著しく高い輸入木材への依存度です。

ウッドショックの影響で骨組みになる肝心の木材が手に入らず、完成の見通しが立たない現場も増加しているようです。 木材価格や住宅価格の上昇以上に、工事の遅れや材料不足が危惧されています。


5.木材不足をどう対処するべきか

木材価格が急上昇中!今、木材市場で何が起きているのか?!

木造住宅に多用されるベイマツは、北アメリカ最大の蓄積量を持つ針葉樹です。
材質は強く、曲げ強度に優れ、木造建築の横架材を中心とした構造材に最適な材料です。

今回のウッドショックによる木材の供給不足と価格上昇はしばらく解消しないといわれています。
住宅建築には欠かせないこのベイマツをどのように代替えするのかが、今回のウッドショックのもっとも重要な課題の一つです。

木材不足に対処する方法はいくつか考えられます。


・柱、梁などの構造材から下地に至るまで、すべての材料を国産材にする。
・強度が必要になる梁材に鉄骨などを代用する。
・CLTや国産集成材などを利用する。
・設計時点から梁材を少なくする計画をする。


以上のような代替え案が考えられますが、大型の梁などの利用量をできるだけ少なくする設計が重要です。

上下階の柱をできるだけ一致させることにより、横架材を補足することが可能です。
使用材料の現象や価格の低下だけでなく、耐震強度の向上も同時に期待できます。

国産材の生産を大幅に拡大させる案もありますが、実際問題として容易ではなく、逆にウッドショック収束後の国産材の余剰在庫問題になる可能性があります。
設計段階での木材利用量の減少を目指した対処が現実的で、且つ理想的でしょう。


6.まとめ

ウッドショックは未だ解決の目処が立っていません。

アメリカの低金利住宅ローンによる住宅市場は好況で、新築ラッシュが続く予想です。
しばらくの間は輸入木材の供給不足が続く可能性が高く、今後の国内住宅市場への影響が心配されています。 現在建築中の住宅は大丈夫でしょうが、今後の着工には注意が必要です。

住宅自体の価格高騰だけでなく、工期の遅れによる影響はさらに深刻化しそうな予測です。
住宅メーカーやビルダーがどれくらいの木材ストックを持つかによって条件は異なりますが、可能な限り設計変更や仕様変更を加えながら、知恵を絞って厳しいウッドショックを乗り切る以外ありません。

外国産木材に大きく依存してきた日本の木材市場に、大きな転機となる課題が訪れたのかも知れません。




著者(田場 信広)プロフィール

・一級建築士、宅地建物取引士

・建築設計、工事監理、施工(大工)、戸建て木造住宅の新築からリフォーム全般、分譲マンションの内装改修、マンションの大規模修繕工事の設計・設計管理、警察署の入札仕事や少年院の特殊な工事も経験

・某資格学校にて2級建築士設計製図コースの講師を6年務める







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